スタンダードになったライブ配信メディア

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Ustreamなどのライブ配信メディアは、テレビをお手本とした構成で進行する。TVドラマ「家族ゲーム」のようなレイアウトで出演者が並びバラエティ番組のスタイルがほとんどだ。これに対して映画のようなカットの切り返しで対談などをライブ配信することを「シネUst」方式と言う。映像的にはパンフォーカスで隅々までピントが合っているテレビバラエティとは異なり、被写界深度を浅くして人物を映画のように印象的に見せるという特徴がある。

近頃隆盛になってきた大判センサー特有の映像をライブ配信でも積極的に活用していこうというものだ。特に最終的な視聴解像度が640×360程度であることが多いライブ配信ではちょっとした絵作りが印象を左右する。

シネUstに響くAG-AF105の魅力

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ライブ配信ではマルチカメラによるスイッチングが一般的になっているが「シネUst」でも複数のカメラを組合せることになる。対談などではメインの1、2カメを切り返し用に同じ焦点距離のレンズで揃えてイマジナリーラインを守ったアングルで切り取る。この時、手前の人物をかじることで前ボケを使うとより映画的な印象となる。3、4カメは全体を捉えるカット用とインサートカット用に使うのが一般的だ。この「シネUst」形式の場合、当然のことながらレンズも複数必要になるのでそれぞれのカメラのボディとレンズを何にするか?というのが最初の悩みどころとなる。

被写界深度をコントロールすることを前提とする「シネUst」の場合、レンズ交換が出来るフォーマットを使うというのが大前提となる。フルサイズのデジカメもライブ配信のために外部に信号を出している機種はいくつか存在するが、装着レンズの選択肢の多さとボディの安さなどから私はマイクロフォーサーズを使っている。

「シネUst」をコンポジット信号で行う場合、もっとも安価な選択肢はパナソニックのマイクロフォーサーズカメラGF1になる。このシリーズはすでにGF5が現行機でありGF1はその初期型ということになるが、GF2以降はタッチパネル化したことでコンポジットアウトの信号に文字表示が残ってしまう仕様となってしまった。GF1はこの問題がなく中古でもボディが1万円程度になっているので安価にマルチカメラを始めることが出来る。HDMIアウトを使うことになると現行機種でもあるGH2を使うことになる。さらにHD-SDIにしたい場合はAG-AF105(以下AF105)という選択肢になってくる。全方向位で「シネUst」が行えるパナソニックのラインナップはありがたい。

AF105をそれぞれチューニング

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今回AF105を3台借り、自前の1台と合わせて4台のマルチカメラで「シネUst」する機会を得た。スチルカメラとして作られたGH2が4台の場合と比べてボディサイズはかなり大きくなるがモノクロを前提とする場合GH2のフィルムモードの擬似モノクロと違いAF105はリアルモノクロームを使うことが出来る。レンズセットはすでに「シネUst」として20本以上の作品で使ってきた「ライカDRズミクロン50mm/F2.0」を2本と「ライカズミルックス25mm/F1.4」「ズイコーデジタル12mm/F2.0」の計4本を使った。

大きなAF105のボディにこれらのレンズをつけると、まるで昭和の報道用16mmフィルムカメラのような不思議なムードとなった。メーカーも製造年代も違う4本のレンズをマルチカメラにして色合わせするのは至難の業だが、モノクロームだと比較的短時間に設定で違いを吸収できた。特にAF105はGH2より映像の設定項目が細かくカスタマイズできるのがありがたい。ダイナミックレンジストレッチャーを使うことで全体の階調を映画ルックに出来たし、ガンマやマトリックスの設定を変えることで素性の異なるレンズのマルチカメラでも違和感を軽減することが出来た。

コペルニクスの探求、被写界深度の探求

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今回のライブ配信は「コペルニクスの探求」という鼎談もので演者は3人。ズイコー12mmを全体を捉える下手カメラに、2本のライカズミクロン50mmを人物切り返し用として上手と下手に配置、ライカズミルックス25mmを上手からの2ショットに配置した。最終的にもっとも使用率の高い人物切り返し用のアングルは背景の本棚のレイアウトなどにも細心の注意を注いだ。本の背表紙の色や揃え方、色なども調整し知的な番組のイメージを作りこんだ。

技術スタッフは3名で、一人が配信とタイトルを、もう一人がスイッチングと上手の50mmを左右に振るカメラマンを兼任、もう一人がサウンドミキサーである。スイッチャーはパナソニックのAW-HS50を使用したが業務機特有の内蔵ファンの音がやや大きく、今回のように話者の2m横でスイッチングをするというような状況には向いていないと感じたが、このファンの音は液晶モニターをパーテーションのように被写体との間に立てることで、高感度なコンデンサマイクに入らないように工夫した。

AW-HS50のボディは小さくスイッチングのボタンのストロークも浅く操作音が出ないのは非常によかった。AW-HS50からのHD-SDI信号は別系統の音声ミキサーからのXLRと共にBlackmagic DesignのUltraStudio 3Dに入力。そこからThuderboltでMacBook Airに入力してUstream Producer Proで配信した。MacBook AirでのCPU使用率はモノクロということもあって常時40%以下で推移した。UltraStudio 3Dは設定によりHD-SDIへのスルーも出るので、それをAG-HMR10Uに入力しエンベデッドされた音声と共にSDHCカードにAVCHDとしてバックアップ録画した。

ただしこの配信機器であるUltraStudio 3Dより下流に収録機であるAG-HMR10Uが位置するレイアウトは、通常の配信ではオススメできない。配信が万が一機材トラブルで落ちた場合、収録も落ちる可能性があるからだ。自前機材でやる場合は必ず映像と音声を一本化した機材から配信と収録に2分岐させる。映像はHD-SDI経由で16:9をマスターとしたが配信ではさらにマスク状のタイトルを乗せることで1:2.35シネマスコープサイズにした。この比率はこれまでの配信でも数多く試しているが、無人カメラで人物が本来の位置からズレた際そのままにしても16:9より自然に見えるというのが採用理由である。さらにそのマスク部分に番組タイトルやスポンサー名を入れることで、Ustreamのどのコマが採用されるか分からないサムネイルでも確実に番組名が見えるというメリットもある。

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こうしてAF105のHD-SDIを使いSD高帯域で配信されたアーカイブがこちら。デジタルキャプチャーならではのクリアさと圧縮され小さくリサイズされた配信映像でも印象的な映像となっているのをご確認いただけるだろう。「シネUst」はカメラ目線になる必要がない対談や鼎談ものに用途は限定されるものの印象的なライブ配信には向いているのでないだろうか?大判センサーのビデオカメラも充実してきたのでまた機会があればレポートしたい。

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ヒマナイヌ

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頓知を駆使した創造企業