速い!それがまず感じる事!

今回は、2011年11月にリリースされた「Vegas Pro11」レポートをお伝えしたいと思います。とかくバージョンアップするとその性能への期待感が高まりますが、そのほとんどが意気消沈してしまう結果に…というのはよくある話。今回の「Vegas Pro11」はそんなこともあり、バージョンアップをためらいながらも、思い切って最速のマシンを組み上げ、「Vegas Pro11」を試してみました。

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*サイトより抜粋

SonyのPRではOpenCL対応とのことでグラフィックボードのGPUと連動して格段に処理が高速化したということでした。また、XDCAM EXへのレンダリング速度が2.5~3倍、AVC(H.264)1080pへのレンダリング速度が1.9~3.9倍の速度になるなどと強気なデータをWebに載せていましたので、半信半疑でトライしてみました。何の気なしに30分尺のXDCAM EXの映像データを納品先のチェック用にWMVに変換してみたことろ、今まで使っていた32bit版のパソコンと「Vegas Pro10」の組み合わせで40分かかっていたものが、64bit版の新しいパソコンにインストールした「Vegas Pro11」ではたったの10分で処理できてしまったのです。

約4倍の速さです。2~3倍の高速化を実現しています。その後、XDCAM EX→HD非圧縮やXDCAM EXデータに様々なテロップやエフェクトを載せたタイムラインを書き出しても今までの編集2~3倍は早くなりました。驚きの一言です。

*サイトより抜粋

さらに、プレビューの速度も大幅にアップ。メーカーのデータでは2.8~4.3倍と発表しています。これも実際に試してみましたが納得の速度に向上しています。7200回転のシングルハードディスクに入れたデータでSATA転送しても、今までコマ落ちしまくっていた3D映像新コーデックの”Multiview Video Coding(MVC)”などは一切コマ落ちせず、MVCネイティブデータがリアルタイムでブレビューできるのです。

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それは、タイムラインに載せたデータをリアルタイムに3Dモニターで3Dでプレビューできるということです。実はこれはすごい事なんです。今まで3Dの完パケは大体ポスプロに入らないと仕上げができなかったのですが、「Vegas Pro11」では最低でも3D映像をブルーレイに焼いて完パケを納品できるレベルになったということです。また、編集の体感速度としては今までのパソコンでいじっていたXDCAM EXの編集に近い感覚がありました。

MVCとはAVCの拡張規格でMultiview Video Coding(MVC)コーデックのことです。左目用と右目用の映像を、これまでの2D映像の50%増程度のデータ量でLRの視差のあるマルチ画面を1つのデータ収録する画期的な規格です。そのぶん大変圧縮率が大きく、デコードしながらのプレビューはいままので「Vegas Pro10」のプレビューは約3秒程度。それ以降は画面上フリーズするといった感じで、「Vegas Pro10」の最大の売りである3D編集は現実的には不可能だったのです。それが今回の「Vegas Pro11」では可能になりました。

感覚的にパソコンのスペックは、最低でもWindows7 64bit版を使用し、CPUはIntel Corei5以上、メモリは8GB以上、GPUは1GHz以上のスペックが必要な印象です。なお、今回私が作ったPCのお値段は約20万円でした。Macと違ってWindowsはこういう利点があります。ただ既製品となると、私が組んだパソコンよりもっと高くなります。PCを自分で作って編集するノウハウがないとなかなかこういった感じにはいかないと思います。

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※主なスペック

  • Windows7 64bit版
  • マザーボード:ASUS P9X78
  • CPU:Intel Corei7-3930K
  • 搭載メモリー:32GB
  • グラフィックボード:NVIDIA GeForce GTX580

さらに補足です。ためしにシングルハードディスク上でHDの非圧縮データを走らせてみました。これはやっぱりコマ落ちしたのでSSDと2つのハードディスクで組んだストライピングのRAIDにデータを載せてプレビューしてみました。なんとこの状態なら、HD非圧縮がコマ落ちせずリアルタイムに動くのです。いままでPCのノンリニア編集でHDの非圧縮はまともに動きませんでした。これができるということはデータが絶対的に多くなり、何テラのハードディスクが必要になるんだっていうことを省けば、画質を落とさず高画質での編集が現状のPCで可能になったということです。

業界のトレンドで今後出てくるであろう4K映像に関しても、実際には検証していませんが、PC編集で何とかなってしまいそうな、そんな気がします。もう一つ補足です。HD非圧縮データをWindows Media Playerで実走させてみました。リアルタイムにプレビューしてしまいました。ということはPCスペックだけで何とかなったということですね。マシンは速いに越したことがないという結果でした。

ディレクター人生を決定づけたソフトに乾杯!

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「Vegas Pro」は私の人生を変えてくれたソフト。今後も愛着をもって「Vegas Pro」と共に映像ディレクターを続けられるところまで続けていきたいと思っています。最後に「Vegas Pro」の今後の可能性について少しお話ししたいと思います。

それは3D映像の方向性の話です。現状、映像編集ソフトでMVCを使って編集できるソフトは「Vegas Pro」しかありません。それって実はすごいことなんだと思っています。しかし、Inter BEEで聞いた話では3D映像の勢いがなくなって4Kが中心になりつつあるとのことでした。これはちょっと残念です。映画やイベント映像といった公共上の映像では3Dはこんなものなのかもしれません。

しかし、3Dテレビ普及により、実はもっと3D映像に関して本当のニーズがあるのかもと私は思っています。そのヒントは映像による疑似体験だと考えています。私が最近の仕事で3D映像を撮影し、自宅の3D映像でプレビューしていたときの話です。3Dテレビとの距離をつめてみました。メーカーが推奨している距離よりもっと近く、視差が破綻しない範囲で視界いっぱいがモニターになるぐらいの距離で3D映像を見てみたのです。

それはちょっと驚きでした。感覚的には3Dテレビの中にもう一つの空間があるそんな疑似体験的なものを感じたのです。とかく現状の3Dは飛び出すとか、浮いているとかの演出や、作品によってはただのレイヤーの重なりだけといったネガティブな見方が一般化しつつあるような気がします。ただこの体験で新たな可能性を感じ、これからの3D作品はテレビの中にあるもう一つの空間を楽しむといった手法の演出が楽しめるような気がしたのです。

例えば、視界が画面いっぱいなら、人は画面全体を見ようとはしません。そこに映し出された人やもの、自然にそこに着目します。映画なら主役に目がいってしまいますが、主観性をより濃くした空間なら空間の中の様々なものに視点がいきます。まだ漠然としていますが、私の考える3D映像はその空間の中でいろいろなものを見て楽しめるようなものに挑戦したいと思っています。

極端に言ったら、グーグルマップを拡大して出てくる路上映像が3Dになっていて、行ったことのない場所に実際に行った感覚になる3Dだったり、目の前に実際に人が存在しているように見えたりする作品。そんなことが可能になるにはもっともっと経験値とデータが必要ですが、「Vegas Pro」で簡単に3D編集ができ様々な映像演出が誕生していく中でそんなデータが収集できるかもしれません。どんなことができるか、「Vegas Pro11」を使いこなすことに対してわくわくしています。

今まで3Dはお金がかかるもの。かけた割には費用対効果が得られない。そんな認識が固定観念になりつつありますが、「Vegas Pro11」で3Dを体感すると、より性能のいい二眼カメラで撮影し「Vegas Pro」で簡単に編集を繰り返す過程で、3D映像の新たな可能性を映像化できるような気がするのです。

私は「Vegas Pro」で人生が変わりました。もちろん今後もその可能性にかけてみたいと思っています。PCノンリニアの3D映像作家は現状あまり存在していません。その特異性をアピールして新しい作品を作り続けていきたいと思っています。そして「Vegas Pro」の輪をもっと大きくして、映像の楽しさを共有していき、皆さんと「Vegas Pro」の話がどんどんできる―そんな環境作りをしていきたいと考えています。

WRITER PROFILE

坪井昭久

坪井昭久

映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。