取材:鍋 潤太郎、撮影:山下 奈津子、画像提供:Visual Effects Society

はじめに

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第12回VESアワードにて。ステージ上の演壇にもロゴが

2月12日(水)、ロサンゼルスにおいて、第12回VESアワード授賞式が華々しく開催された。会場となったビバリー・ヒルトン・ホテルは、かの有名なゴールデングローブ賞授賞式の会場としてもお馴染みの場所である。ホテルに到着すると、そこにはレッドカーペットが敷かれ、報道陣がフラッシュを焚き、タキシードやドレスに身を包んだVFX業界関係者がリムジンで乗り付け、ハリウッドの受賞式らしい華やかな雰囲気に包まれていた。当夜集まったゲストの数は1,000人以上。これだけ大勢の人材が、共にハリウッドのVFX業界を支えているのだという事を実感した瞬間であった。

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場内は1000人以上のゲストで賑わった

VESとは何か

VESは「Visual Effects Society(米視覚効果協会)」の略で、米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの数ある映画ギルドの1つ。ハリウッドを中心とする映画&テレビ等の映像業界におけるVFX業界に従事するプロフェッショナル達で構成される、「VFXのプロの、プロによる、プロの為の協会」である。VESの設立は97年で、米国および32ケ国に約2,800人の会員がいる。会員は年々増え続けており、世界最大規模のエフェクト業界のギルドである。会員になるには、最低5年間の現場経験を有する事が条件とされている。また、現役会員2名の推薦が必要とされ、最終的には年2回だけ行われる理事会の承認が必要となる。このVESは、日本では稀に『ベス』と誤読される事があるようだが、アルファベット3文字を『ヴィ・イー・エス』と呼ぶのが正式な呼び名である。

VESアワードとは

VESアワードは「VFX界のアカデミー賞」とも呼ばれ、世界中から応募されたVFX作品の中から、映画、テレビ(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全24カテゴリに及ぶ最優秀作品がVES会員の投票によって選ばれる。そして授賞式では、その受賞作品の発表及び表彰が行われる。

特別賞

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ビジョナリー賞を受賞した、「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督

VESは毎年、優れた功績を残した人物に特別賞を贈っており、その受賞セレモニーもハイライト・イベントとして行われた。

今年は「スター・ウォーズ」(1977)や「スパイダーマン2」(2005)で2度のアカデミー賞に輝き、VFX業界に多大な業績を残してきたジョン・ダイクストラ氏に生涯功労賞(Lifetime Achievement Award)が、そして映画「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督にビジョナリー賞(Visionary Award)が、それぞれ贈られた。このビジョナリー賞は2011年から制定された新しい賞で、先見的&革新的な功績を残したと認められる人物に贈られ、これまでに「ライフ・オブ・パイ」のアン・リー監督(2012)、「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督(2011)らが受賞している。

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生涯功労賞を受賞し、檀上でコメントを述べる“巨匠”ジョン・ダイクストラ

さて、今年の話題をさらったのは何と言っても「ゼロ・グラビティ」と「アナと雪の女王」だろう。「ゼロ・グラビティ」はトータル6部門で圧勝、また「アナと雪の女王」も4部門での受賞を果たした。そして、HBOのドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ The Climb」と、TVコマーシャル「PETA:98% Human」がそれぞれ3部門で受賞した。

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「映画部門:最優秀VFX賞」に輝いた「ゼロ・グラビティ」

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4冠という圧倒的な強さを見せた長編アニメ「アナと雪の女王」のディズニー・クルー

今年の著名ゲスト

VESアワード受賞式は、毎年豪華なゲストが登場する事でも話題だ。今年の司会はピクサー作品「レミーのおいしいレストラン」でレミーの声を演じたコメディ俳優、パットン・オズワルトが、2011年以来2回目となる司会を務めた。

また、ハリウッド・スター達が賞のプレゼンターとして登場。ドラマ「バイキング」でプリンセスを演じたアリッサ・サザーランド、「グレイズ・アナトミー」「Xファイル」のシャロン・ローレンス、「トロン:レガシー」のブルース・ボクスライトナー、「怪盗グルーのミニオン危機一発」で楽曲を提供した音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムス、「ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中」のジョニー・ノックスビル等が登場、ハリウッドの授賞式らしい華やかな雰囲気に包まれていた。

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左から、俳優パットン・オズワルト(司会)、エリック・ロス(VES代表)、女優サンドラ・ブロック(プレゼンター)、「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督、「ジャッカス」シリーズでお馴染みの俳優ジョニー・ノックスビル(プレゼンター)、ジェフ・オークン(VESチェア)の各氏

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プレゼンターを務めた、ハリウッド女優アリッサ・サザーランド

また、生涯功労賞を受賞したジョン・ダイクストラのプレゼンターを務めたのは、“特撮の神様”ダグラス・トランブルだった。

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ジョン・ダイクストラの生涯功労賞プレゼンターを務めた、“特撮の神様”ダグラス・トランブル。「その昔、ジョージ・ルーカスからオファーされたスター・ウォーズという得体の知れない仕事を断って、ジョン・ダイクストラに押し付けたが、後で一生後悔する事になった(笑)」という仰天エピソードを披露した

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檀上でダグラス・トランブルが話す昔話を懐かしそうに聞く、ジョン・ダイクストラ

そして、今年のサプライズ・ゲストは、「ゼロ・グラビティ」でビジョナリー賞(Visionary Award)を受賞したアルフォンソ・キュアロン監督のプレゼンターとして、なんと!!!!予告もなく女優サンドラ・ブロックがステージに登場。サンドラ・ブロックが登場した瞬間、場内からはどよめきが起こっていた。「ゼロ・グラビティ」の監督へのプレゼンターとしては“これ以上ない、ベスト・チョイス”で、心ニクイ演出であった。

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アルフォンソ・キュアロン監督を紹介する、女優のサンドラ・ブロック

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檀上でコメントを述べるアルフォンソ・キュアロン監督、左はプレゼンターのサンドラ・ブロック

海外で活躍する日本人のノミネート

また、VESアワードの話題として外せないのが、海外で活躍している日本人のノミネートである。今年は、森廣康二氏(キャラクターTD/DreamWorks Animation)が「クルードさんちのはじめての冒険」で「映画部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞」に、敦賀譲治氏(CG Lead/The Mill)が「Sony PlayStation:PerfectDay」で「コマーシャル部門:最優秀VFX賞」に、それぞれノミネートされていた。惜しくも受賞は逃したものの、海外で活躍する日本人がハリウッドの桧舞台で認められた功績は大きい。

NABE_vol44_13.jpg 「クルードさんちのはじめての冒険」で「映画部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞」にノミネートされた森廣康二氏
写真提供:森廣康二氏
NABE_vol44_14.jpg 「Sony PlayStation:PerfectDay」で「コマーシャル部門:最優秀VFX賞」にノミネートされた、敦賀譲治氏(左から3人目)、The Mill NYのみなさんと
写真提供:敦賀譲治氏

さて、今年も日本からの作品が1本もノミネートされなかったのが大変残念だ。過去には日本の作品がノミネートを果たしており、ノミネートのみならず、受賞を果たせる可能性も充分にあるのだ。来年のVESアワードでも、奮って日本からの作品応募を期待したいものである。

こぼればなし:珍ハプニング

今回の授賞式では、進行ミスによる珍ハプニングが起こった。「映画部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シミュレーション賞」でノミネートされた4作品「ゼロ・グラビティ」「マン・オブ・スティール」「パシフィック・リム」「ホビット 竜に奪われた王国」のクリップが流れた後、受賞作品として発表されたのは、なぜか長編アニメ「アナと雪の女王」。

思わず「は?」と顔を見合わせる人、爆笑する人、固まる人など、場内は騒然。実は、その後に控えていたアニメ部門の同カテゴリを、間違えて先に発表してしまったというハプニングだった。

しかし、ディズニーの代表者達はお茶目にもステージに登壇、「いや〜、“予期”していませんでしたよ」と笑顔でトロフィーを受け取るなど、エンターテイメント業界ならではのナイスなフォローで場を盛り上げていた。映画部門の同カテゴリの発表は、その直後にやり直しで再度行われた。

第12回VESアワードの受賞作品一覧は下記のとおり(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。

映画部門:最優秀VFX賞「Gravity」

  • Tim Webber
  • Nikki Penny
  • Neil Corbould
  • Richard McBride

映画部門:助演VFX賞「The Lone Ranger」

  • Tim Alexander
  • Gary Brozenich
  • Shari Hanson
  • Kevin Martel

長編アニメーション部門:最優秀アニメーション賞「Frozen」

  • Chris Buck
  • Jennifer Lee
  • Peter Del Vecho
  • Lino Di Salvo

放送部門:最優秀VFX賞「Game of Thrones: Valar Dohaeris」

  • Steve Kullback
  • Joe Bauer
  • Jörn Großhans
  • Sven Martin

放送部門:助演VFX賞「Banshee: Pilot」

  • Armen Kevorkian
  • Mark Skowronski
  • Jeremy Jozwik
  • Ricardo Ramirez

ゲーム部門:リアルタイム・ビジュアル賞「Call of Duty: Ghosts」

  • Mark Rubin
  • Richard Kriegler
  • David Johnson
  • Alessandro Nardini

コマーシャル部門:最優秀VFX賞「PETA: 98% Human」

  • Angus Kneale
  • Vince Baertsoen
  • Colin Blaney
  • Kyle Cody

博展部門:最優秀VFX賞「Space Shuttle Atlantis」

  • Daren Ulmer
  • John Gross
  • Cedar Connor
  • Christian Bloch

映画部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞「The Hobbit: The Desolation of Smaug: Smaug」

  • Eric Reynolds
  • David Clayton
  • Myriam Catrin
  • Guillaume Francois

アニメーション部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞「Frozen: Bringing the Snow Queen to Life」

  • Alexander Alvarado
  • Joy Johnson
  • Chad Stubblefield
  • Wayne Unten

コマーシャル / 放送部門:最優秀賞キャラクター・アニメーション賞「PETA: 98% Human」

  • Vince Baertsoen
  • Alex Allain
  • Henning Koczy

映画部門:最優秀デジタル背景賞「Gravity: Exterior」

  • Paul Beilby
  • Kyle McCulloch
  • Stuart Penn
  • Ian Comley

アニメーション部門:最優秀デジタル背景賞「Frozen: Elsa’s Ice Palace」

  • Virgilio John Aquino
  • Alessandro Jacomini
  • Lance Summers
  • David Womersley

コマーシャル / 放送部門:最優秀デジタル背景賞「Game of Thrones: The Climb」

  • Patrick Zentis
  • Mayur Patel
  • Nitin Singh
  • Tim Alexander

映画部門:最優秀バーチャル撮影賞「Gravity」

  • Tim Webber
  • Emmanuel Lubezki
  • Richard McBride
  • Dale Newton

コマーシャル / 放送部門:最優秀バーチャル撮影賞「The Crew」

  • Dominique Boidin
  • Rémi Kozyra
  • Léon Bérelle
  • Maxime Luère

映画部門:最優秀モデリング賞「Gravity: ISS Exterior」

  • Ben Lambert
  • Paul Beilby
  • Chris Lawrence
  • Andy Nicholson

映画部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シュミレーション賞「Gravity: Parachute and ISS Destruction」

  • Alexis Wajsbrot
  • Sylvain Degrotte
  • Horacio Mendoza
  • Juan-Luis Sanchez
  • アニメーション部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シュミレーション賞「Frozen: Elsa’s Blizzard」

    • Eric W. Araujo
    • Marc Bryant
    • Dong Joo Byun
    • Tim Molinder

    コマーシャル / 放送部門:最優秀エフェクト・アニメーション&シュミレーション賞「PETA: 98% Human」

    • Vince Baertsoen
    • Jimmy Gass
    • Dave Barosin

    映画部門:最優秀コンポジット賞「Gravity」

    • Mark Bakowski
    • Anthony Smith
    • Theodor Groeneboom
    • Adrian Metzelaar

    放送部門:最優秀コンポジット賞「Game of Thrones: The Climb」

    • Kirk Brillon
    • Steve Gordon
    • Geoff Sayer
    • Winston Lee

    コマーシャル部門:最優秀コンポジット賞「Call of Duty: Epic Night Out」

    • Chris Knight
    • Daniel Thuresson
    • Nick Tayler
    • Dag Ivarsory

    学生部門:最優秀VFX賞「Rugbybugs」

    • Matthias Baeuerle
    • Carl Schroeter
    • Martin Lapp
    • Emanuel Fuchs

    WRITER PROFILE

    鍋潤太郎

    鍋潤太郎

    ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。