お馴染みのNHK技研公開2011開催

今年で65回目を迎えるNHK放送技術研究所の一般公開が、5月26日から4日間東京世田谷の同研究所内で開催された。今年は「あなたに伝えたい、デジタル放送の未来」をテーマとし、非常災害時に役立つ放送技術と東日本大震災等での活用例のコーナーの設置、デジタル放送・放送と通信の連携、スーパーハイビジョン、人に優しい放送、次世代ディバイスなど36項目の展示が行われた。平日にもかかわらず多くの来場者でにぎわっていた。女性や学生だけでなく一見してネクタイ姿の企業人もおり、中にはかなり専門的な質問を投げかけていたのが印象的だった。

体験型展示として顔画像解析技術を応用した「うつってあそぼ」やウルトラハイスピードカメラを使った「超スローモーションの世界を体験」、音声認識技術とCGキャラクターの連動を図った「しゃべってあそぼ」、NHKの映像検索技術を体験できる「EN-Vision」といった出展もあり、とかく難しくなりがちな技術を子供でも楽しく理解できるように工夫されていたのが印象的だった。

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うつってあそぼ。顔画像解析技術により顔の9つの特徴点を自動認識し、CGとリアルタイムに合成。


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EN-Vision。NHK放送技術研究所で開発した関連映像検索技術EN-Visionにより、NHKクリエイティブ・ライブラリー、番組公開ライブラリー、NHKオンデマンドの3つのシステムを体験できる。


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超スローモーションの世界を体験。人間の目ではとらえることのできない一瞬の現象をスローモーション映像として再現できる特殊なカメラを使ってサッカーボールをけった瞬間の足の動きやボールの様子をスローモーション映像再生。


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スーパーハイビジョン単板撮像装置。2.5インチ3300万画素のCMOS撮像素子を採用したスーパーハイビジョンカメラ。光マルチケーブルでCCUと接続されており、モニターとは4ch のDVIで信号が出力される。


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EM-CCDカメラ。電子増倍型CCD(EM-CCD= Electron Multiplying Charge Coupled Device)により高感度を実現した高感度ハイビジョンカメラ。モニターには0.64lxで撮影した映像をカラーで表示させていた。


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フレキシブル有機ELディスプレー。大画面化に適した塗布型材料を導入することでヒステリシスや閾値電圧シフトが少なく、均一性と安定性が共に向上。この有機TFTを用いて5インチQVGAフレキシブル有機ELパネルを試作したもの。


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インテグラル立体テレビ。フル解像度スーパーハイビジョン用の映像素子を使用したカメラで撮影した映像の立体像を見やすくするための信号処理を組み合わせ、ぼやけを改善したほか画質を向上させた。撮影と視聴には微小レンズ群からなるレンズアレーを使用するが裸眼で立体視できる。


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ミリ波モバイルカメラ。無線周波数に広帯域なミリ波帯を採用し、送受に複数のアンテナを用いるMIMOOFDM技術を適用することで高画質、低遅延(1フレーム以下)と途切れにくい無線伝送を実現。今回、リターン映像やカメラ制御信号などの送り返し系についても42GHz帯で無線伝送する装置を試作し、本線、送り返し伝送によるワイヤレスカメラの高機能化を達成した。


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3次元ミリ波イメージング画像。60GHz帯のミリ波電波を利用することで障害物があっても撮影できる特殊なカメラ。被写体からの反射波の到達時間を解析することによって、被写体の3次元空間上の位置情報が得られる。また、画像に生じるノイズを低減し、被写体の輪郭がより鮮明に見えるようになった。


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排ガス、エンジン音ゼロ、日本一静かでクリーンな中継車。走行系と搭載機器系の2つの電源を備えており、最高速度は130km/h、フル充電で約160kmの走行が可能。エンジン音が出ないことを活かした住宅街からの早朝中継や、食べ物を扱う企画での排ガスなしのクリーンな番組制作に活用しているという。


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環境にやさしいLED照明器具。従来のハロゲンランプと同等の光量でありながら、消費電力1/5、20,000時間の寿命を備えている。すでにNHK横浜新会館ニューススタジオで導入されている。


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磁気記録ディバイスの高速化技術。ハードディスクの転送レートを平滑化することで最低転送レートを高める技術。磁性細線中の微小磁区の移動を利用した新たな記録技術と2台のハードディスクを用いて、1台は外周から、もう1台は内周から記録することで最低転送レートを従来の1.5倍以上に高めることに成功している。


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シリコンマイク。いままでのコンデンサー型シリコンマイクの動作には48Vの高い電圧が必要だったが、マイク内部に誘電体を形成し、そこに電荷を蓄積することで高電圧が不要となる電荷蓄積型シリコンマイクを開発。


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番組映像検索システム。顔、文字、構図などさまざまな画像の特徴を組み合わせた検索が可能。顔の有無や出現位置、番組内で重要な被写体を紹介する際の画面上に表示され文字情報の有無、シーンの構図やカメラワークなどを組み合わせて指定することで、多様な検索をおこなうことができる。さらに、字幕情報を利用した映像検索のほか、番組説明文に含まれる固有名詞や複合語を用いた検索にも対応している。


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冷陰極HARP撮像板。電界集束型冷陰極アレーとHARP膜とを組み合わせた冷陰極HARP撮像板は高感度かつ小型化が可能な撮像素子で、今回、水平256×垂直192画素の撮像板を試作。カラー化に向けてHARP膜の光電変換効率を改善した。

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。