はじめに

前回までの解説では、クイックスタートを経て基本的なカラー調整の方法を概観し、DaVinci Resolveの持っている強力なコンフォーム機能を利用できるようになったのではないでしょうか。簡単なグレーディングならこれでも十分もしれませんが、ちょっと込み入ったことをしたくなった時には、物足りなさを感じるかもしれません。今回はそんなフラストレーションを解決するための、一歩進んだDaVinci Resolveの使い方を見て行きます。

ノードは色調整をグループ化させる

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これまでの講座では、DaVinci Resolveを単一のノードの中でしか使ってきませんでした。COLORメニューに切り替えると、右上にNode Graphというノードをコントロールするパートがあります。全く色調整を加えていない状態では、ひとつだけノードが見えているでしょう。ノードグラフには、両側に小さなピンポンゲームのラケットのような四角いプレートがあります。

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残念ながらこれはピンポンゲームのように動かすことはできませんが、左側のプレートが入力、右側が出力です。入力からラインが出てノードを経由して、さらに出力につなげることで、色調整のプロセスを組み立てることができます。

ノードの追加は、NodeメニューもしくはキーボードからSキーかPキーを押すことで実行できます。Sはシリアルノード追加で、Pはパラレルを意味します。現在選択されているノードは、シアン色のラインがノードグラフの中に表示されますが、SかPを実行するのはその選択されているノードが対象になります。複数個ノードがある場合には、これを目安にしてどこに新しいノードを加えるかをしっかりと意識して操作します。

シリアルノード

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まずはSキーでシリアルノードを加えてみましょう。これでノードが二つになりました。1番目のノードで、プライマリコントロールからSaturationを0に絞ります。次に2番目のノードでGammaのREDを上げてみましょう。これによりセピア調の色調になります。このようにシリアルノードは、直感的に順を追って色調整を加えるときに有効です。ノードを複数作成せずに、単一ノードの中ですべての調整を完結することは可能です。しかし、ノードを分けておくことで、ひとつだけの調整をバイパスしたい時には便利です。

1番目のノードを無効にするためには、ノードの下にある数字の部分をクリックします。赤いクロスマークが現れて一時的にこのノードのセットアップが生かされていないことがわかります。これによりセピア調にしたはずの色が、単に赤を足しただけの効果に変わっているのがわかります。ノードの削除はマウスで選択してシアンのマークを確認した後にDeleteキーです。そのカットに加えてあるノードをすべて削除して、ベースメモリに戻したい時にはCommand+Homeキーで、一気に初期設定に戻すことができます。また、ひとつのノードだけ初期設定にしたい時には、Shift+Homeです。

パラレルノード

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次にパラレルノードを見てみましょう。Pキーで並列なノードが加えられ、それらを束ねるための要になるPARALLELと表示されたノードが現れます。さらにもう一度Pキーを押すことで、3つ目のノードが加わります。シリアルとパラレルの2種類のノードはどのように使い分けるのが良いのでしょうか。それを理解するために、パラレルノードのトリックを紹介しましょう。現在何も調整を加えていない素の状態の3つのパラレルノードがあります。1番目のノードのSaturationパラメータを0まで絞りきってみます。

次に2番目でSaturationを100まで目一杯上げます。そして3番目で20まで下げます。これにより多少色の濃さが薄くなった結果が得られます。このようにパラレルノードの調整では、並列に配置されたノードのパラメータをすべて経過してから、次のノードへ渡されます。シリアルノードとの違いを確認するために同じパラメータの組み合わせを試してみてください。1番目のノードでSaturationを0まで絞りきると、2番目のノードでいくらSaturationを上げても色の濃さは戻ることがありません。シリアルノードでは演算結果が各ノードで完結するのに対して、パラレルノードでは並列に構成されたすべてを合わせて演算されるのです。

LAYER MIXER

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次にパラレルノードに似たLAYER MIXERを見てみましょう。初期状態に戻すためにCommand+Homeを実行してください。レイヤーミキサーのためのノードの作成はShift+Lキーです。これを使って3つの並列ノードを作成します。

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これで先ほどのパラレルノードと同じ配置になりました。並列になったノードをLAYER MIXERで束ねると、Photoshopなどで利用するレイヤー構造でノードをコントロールすることができます。優先順位はLAYER MIXERに接続されている下の方が高くなります。この点がPhotoshopとは逆になっています。たとえば1番目2番目のノードでいくら色調整をしてみたところで、結果的にはなんら変化が出ないことが確認できるでしょう。

3番目の一番優先順位の高いノードが、すべての色調整を独占しているからです。ノードの調整をミックスするためには、セカンダリパートにあるKEYタブが文字通り鍵を握っています。効果を薄めたいノードをクリックしてからKEYタブのOutputから、GainとOffsetを調整することで混ぜ具合が調整できます。これを調整したことにより、3番目のノードのサムネイルにグレーがかかった状態になるはずです。これは混ぜ合わせるためのアルファチャンネルがハーフになっていることを示しています。ノードにはまだこれ以外にもアルファチャンネルを連結する機能などありますが、今回はこれらの機能を組み合わせて、まずは試してみてください。

トラッキング

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次にトラッキング機能を紹介します。トラッキング機能は必要になるケースは意外と多いものですが、DaVinci Resolveでトラッキング機能をそんな簡単にできるのか心配になるかもしれませんが、これが意外や意外自動追従機能がかなり賢く追いかけてくれます。一般的にトラッキングを使うためには、まず目的のターゲットに対して動きのキーフレームを取り出すことから始めるのではないでしょうか。

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DaVinci Resolveではそんな手間も必要ありません。DaVinci Resolveでトラッキングをしたくなるケースというのは、セカンダリのWindow機能でワイプパターンを作ったものの、その対象がフィックスではなくて移動ショットだった場合です。DaVinci Resolveでは、まずはじめにWindow機能なのです。これを抑えておけばDaVinci Resolveでのトラッキングを使うための一つ目のハードルを越えたことになります。

トラッキングのことは意識せず、まずはワイプパターンで限定したい部分を囲んでみます。そしてその中に対して色調整を実行します。そして、プレビューするためにクリップを再生してみましょう。もしそのショットがフィックスショットでなかった場合には、囲んだエリアが途中から外れてしまって残念な結果になるでしょう。トラッキング機能の出番はここからです。慌てずにWindowが収まっているフレームまで戻してから、キーボードからCommand+Tキーを押してみましょう。

自動的に動きを追従してくれます。追従を止めたい時にはYキーです。逆方向に追いかけたい時には、最終フレームに移動してからOption+Tキーです。実際にいろんなクリップで試してみると、DaVinci Resolveのトラッキング機能の精度の高さが確認できると思います。

場合によっては途中で動きが外れてしまうことがあるかもしれません。その時はまず、ワイプで囲んだWindowのソフトネスをゼロに絞ってみましょう。これにより検知する範囲を限定できるので、うまくいくことがあります。それでも追いきれない場合には、手動で部分的に修正することも可能です。VIEWERメニューに移動し、画面右下のShow Object Tracking Controlsをクリックします。

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右側に現れたShow TrackのチェックボックスをONにすると、どのようにトラッキングされたかの奇跡が表示されます。これを参考に外れてしまったフレームまで移動した後に、Enter Interactiveをクリックし、AdjustからKey Frameに切り替えます。これで手動でトラッキングを修正する準備ができました。Windowの中心にある白いポイントをマウスで移動することで、新しいトラッキングポイントが登録されます。インタラクティブモードから抜けるには、Exit Interactiveボタンをクリックします。先ほど追跡精度を高めるためにWindowのボーダーをシャープにしていた場合には、この段階で再度ソフトに戻すことが可能です。すでにトラッキング情報は作成できているので、ここで変更しても問題はありません。

ダイナミクス

今回最後に紹介する便利な機能がダイナミクスです。キーフレーム機能と表現した方がわかりやすいかもしれません。これまでの色調整はクリップ全体に渡って同じ調整が継続しているものでした。ダイナミクス機能を使うことで、時間経過とともにだんだん色が変化するという効果が使えます。ダイナミクス機能は、COLORメニューの右下のウインドウです。CLIP、TRACK、UNMIXの3つのタブが見えているでしょう。TRACKタブは先に紹介したトラッキングとは無関係ですので、混同しないようにしてください。通常のダイナミクスはCLIPタブを使います。

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タイムコード表示部分を左右にドラッグすると、再生ヘッドが移動します。ダイナミクスは変化を付けたい開始点と終了点の2ヶ所にマークをつけることで、トランジション効果を作成します。開始点まで再生ヘッドを持って行き、マウスの右クリックでAdd Dissolve Markを実行します。次に終了点でも同様にポイントを追加します。これによりCLIPタブのタイムラインにトランジションが加えられたはずです。作成したキーフレームへの移動はShiftキーを押しながら左右の矢印キーです。

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これを使って開始点まで移動して最初のカラー調整をして、その後終了点で再度調整をするとダイナミクス機能を使ったトランジションが作成できます。この時の注意点は、ダイナミクス機能で使うことができる色のパラメータは、プライマリパートに限られることです。セカンダリパートで作成した色設定は、クリップに対しては有効ですが、トランジションは連動できません。CLIPタブの中の便利な機能がマークです。右クリックからAdd Markで目印を付けておくことで、Shiftキーと矢印キーで目的のポイントに瞬時にジャンプできます。

ダイナミクスウインドウの中にはTRACKとUNMIXもあります。まずTRACKタブですが、このタブに切り替えることで、タイムラインの全体が対象になります。CLIPタブでは単一クリップだけが対象でしたが、TRACKタブではタイムライン全体がダイナミクスの対象となります。TRACKタブに切り替えたことで、ノードグラフの中からノードが消えたことに気がつくでしょう。これまで作成していたノードは、各クリップに対してのものでした。TRACKで作成するノードとは別なのです。この機能の便利な使い方は、タイムラインの各クリップに色調整が済んでから、全体的に統一したひとつの調整を加えたい時に使えます。全体的にもう少しだけ明るさを上げておきたいという時には、各クリップに戻ってその数だけ明るさを再調整することは不要です。

最後のタブがUNMIXです。機能的にはCLIPタブと同じなので違いがわかりにくいかもしれません。UNMIXはEDLから編集結果を読み込んだ時に、その中にディゾルブのようなトランジションが含まれていた場合に、一時的にそれをカット編集に切り替えて表示することができます。ダイナミクスの対象が編集点のディゾルブにかかっていた場合には、次のカットとミックスされてしまい、操作がしにくくなることがあります。そんなときにこのUNMIXタブが効果的に使えるでしょう。

今回はDaVinci Resolveの一歩進んだ機能を解説しました。これまでのベーシックな機能に加えることで、さらにかゆいところに手が届くようになると思います。DaVinci Resolveではさらに奥にある便利な機能がありますが、そんなまだ使っていない未知の機能を探すきっかけになれば幸いです。

WRITER PROFILE

山本久之

山本久之

テクニカルディレクター。ポストプロダクション技術を中心に、ワークフロー全体の映像技術をカバー。大学での授業など、若手への啓蒙に注力している。