最近のブライダルカメラマンの実状

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ブライダル、いわゆる結婚式撮影は、いまいち評価されない。ミドルレンジ(街のビデオ屋)にとって結婚式撮影は、ある意味登竜門的な意味合いを持つ。撮影好きのハイアマチュアの方がそのままプロカメラマンとしてこの業界に入るきっかけになることも少なく無い。ブライダルを専業のカメラマンの約8割は別の職業を持っている。この曖昧さが他の撮影形態から見ると「素人っぽい映像」と言われる一つの要因なのかもしれない。

しかし色んな事を一人で全てこなすマルチタスクと問答無用のテイクワンOKを常に要求され職人的な部分も必須である。たかがブライダル、されどブライダルだ。かく言う筆者も例に漏れず、ブライダル撮影は現役であり、収入面でもそこそこの額になる。ブライダル業界でのカメラマンとも懇意にさせてもらっているが、最近あまり良い話を聞かない。10年前位前だとブライダル撮影だけでも収入が軽く1000万オーバーの方々もいた。しかし最近はその手の話は、ほとんど聞く事がない。一体何が原因なのだろうか。

ブライダルを撮るということ

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まずブライダル業界でのカメラマンとは何か?考えてみよう。そもそもブライダルを撮る事はその場の空気を全て撮ると言うのが大前提。これはどの現場でも同じ様な縛りはあるはずで、さらにはお客最優先ということだ。この大きな縛りの中にカメラマンの個性や技術は無視されていると言っても良い。

最近ではこの縛り自体に矛盾を感じてか、若いクリエーターが編集在りきのスタイルを押し出し、オリジナリティーを売りにする事もあるが、その大半(90%)は独りよがりのつまらない映像が多く、しかもカメラマンとしてでは無く社会人として問題がある場合も多い。その結果、大手のホテル等の会場では排他的になった為に、彼らの「あり得ない低価格」でしか、声がからならなくなる。全く趣味の延長から現場に入り市場を汚すだけと言う事になる。

しかもこの傾向はブライダルプロダクションまでもが経費節減の大義名分を盾に真似をする所さえ現れた。正に自分で首を占めている事に気づかない愚の骨頂とも言えるだろう。しかしこの程度の現状なら”まともな経営者”ならその行為がNGなのは解ってる筈で、低価格でもやらなければ成らない理由も在る…。その理由は、絶対的に結婚式をやる人間が減ってきたと言う事。人口の推移を考えれば解る。確実にその受注数は少なくなっている。さらに追い打ちを掛けるように、結婚式場ではなく、レストラン等までが”ハウスウェディング”と言う魔法の言葉で参入してきたとがあげられる。

ブライダルはクリエイト?職人技?

低価格で受注の減少という悪循環…。技術的な要因は何かあるだろうか?一番の理由は、撮影機材の低価格になり、その反面高画質化したことが上げられる。例えば10年前ならまだまだDV画質で仕事が出来た。さらにHDVの登場と共にその画質的には違い分かりづらくなってきた事もあげられる。さらに高スペックPCの低価格化がノンリニア編集に拍車を掛け、IT業種からの転向してくる者が多っかたのもあげられる。その結果は前記したとおりである。

基本ブライダルは職人芸から生まれてきた物であり、ITから流れてきたクリエイトな物ではない。しかしその職人芸を生かせる機材が当初のHDV機には無かったが、S270Jの登場でようやくそれが証明され、待望のPMW-350/320が登場した事により、ようやくデジタル一眼辺倒であったブライダル撮影が元に戻るような流れであると感じている。しかし、ここでちょっとだけ残念なことも起きてしまった。

SDとHDの違いを知れ!

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この事実を意外と解ってないカメラマンが多いのもブライダルの特徴かもしれない。もちろん専業でもわかってない方がかなり多い。安いからと言う理由でHDカメラにSDレンズを付けてる方がいるが、写ると撮れるとでは全く違うことなのである。完全に履き違えている。もう一つはカメラプロファイルによるトーンの違い。良く聞くのはHDカメラにしたのに綺麗だけど色が抜けている様に見えると意見があがるがこれも当たり前の事。

SDカメラはもう何10年もの歴史がありメーカーサイドでも、どういう機種が、どういう撮影に使われ、どういうトーンがBESTなのかデーターが存在する。歴史の浅いHDではそうはいかない。デフォルトの色味で出荷されているため、カメラマンがプロファイルを変更して使用するという事が前提なのだ

つまり高性能カメラなのに一般的にはその性能の半分も使ってない方が多いと言うことだ。先日、懇意にしているブライダル専業のカメラマン達数人ととある温泉地にてワークショップを開催した。この時もHDの色味について解説したが、プロファイルの大事さが伝わったと後日言って貰もらった事がある。

ブライダルに適した機材

最後に、ブライダルに適したカメラは何か?を考えてみよう。まず、コストパフォーマンスのバランス、特にブライダル専業でならこの部分は譲れないはず。その次は、バックアップの重要性を考えるべきだ。この2点を考えるとP2録画でSDI出力しか出来ないパナソニック製品は価格も踏まえて選択肢から消えてしまう。

筆者的にはソニー HVR-S270Jを押したい。ファイルベースとテープのハイブリット録画はテープをバックアップに考えると実にHD画質で270分収録できる。アーカイブも従来と同じく”積んで置く”だけでOK。レンズがAFで気持ち悪いと言う方にはJVC GY-HM700をお勧めする。キヤノン製ENGレンズが付いており、収録は全てファイルベース、しかもWin環境のmp4とMac環境のmovの2種類のフォーマットを選べる(中身はEXベースの35Mbps)この2機種、筆者も使用しているが、プロファイルを追い込めば確実に満足できる色になる。

その次に選ぶならPMW-320だ。バックアップはi.LINKを使ったHDV収録かSDI出力から外部レコーダーに記録のどちらかだが、バックアップと言う事とコストを考えればi.LINKを使ったメモリーレコーダーHVR-MRC1Kを使うのが最適だ。その他GFCAM V10と言う選択肢は残念ながらブライダルオンリーなら無駄だと断言できる。

総評

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他にZ5JやNX5Jが在るじゃないか!と言う声もあるが”デジ”と言う部分でもはや論外だ。性能や腕の事を言ってる訳じゃないが”見かけ/外観”も重要な撮影でハンディカムメインはやはりあり得ない。ブライダル撮影は色々な事を抜きにすれば、実は、一番数多く仕事がある撮影形態でもある事は間違いない。

しかしTOPに書いた様な事例から、どうしてもやる気にはなれない仕事の一つにあげる方も多い。しかしこの不景気で今まで馬鹿にして、全くブライダルに介入しなかった所まで参加し始めている。

映っていればOK!とよく言われるが、当に正論であり異論でもある。物事を100%ミス無く映すという事はそれがいかに難しいか?腕に自信のあるカメラマンなら解るはず。そうは言ってもやっぱり勉強せずに自分の世界観だけで撮っている方も多い業界でもある。少なくとも技術の差=ギャラの差に直結するような仕事形態ならもう少しブライダル撮影の未来も明るくなるとは思うのだが…。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。