変わりゆくカメラの仕様と分類

デジタル一眼による動画撮影は、最近のトレンドとなっているが、そもそもの始まりは、DOFアダプターであったり、RED ONEだったといえよう。これらは、身近なビデオカメラを使って劇場で上映可能な作品を製作しようという流れの延長線上にあるもので、国内では1998年にDCR-VX1000によって撮影された「ラブ&ポップ」という劇場公開映画あたりが火をつけたといえるだろう。当時はSDだったがデジタル記録(DV)に変化。さらに今日ではHDが標準となり、解像度だけでなく、よりフィルムに近い質感が求められるようになった。ガンマや毎秒コマ数、ボケなどフィルムで撮影した映像に近づきつつあるが、撮像素子のサイズに起因するボケに関しては、今まではビデオカメラでは解決することができないのが現状だった。

デジタル一眼に動画撮影機能が搭載されることで、ボケの問題だけでなく、自由にレンズを選択できるというメリットから、動画撮影用に作られていないにもかかわらず、デジタル一眼による作品製作が盛んになったといえるだろう。こうした現状の中、デジタル一眼をビデオカメラのスタイルにしたようなビデオカメラNEX-VG10が発売になった。今回も例によってファイルベース収録カメラシリーズとして取り上げたい。異論がある方もいるだろうがVG10が何者なのか?これ非常に難しい分類なのである。その理由はぜひ以下を読み進めてほしい。

ソニーNEX-VG10

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機能・特徴

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レンズ交換可能なビデオカメラキヤノンLX-1

民生用のビデオカメラでレンズ交換できるものは過去にも例があり、アダプター使用で一眼レフカメラのレンズが使用できるカメラも発売された。代表的なのはキヤノンLX-1で、ソニーやキヤノンなど4社ほどが共同で規格化したVLマウントを採用したHi-8フォーマットのカメラであった。ただ、当時の撮像素子は2/3インチで、現在主流の1/3クラスの撮像素子よりは大きいものの深度の浅い独特の映像を撮影する事はできなかった。

もっとも、この時代はSDのしかもアナログ記録だったので、ボケがどうのというよりシャープな画像が好まれたし、一眼レフカメラ用のレンズはそのほとんどがビデオカメラに装着すると望遠レンズとなってしまった。特に、撮像素子がAPSサイズほどのデジタル一眼はなく、35mmフルサイズが一般的で、レンズもそれに合わせたラインナップだったので、なおさらだ。

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ビデオカメラでありながら、デジタル一眼と同等のAPSサイズの撮像素子を搭載

ディスプレーには、アサインされた機能に応じた表示が画面内に現れる

NEX-VG10は、ビデオカメラでありながら、デジタル一眼と同等のサイズの撮像素子を搭載しており、デジタル一眼のレンズを使っても35mmフルサイズのカメラで約1.6から1.7倍、APSサイズのデジタル一眼では、ほぼそのままの画角で撮影することができる。

NEX-VG10は、Eマウントというフランジバックの短い規格を採用しており、Eマウント用に3本のレンズがラインナップされている。また、マウントアダプターLA-EA1を使用することで、同社の一眼カメラ用に開発されたAマウント交換レンズを装着することが可能だ。オートフォーカスが使えないというハンディはあるものの、豊富に揃ったレンズ群を自由にチョイスできるのは、作品製作に幅を持たせることが可能になったといえる。

外観・操作性

一般の小型ビデオカメラは機動性を重視したスタイルとなっており、ゲインアップやシャッター、ホワイトバランスなどユーザーが使いそうな機能ボタンやスイッチなどが所狭しと並んでいる。NEX-VG10の外観はハンドヘルドの小型ビデオカメラだが、こうしたボタンやスイッチなどはほとんどなく、すっきりしたスマートなデザインとなっている。

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こうした操作に関わる部分で、従来のハンディカムなどハンドヘルドの小型ビデオカメラと同様な操作性を期待すると裏切られるだろう。NEX-VG10の主な操作は、LCDパネルを開いたところにあるスイッチで行うようになっており、中央のジョグホイールで設定をする。このホイールで設定できる項目はメニューの他、周辺にあるホワイトバランス(WB)、ゲイン(GAIN)、フォーカス(FOCUS)、露出補正ボタンで機能をアサインするようになっている。ディスプレーには、アサインされた機能に応じた表示が画面内に現れる。

   
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このような操作性を不便とみるかどうかは意見の分かれるところだが、カメラマンは作画に専念し、細かな操作はカメラに任せるか予め設定しておきワンショットずつ設定して撮影していくというスタイルで、ニュースや報道用のカメラとして使われることはあまり想定していないようだ。もっともこうした操作系はデジタル一眼NEX-5とかなり共通しており単に流用しただけという見方もできなくもない。

NEX-VG10の魅力は、APSサイズの撮像素子を採用していることで、一般のビデオカメラでは得られない浅いピント範囲が得られることだ。加えてレンズ交換が可能で、すでに豊富なラインナップがある一眼レフカメラαシリーズのレンズを使うこともできる。ツァイスやクックのシネレンズのようなセットがこうしたラインナップからチョイスできるかもしれない。

浅いピント範囲だけを求めるのであれば、1/2や1/3型の撮像素子でも望遠で撮影すればすむことだが、室内のように限られたスペースの場合では引きがとれないなど現実的ではない。さらに、パースペクティブ(遠近感)の問題もあるので、やはり大きな撮像素子でないと簡単には解決できない問題だ。パースペクティブは、レンズの焦点距離で決まってしまい、ピント範囲のように絞りで調節したり、編集時にどうにかすることもできないからだ。

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左はNEX-VG10で撮影したもので、右はEOS 5D Mark IIで同じ絞りで撮影したもの。いずれも被写体、背景、カメラの位置関係は同じにしている。背景のボケだけでなく、撮影範囲(マス目の数)が異なる点に注目してほしい

(クリックすると拡大します)

パースペクティブの違いは、被写体やカメラの位置関係を同一にした場合、背景の映る範囲が異なり、これが遠近感として認識される。作品製作を行う上では被写体がおかれている状態や位置関係等の重要な要素となるわけだ。

性能・画質

 
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ビル街の実写を撮影。左中央のビルの壁面に虹色の偽色が発生しているのがわかる。右の写真は少しズームアップしたところで、同じビルの壁面はちゃんと描写されている

NEX-VG10は、HDMI出力装備である。そのため、波形モニターやベクトルスコープによるチェックができないので、チャートの撮影は見送ろうと思っていたのだが、ビル街の実写を撮影したところ虹色の偽色が発生したようなので、確認のためサーキュラーゾーンプレートチャートを撮影してみた。

結果は意外なほど偽解像が多くみられ、当初水晶フィルターの特性の問題かとも思ったのだが、どうやらそうではないらしい。というのは、比較のため動画撮影可能なデジタル一眼キヤノンEOS 5D Mark IIでも撮影したところ同様な結果になったからだ。すでにこの段階ではNEX-VG10を返却してしまった後だったので、NEX-VG10でスチール写真を撮影できなかったが、EOS 5D Mark IIでのスチール写真ではこうした偽解像は全く見られず、カメラ内でHD解像度に変換するデジタル処理の部分で発生しているものと思われる。

 
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  左はNEX-VG10で撮影したサーキュラーゾーンプレートチャート。右はEOS 5D Mark IIのスチール撮影のチャート画像。いずれも分かりやすいように中央を拡大表示している。ちなみにEOS 5D Mark IIは、35mmフルサイズで約2110万画素CMOSセンサーを採用。映像エンジンはDIGIC
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Photoshopなどでリサイズしても偽解像が発生してしまう

一般のビデオカメラではHD解像度に合わせた撮像素子と水晶フィルターを組み合わせており、偽解像が出ないように設計されているが、EOS 5D Mark IIやNEX-VG10はベースがスチールカメラなので、スチールカメラとして撮像素子と水晶フィルターが最適化されているようだ。動画撮影のためにHD解像度に変換するデジタル処理は、高域成分(HD解像度以上)をカットしてからHD解像度に変換(リサイズ)しないと偽解像が発生してしまう。これを本質的に防ぐには、水晶フィルターをスチールと動画で切り替えるといった対策が必要だろう。

ちなみにPhotoshopなどでリサイズしても同様な結果となるので、興味がある読者は試してみるといいだろう。ただし、画像の再サンプル方法によって偽解像の出方は異なる。

EOS 5D Mark IIの動画機能はデジタル一眼のおまけ的な機能なので、仕方ないと思うが、NEX-VG10はビデオカメラという位置づけなので、この点は残念な結果となってしまった。もっとも今回借用したNEX-VG10は試作機なので、実際の市販機は改善されているのかもしれない。

総括

NEX-VG10は、記録時間の制約がなく、記録フォーマットもAVCHDの24Mbpsに対応しており、デジタル一眼の動画撮影機能にフォーカスした製品ということができると思う。したがって、使い勝手や撮影方法など従来のビデオとは異なったアプローチが必要だと思う。特にスチールカメラ用に開発されたαマウントレンズが装着できることを考えると、今までのビデオカメラでは撮影できなかった映像表現が可能になったということであり、こうしたレンズを使いこなした作品制作を求めるユーザーにとっては待望のカメラといえよう。

先の偽解像もある特定の条件の元でのみ発生する現象であり、風景や人物など一般的な被写体を撮影する分には問題なく綺麗に撮影することができるので、あまり神経質にならずにNEX-VG10のメリットである豊富なレンズや映画的な表現などを楽しみたい。なによりも、レンズ付きで20万という価格は驚異的で、業務用のビデオではカメラ本体すら購入することはできない価格だ。民生機ということもあると思うが、NEX-VG10の業務用バージョンに期待してしまうのは私だけではないだろう。そうした意味も含めて今後に多いに期待したい。

NEX-VG10の主な仕様

  • イメージセンサー:APS-Cサイズ(23.4×15.6mm)、原色フィルター付、”Exmor”APS HD CMOSセンサー
  • 有効画素数:908万画素(16:9 動画)
  • 最低被写体照度:11Lux(シャッタースピード1/30秒、絞り値 F3.5、オートゲイン時)
  • レンズマウント:ソニーEマウント
  • 記録形式:AVCHD(59.94i記録/29.97fpsイメージセンサー出力) MPEG-4 AVC/H.264
  • 動画サイズ:1920×1080(FX、FH)、1440×1080(HQ)
  • ビットレート:最高24Mbps(FXモード)、約17Mbps (FHモード)、約9Mbps (HQモード)
  • ゲイン:0/3/6/9/12/15/18/21/24/27dB
  • 映像音声出力:HDMIミニ端子
  • 記録メディア:メモリースティックPROデュオ、メモリースティックPRO-HGデュオ、SD/SDHC/SDXCメモリカード(Class4以上推奨)
  • 電子ビューファインダー:0.43型エクストラファイン液晶、1,152,000ドット相当
  • 液晶モニター:3.0型TruBlack技術搭載TFTエクストラファイン液晶、921,600ドット相当
  • 対応バッテリー:NP-FV70、NP-FV100
  • 本体寸法:幅約85×高さ約130×奥行約223mm
  • 撮影時総質量:約1.3kg(同梱レンズ、レンズフード、バッテリーNP-FV70を含む)
付属レンズ E18-200 mm F3.5-6.3 OSS (SEL18200)の主な仕様
  • レンズ構成:12群17枚(非球面4枚、EDガラス1枚)
  • 焦点距離(35mmスチールカメラ換算):32.4~360mm(動画)
  • 絞り羽根:7枚(円形絞り羽根)
  • 最小絞り:F22~F40
  • 開放絞り:F3.5(ワイド端) ~F6.3(テレ端)
  • 最大撮影倍率:0.35倍
  • 最短撮影距離:0.3m(ワイド端) ~0.5m(テレ端)
  • フィルター径:67mm
  • 外形寸法:75.5×99mm(ワイド端)、75.5×174.0mm(テレ端)
  • 質量:524g
  • 手ブレ補正機能:光学式手ブレ補正(アクティブモード搭載)
  • 価格:オープン価格(約20万、SEL18200レンズ付属)
  • 発売:2010年9月10日

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。