小さな業務機

NX70J_008.jpg

ディレクターカメラ(以下:Dカメ)としても業界で重宝されている SONY小型業務用カメラA1JはHDV機でありながらその取り回しの良さから今でも現役稼働している。かく言う筆者所有の機材リストの中にもある。とはいえ、画質、特に感度の部分では最新の民生用カメラと比べると見劣りする事実も認めざるを得ない。しかしそれ以上にハンドリングの良さや外部入力の豊富さではやはりA1Jを置いて他に代用する物が無かったのも事実だろう。

特に音声入力にキャノン端子(ファンタム電源込み)を2ch分搭載しているのはA1Jしか無かったのだが、それに遅れる様にJVCのGY-HM100やCanon XF10xシリーズが追従して来た。しかしそのどれもが筐体の大きさや機能の多さ故にとてもDカメと言うには少々方向性が違う。更に同じような筐体であるHXR-MC50Jも登場したが、ガンマイクが付属しているものの接続は民生機と同じミニジャックを使用し、簡略化した機能であることから、これもDカメと言うよりはロケハンに行ったADがメモ代わり的に使った方が正しいようだ。

そしてCanonからの回答が最近販売されたXA10と言う事になる。ちょっと本筋からずれてしまうがこのXA10はまさにA1Jに引き継ぐDカメとして文句のない性能と装備を持っている。若干ワイドが弱い(とは言え30mm強)のが弱点に挙げらるがその位は目をつむっても容認できてしまうはず。

話を戻そう。予想外のメーカーから出て来てしまったDカメであるが、元祖Dカメを作ったsonyが黙っているわけではなく、満を持して登場したのが今回のNX70Jである。

NX70J vs A1J

NX70J_001.jpg

A1J(左)に比べると一回り以上大きいNX70J(右)

A1Jの登場以降、次期Dカメの登場までは本当に長かった。今回ようやく登場したNX70Jであるがその基本性能はどうなのか興味津々。今回は、SONY担当者の方に無理を言ってお借りする事ができた。NX70Jの一番のキーポイントはA1Jの後継機種になり得るかと言う事に尽きると思う。筆者的な解答は既に出ているが、その性能を見比べてみよう。まずはその画質だがAVCHDとHDVとの単純比較ならお互いの長短所があるので個人の問題で片付けて良いと思うが、これに1080/60p記録を考慮すると比較にはならない。

NX70J_010.jpg NX70J_012.jpg

徹底的にシールドがされている各種端子スイッチ

では画角はどうか?これもNX70Jのワイド寄りのレンズがずば抜けている。A1Jに純正のワイコン入れたよりもワイド端が広い。この時点で既にDカメとして及第点を与えられるとも思える。そしてこの機種の最大の特徴である防滴・防塵機能、NABshowでのお披露目ディスプレーではガッツリ水に浸かっていながらも問題無くLCDには映像が映っていた。さすがにガンマイク等のキャノン入力端子はこれらに含まれ無いがその他の端子カバーには全てしっかりとシールドがしてある。バッテリーもボディ内部に完全にマウントされているので不意なトラブルも無用だろう。

Dカメの決定打!?

結論は、Dカメとしてはまぁ良いが、A1Jの後継機種とは思えないのが率直な感想だ。A1Jに比べてなに一つ性能的に衰えて無いのに何故と思われるだろうがDカメとして一番大事なハンドリング部分、つまり絶対的な大きさがNX70Jには足らなかったと言う事だ。これには賛否両論あると思われるが、Dカメの一番の使い方を考えるなら大きさと言うのはまず外せない項目のはず。その大きさで言うなら残念ながらあの筐体はちょっと大きく、丁度HM100やXF10xとほぼ同じ筐体の大きさが気になる。

A1Jが名機と言われる所以は、あの筐体に業務用途として最低限のモノを詰め込んだからで、それが大きくなると幾ら防滴仕様でも筆者的には残念ながらDカメにはならない。筆者はNX70Jの実物を最初に見たときから「A1Jの後継機種ではない」と言ってきたが、メーカーサイドでもその様に思っているらしい。これがもし民生機のCX700筐体をベースに出してきたのなら間違いなくA1Jの後継機種になっていたはずだ。

では何故わざわざ筐体を大きくしてまで防滴・防塵仕様にしてきたのか?思うにNEX-VG10の様にNX70Jも一つの方向としての新ジャンルの新しいカメラを作ったのか、もしくはこの防滴・防塵技術を通常のENG(ショルダーカメラ)に応用するために実験的な物なのでは無いだろうか?そう考えると常に現場で過酷な使われ方をするENGこそ、このようなヘビーな環境に耐えうる仕様というのは断然アリである。

ポストA1Jとは?

2110411_HXR-NX3D1J.jpg

HXR-NX3D1J

結局の所、Dカメとして運用できないことはないが、やはりA1Jの様なハンドリングに欠けていることは確か。つまりA1Jの後釜ではなくXF10xやHM100の様な立ち位置に防滴・防塵の機能が付いたと言うことであればこのカメラの存在価値は大きい。水回りでの撮影が多いなら間違いなくNX70Jを選ぶだろう。しかし筆者的にはやはりA1Jの後継機種を望みたい。今のところCanon XA10がその位置に一番近いので単純に考えればこれを所有すれば良いだけの事なのだが、実はSONYにはもう一つDカメと言うのにふさわしいカメラがある。

やはり民生機の筐体をベースにキャノン入力や、ガンマイクを装備し小型軽量のカメラ…。そう、それはHXR-NX3D1Jだ。えっ3Dカメラだから用途が違うんじゃ?と言う意見もあるが、3Dコンテンツが増え3Dの業務機種が増えている中でDカメが3Dに対応しても全く不思議ではない。少なくともNABで実機を見てそのハンドリングの良さを考えると、ポストA1Jは案外HXR-NX3D1Jなのかも知れない。画質の差は圧倒的に60P出力も出来るNX70Jに軍配が上がるのだが…。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。