タイムラプスという手法について

映像の世界で、プロモーションビデオやCMの中で繰り返し使われてきたインターバル撮影は、古典的な手法の一つだ。一眼レフクラスのカメラならインターバル撮影をする機能は標準的についているが、大量の静止画を動画にするには手間もかかるためマニア向けの撮影手法という印象だった。

しかしこの1年くらい、インターバル撮影で撮った静止画をカメラ内で動画にできる機種も多くなったことから、新たなブームの兆しが見えている。発表されたばかりのiOS 8ではiPhoneやiPadのカメラに標準でタイムラプス機能が入ることもアナウンスされた。筆者もカシオのEXILIM ZR1100に搭載されているタイムラプス機能にはまり、2014年の年頭に「今年は毎日1タイムラプスする!」と自分にテーマを課し「デイリータイムラプス」としてこれまでに150本のタイムラプスを公開してきた。さらにFacebookグループで“タイムラプス部”を作ったところ2ヶ月で300人以上のメンバーが集まり、今や毎日誰かが新作のタイムラプスをアップする活況ぶり。おそらくこれほど直接動画がアップされるFacebookグループも珍しいのではないだろうか?今回はこのタイムラプスの面白さについてお伝えしたい。

人がタイムラプスに魅せられる理由

タイムラプス部に寄せられ評判となった田植えラプス(高垣大輔氏撮影)

タイムラプスは時間と空間を圧縮して記録する手法であるが、撮影者はそこに長時間いる必要がある代わりに、視聴者は短時間に撮影者の見たものを再体験できる。撮影者にとっても撮影時に気付かなかった発見があり楽しい。これが多くの人をタイムラプスに惹きつけている理由ではないだろうか?

「デイリータイムラプス」では一般的なタイムラプスのジャンルである星空・雲・街の雑踏だけではなく、打合せやライブ配信の準備風景、子どもと遊ぶ様子まで幅広い対象をタイムラプスしている。

子どもと塀のブロックにペンキを塗る様子を時計入りで撮影したタイムラプス

タイムラプス撮影初心者は、カメラを三脚などに固定して撮る。これを繰り返しているとカメラがフィックスなのが物足りなくなりパンさせたくなる。カマラプスなどの市販のゼンマイ式雲台や、IKEAのキッチンタイマーを改造したりすることでコンパクトデジカメならタイムラプスしながら回転させることが出来る。

IKEAのキッチンタイマーなどはAmazonで商品ページを見ると「この商品を買った人はこんな商品も買っています」に三脚のネジ穴プレートが表示されるほどで、いかに本来の用途じゃないところでニーズが膨らんでいるかがわかって面白い。

ゼンマイ式雲台カマラプスで撮影したジンギスカンのタイムラプス

タイムラプスでカメラを回転させることが出来るようになると今度はカメラを移動させたくなってくる。タイムラプスでドリーショットを行うには非常にゆっくりと移動する装置が必要になり、一眼レフに対応したスライダーなどは10万円を超えるものも多い。何か手軽なものを改造してタイムラプス用のドリーが作れないか?と筆者が注目したのがLEGOキットにある線路セットだった。

プラレールでも同じなのだが、枕木のあるデザインや色合いがオシャレなのと、線路1本あたりの長さが短く携帯しやすそうだったのだ。電子工作に詳しいサウンドエンジニアである池田匠氏に相談してまず作ってもらったのはカメラが乗った貨車をケーブルで引っ張るという「池田式LEGOドリー」だった。

牽引型のドリーで撮影したタイムラプス

さっそく子どもがLEGOを作る様子をLEGOドリーで撮影して興奮したのもつかの間、このドリーでは直線しか移動できないことに気づく。映像の欲というのは限りないもので、固定したものを回転、回転したものを直線移動させると、次は曲線を移動させたくなるのである。そこで牽引方式には限界があると判断、次は自走式の動力車を作ることになった。こうして生まれたのが「池田式LEGOドリーmkII」である。

LEGOに合わせたピンク色の動力車は左右の車輪径が違うユニークで、一輪駆動である。早速使ってみると見事に曲線レールをタイムラプスしながら移動してくれた。しかし一輪駆動であることから曲線において駆動輪が空転したり内輪差をうまく吸収できないこともあり早速改良案が示された。

超低速で前進するタイムラプス専用ドリーのブレスト風景

それから数日して完成したのが、2輪駆動方式を採用した「池田式LEGOドリーmkIII」である。いささか遠回りをしているような気がしないでもないが、試行錯誤の体験からしか生まれないものがあるのだ!と声を大にして自分たちを納得させている。こうしたドリーで撮影するのはもっぱら自分たちの飲み会なのだが、最初はLEGOの線路パーツを30本くらい持ち歩き、居酒屋の机の上にドリーを作っていた。

しかしある時に気がついた。1mを15分かけて移動する超スロードリーなのだから移動して通過した線路パーツを先端に継ぎ足せばいいのだ。こうして持ち歩くレールは曲線が4本と直線が3本の合計7本があればいいことが判明した。飲み会では線路が足りなくなると参加者が自ら「おーい!もうここまでカメラが来てるぞー!線路パーツくれ!」と声をかけあい、ドリー撮影を長時間続けられるようになった。

この共同作業により飲み会参加メンバーに不思議な一体感が出たことを報告しておきたい。ただ店内では大のおとながLEGOの線路をワイワイ作りながら飲んでいるので、ちょっと気持ち悪い感じになっていたかもしれない。

2輪駆動の曲線ドリーで撮影した飲み会タイムラプス



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開発した池田氏と単3電池4本で動く動力車

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メイキング風景


人々に訴えかけるタイムラプス

タイムラプスは撮影前と後の違いが面白く、画面の中に動くものが多いと楽しくなる傾向があるが、ルールのようなものはなく、タイムラプス部でも「へぇ~!こういうのもタイムラプスにすると面白いんだね!」などの意見が投稿動画に寄せられている。

そんな中で、筆者が特に心を動かされた作品を紹介してこのコラムの締めにしたいと思う。それは福島県いわき市に住む清水大輔氏のタイムラプスだ。音楽に乗せて淡々とタイムラプスをつないだ作品だが、そこに何時間もとどまり撮影した作者の思いを想像すると胸を締め付けられるものがある。大判センサーならではの美しい映像にHDR、パン、ドリーなどのテクニックが惜しげも無く使われているタイムラプスのお手本のような作品。ぜひ全画面の1080pで見ていただきたい!

清水大輔氏のタイムラプス作品と作者のコメント

清水氏:ネットやYouTubeで“福島”と検索すると、目を覆いたくなるような言葉や映像が多くあり、とても辛く悔しい思いをしていました。抗議のメールを送ろうかと思いましたが、そんなことをしても大海に石を投げ込むようなものだと思い、もっと別な方法がないかとずっと考えていた時に出会ったのがタイムラプス映像でした。福島の自然や星空を、驚くような映像で世界に見せて、YouTubeでヒット数を上げていけば、酷い中傷動画より上位にリンクが来るのではないかと思いました。

今まで誰もやらないことを、ストーリー性や人の心に訴えかけるような動画をタイムラプス映像で作れば世界の“フクシマ”に対する考え方もきっと変わるのではないか。そんな思いではじめました。私はカメラに関して素人レベルで、知識や経験もありません。でも福島を何とかしたいとの思いで、タイムラプス映像を撮影し続けております。また、奇跡の一本松は福島県南相馬市鹿島区の映像です。十数メートルの津波にも耐え、大地にしっかりと根を張り、生き続けている姿を知って頂きたく映像に収めました。

WRITER PROFILE

ヒマナイヌ

ヒマナイヌ

頓知を駆使した創造企業