INDUSTRIAL LIGHT & MAGIC: CREATING THE IMPOSSIBLE

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画像提供VES

ここ、地球の反対側である、明るく”脳”天気で平和で大袈裟な街ロサンゼルスでは、映画のメッカに相応しく、映像に関する講演会やセミナーが頻繁に開催されている。時には、非常に貴重な講演会に参加出来るチャンスに恵まれる事がある。11月16日夜、VES(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ/米視覚効果協会)主催によって開催された「INDUSTRIAL LIGHT & MAGIC: CREATING THE IMPOSSIBLE」は、まさにその好例と言える。今回は、この貴重なイベントの模様をPRONEWS読者の皆さんにご紹介する事にしよう。

映画「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」が公開されて、今年で早や30周年を迎える。この作品はオリジナルの3部作の中でも、特に人間ドラマとしての完成度が高く、多くのファンに支持され、人気が高い作品である。その公開30周年を記念し、ハリウッドに拠点を持つVESの主催により、映画の名門である南カリフォルニア大学(USC) の映画学科のホールにて、特別講演会と97年に再公開された「帝国の逆襲 特別編」の特別上映会が開催された。USCはジョージ・ルーカスの出身校という事もあり、この日の講演が同大にて開催された事はある意味自然な流れと言えるだろう。そして、USCの学生は無料で参加出来るという特典も用意され、会場の半分以上は現役の学生達で埋め尽くされていた。

この日のイベントの冒頭では、過去35年間、300本近くのSFX/VFXを手掛けてきたILMの社内風景が、スライドショーとして上映された。このスライドショーは、デジタル革命前のSFX時代も含む、かなりレアな画像も沢山含まれていた。特に、2mサイズの板にアクリル絵の具と油絵の具でマット画を描く、マットペインター上杉裕世氏の姿が何枚も見られたのが印象的だった。

このスライドショーの後、ILMの歴史をまとめた短編ドキュメンタリー映画が上映され、その後にパネラー達によるパネル・ディスカッションが行われた。この日のパネラーの顔ぶれが、またスゴイ。リチャード・エドランド、デニス・ミューレン、スコット・ファラ、ジョン・ノール(フォトショップの生みの親としても有名)、そしてなんとエド・キャットマル(!)もパネルに参加。これだけの重鎮&巨匠が一堂に顔を揃える講演は、ハリウッドと言えども数年に1度、あるか無いかの、非常にレアなケースである。特にスター・ウォーズ・マニア、そしてファンには垂涎ものである。

SFX/VFXを手掛けてきた巨匠たちが一堂に会する夜

では、このパネル・ディスカッションの模様を紹介してみる事にしよう。

※それぞれのパネラーは、以下、J(ジョン・ノール)、D(デニス・ミューレン)、S(スコット・ファラ)、R(リチャード・エドランド)、E(エド・キャットマル)と表記 nabejyun0401.jpg

「帝国の逆襲」制作当時の思い出をお聞かせください。

R:スノー・ウォーカーのシークエンスは大変だった。白い雪が背景で、白いメカが動く。これはオプチカル(光学)合成では簡単ではなかった。白い世界の中でも、それぞれがきちんと認識出来ないといけないからね。当時の70mmオプチカル・プリンターは$250,000(1980年当時の通貨で6,250万円)もした。

D:今までの私のキャリアを振り返っても、「すごく大変だった作品」の上位に余裕でランキングするね(笑)。スノー・ウォーカーは全てミニチュアのコマ撮りによるストップモーションだし、マルチパスで沢山登場したからね。

「帝国の逆襲」が最初にビデオ・リリースされた時、宇宙船の周りに四角い枠が沢山、パカパカしているのをご覧になられた記憶をお持ちの方もおられると思う。あれはオプチカルのガベージ・マットが、フィルム上では見えないが、ビデオ・コントラストになると浮き立って見えてしまうという計算外のトラブルだった。

S:デジタルになって、今デニスが言ったような問題や、マットラインの問題は完全に解決された。デジタルはこういう問題も含めて、あらゆる部分で絵のクオリティを向上させる大きなステップに繋がった。

R:モーション・コントロールカメラの操作も大変だった。複雑なデータ入力をして、カメラを一生懸命操作して…でも、ジョージにはそんな事情は関係なく、いつも我々に残酷な指示を出していた(笑)

E:ジョージが偉大な所は、デジタル・ツールを開発していく機会を我々に与えた事だと思う。それが今日に繋がっている。

-「帝国の逆襲」の隕石のシーンで、ジャガイモが飛んでいるという”噂”は本当ですか?

D:本当です(笑)。

「未知との遭遇」の1シーンでは、宇宙船のパーツの中に、R2D2が逆さに立って紛れ込んでいるシーンもある。

-今日はUSCの学生が沢山来場していますが、良い作品を作っていく為のアドバイスを。

N:良い作品を作るには、優れたアーティストが不可欠。そして、優れたアーティストに良いツールを提供出来る環境を作っていく事は常に重要だ。

D:写真の技術や、理論を勉強しておく事をオススメしたい。また、日頃の生活の中でも、動きやタイミングなどを、常に深く観察する事も重要だと思う。

「自分に嘘をつかない」これが向上していく上で大切。自分に厳しくし、時には他人からフィードバックを貰いながら、自分を磨いていく。自分のスキルを常に上げていく姿勢が無ければいけない。

E:「深く、長く考える」事。ほんの数パーセントの要素を詰めるだけで、結果は大きく変わっていくものだ。

J:意識すべきは”Makes work better”。 さきほど、デニスが言った「己を批評する」姿勢はすごく大切だと思う。私自身、ディリー試写でショットに対してコメントを出す時、ただ「変更してくれ」と指示を出すのではなく、「なぜ、どんな理由によって変更して欲しいか」を明確に指示するようにしている。これが、人材育成の観点からも大切だと考えている。

R:古い映画を観ると、時としてアイデアを得られる事がある。いろんな表現方法を学べる。そして、映像表現上、良い意味での「嘘」をつくテクニックも学ぶ事が出来る。

現在の3Dブームについて、どう思われますか?

R:今、ハリウッドで一番3D映像の事を理解している映画監督はジェームズ・キャメロン監督だろう。3D映画はブームだが、まだまだ3Dをきちんと理解出来ている映画監督は少ない。最近では、通常の制作費プラス300-500万ドル(2.4億円~4億円)で立体作品として作る事が可能になり、これからも3D作品が増える傾向にある。

D:3Dはポスプロの各プロセスに時間が掛かる。いろんな部署を介するので、どうしても時間が掛かってしまう。それでいて、クライアントには時間どおりに出さないといけない。作業時間の短縮が今後の課題だろう。

E:スタジオ映画会社は、チケットが売れるから、3D映画を作りたがる。しかし、お金儲け主導での3D制作は、クリエィティブな観点からすると、あまり褒められた傾向とは言えない。(ここで、場内から拍手が起こる)

-3Dブームが一段落したら、次は何が来ると思いますか?

E:テクノロジーが進化して、そのうち一般家庭でも4K、8Kの映像が普通に見ることができるでしょう。アーカイブの課題も出てくるだろうね。 D:次に来るのは、「1秒あたりのフレーム数」だろう。最近、キャメロン監督もこの件について言及していたが、秒24コマのスタンダードが、将来48コマ/秒とか、60コマ/秒とか、フレーム数が増えていく可能性はあると思う。

J:今後必要なのは新しいテクノロジーの「発明」を続けていく事。技術を止めてしまわないように、歩み続けて行く事。そして、それを使うアーティストのツールは、可能な限りシンプルであるべき。これが重要なテーマだろう。

…と、このようなパネルディスカッションが行われた後は、いよいよ97年に再公開された「帝国の逆襲 特別編」の特別上映会である。この日の上映用マスターは、4Kでデジタル・リマスターされた、かなり特別なものだという。

会場のUSCの学生達は、「帝国の逆襲」を大スクリーンで観た事が無い人がほとんど。中には、この作品を初めて観るという学生もいた。筆者も、大スクリーンで観るのは97年の『スター・ウォーズ/帝国の逆襲 特別篇』をハリウッドのチャイニーズ・シアターで観た時以来で、感慨もひとしおであった。大スクリーンから伝わってくるパワーやエネルギーは相当なもので、やはり「映画は映画館で観るみるべき」を実感出来た瞬間であった。

ご存知のように、97年に再公開された「特別編」では部分的にデジタルVFXが追加されているが、多くは1980年当時のSFX技術のショットのまま。ヨーダはすべて人形だが、その豊かな表情が醸し出す「ストーリーテリング」はすばらしい。また、エフェクト1つ1つの完成度も今観ても遜色ないショットばかりだ。久しぶりの鑑賞で、筆者は大きな感動に包まれ、USCを後にした。

余談だが、最後にアメリカならではのエピソードを。

日本ではお馴染みではないかもしれないが、アメリカではこの作品の「名場面」として誰もが知っていて、大好きなシーンがある。ハン・ソロが炭素冷凍に掛けられる直前の、レイア姫とのやりとりである。

レイア  「I love you.」

ハン・ソロ「I know.」

この「I know.」の瞬間、映画館の場内からは、例外なく大拍手と大歓声が上がるのである。この日もかなりの盛り上がりであった。このような形で、特別講演&特別上映会は大盛況の下に終了した。このようなイベントが大学で開催され、学生達にも門戸が開かれている事に、ハリウッドの懐の広さと、人材育成に対する柔軟な姿勢が感じられた。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。