先月に続き、トイ&ゲームフェア(Hong Kong Toys&Games Fair)周辺の話題から話を始めたい。もう2ヶ月近くも前の2010年1月11日~14日まで香港会議展覧中心にて開催されたものではあるが、やはりアジア圏における向こう一年のアニメ/ゲーム業界を占うには前回だけでは紙面が足りない。今回は会期から時間も経ったこともあるので、周辺情報を中心にお話ししたい。

HKTDCビジネスセンター

まず、ご紹介したいのが香港貿易発展局、通称HKTDCのビジネスセンターである。 HKTDCは貴重な香港会議展中心コンベンションセンターの一等地に大規模なビジネスセンターを構えている。そのため、海外からのバイヤーは、コンベンション会場から一切離れないまま、ここで貿易に必要な全ての香港側情報を入手することが出来る。このビジネスセンターには単にネット端末や起業情報があるだけでなく、日本の国立図書館の資料室並みの産業資料も取りそろえており、非常に心強い存在となっている。

 日本において、この手の貿易関連の役所が非常に不便な位置に多く、しかもコンベンションセンターから遠い立地であることが多いのとは正反対であり、我が国もこの仕組みは大いに参考にすべきだろう。

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HKTDCビジネスセンター。会期中は特に活発に利用されている

以前にも取り上げたが、香港が映像やエンターテインメントの中心地であり続けている理由の一つに、映像分野に関してのこのHKTDCの活発な動きがある。私が今回の香港行きで最も驚いたのが、この会場にいる入る直前に、HKTDCの日本支部から私の携帯電話(日本番号ローミングのもの)に電話があったことだ。去年日本で開催されたInterBeeでHKTDCのブースに名刺を渡していたのだが、電話では、その名刺の内容確認と、そして今実際に目の前でやっているトイ&ゲームフェアの案内があった。どうも、名刺に書いてある私の属性から、トイ&ゲームフェアのバイヤー条件にマッチする人間であるということでわざわざ参加をお勧めするお電話を頂いたものらしい。HKTDCのこの積極性は実に素晴らしいと言える。

私が既に香港に来ており、目の前にトイ&ゲームフェアの入り口がある事を説明すると担当の方は笑っていたが、電話も極めて丁寧で一切不快感のないものであった。今は、コンピュータによって顧客の個別管理は容易になっている。ならば、それをこうした貿易に関する政府機関が使わない手はないだろう。世界不況の今だからこそ、この積極性は、どんどん見習っていくべきではないかと強く感じた。

原点回帰するおもちゃ

今回のトイ&ゲームフェアは、実は、我々映像分野のものにとってはあまり良い知らせのないショーでもあった。その典型例が、おもちゃの原点回帰とでもいうべき現象だ。会場では、たとえば、木製の組み立て式おもちゃ、木製模型、風力で走るヨットのラジコン、ゴムボートなどが、隆盛を極めていた。こうしたおもちゃには高い精度が必要だったため、高価であり、また数が作れるものでもなかったのだが、これが最新のCAD/CAM設備によって量産され、安価に出回るようになったのだ。従来の手作り時代であれば、庶民にはとても手が出なかったものが安価に手に入るとあって、かなりのバイヤーを集めていた。

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今回人気を集めていたグッズの一つ、木製のおもちゃ。中国本土でもこうしたものが量産できるようになった

確かに元々この香港トイ&ゲームフェアはこの手のおもちゃが多いイベントではあるが、こうしたおもちゃブースの方に聞いてみても、おもちゃの原点回帰によって、今まで以上に映像技術を使った電子おもちゃの出番が減りつつあるいる、という話であった。映像を使った電子おもちゃのブースには人影があまりなかった点からも、こうした話は事実だろう。我々映像制作者としても、こうした時代への対応を上手く考えなければならないだろう。

マカオのカジノの近代化とCG映像の利用

 私が香港のついでにいつも立ち寄るのが、エンターテインメントの街マカオである。最後に、このマカオの事情についても少々触れたい。実は、映像分野の制作者にとって、将来性のある市場として見逃せないのが、カジノマシン向け市場なのだ。いま、カジノシーンは熱く注目されており、定番のラスベガスやマカオ、ケアンズなどだけでなく、韓国やシンガポールもカジノ市場に乗り込んできており、ゆくゆくは日本でも沖縄や東京でのカジノ特区の構想がある。

そうした中、カジノに欠かせないスロットマシーンやポーカーマシンなどのゲーム機は、次なるデジタル映像市場として、CG映像業界の一部から、熱い注目を受けているのである。マカオの、去年から一年間での大きな変化として、スロットマシンやその他コンピュータ制御のゲーム機がほぼ全てレシート式のコインレスのスタイルに変わった事が挙げられる。それに伴って、マカオのほとんどのスロットマシンに様々なデジタル映像が採用されるようになった。世界規模で仕事に困る我々の業界にとって、これは非常に嬉しい話である。

そうした機械にはラスベガスで利用されている筐体を単に中国語版に直したものも多いが、マカオ版独自開発のモノの方が種類も豊富でエンタテインメント性も高いものが揃っている。元々、マカオではルーレットやバカラ、大小などのテーブルゲームに人気があり、カジノゲーム機の人気は低いものであっただけに、この機材の変化がカジノ客の動向にどう影響しているのか、そこに期待をしてのマカオ入りであった。

実際にカジノに来てみると、やはり、ビデオゲーム機コーナーは、人が少ない。さすがに全体に機械が新しくなっているだけあって去年よりは人が多いが、それでも、ラスベガスや日本のパチンコパチスロのような盛り上がりは無い。

 デジタル映像を使った画面は大変綺麗になっていて、たとえばルーレット機で、バーチャルディーラーが玉を転がすコンピュータ映像による多人数マシンなどが人気を集めていたが、これも、実際の人間がディーラーをするテーブルゲームが混んでいるから仕方なくこっちに来ている、という感じであった。

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ゲーム機コーナーの例。夜6時の時間帯だが、人影はまばらだ

 これに対して、テーブルゲームは相変わらずの大盛況である。つまり、ゲーム機コーナーの不振は、不況だけが理由ではない。今回、マカオの街を半日だけぐるっと回ってみたが、その不況には驚かされた。平和なマカオで暴動があったと聞いて信じられずにいたが、実際に訪れてみれば。確かに暴動が起こりうるだけの不況であった。その中でも、テーブルゲームだけは人気が落ちずにいるのだから、これは、カジノゲーム機の人気がまだ固定化されていない証拠と言えるだろう。

同時間帯テーブルゲームコーナー。鉄火場の熱い空気がある

やはり残念ながら、ギャンブル向けデジタル映像制作に日本のパチンコパチスロ市場のような大きな盛り上がりを期待するには、もうしばらく時間がかかりそうだ、と言わざるを得ない。実は、こうしたカジノゲーム機は日本のメーカーが大きなシェアを持っている。それだけにカジノゲーム機の行く末は、日本のデジタル映像市場への影響は実は小さくない。まだ盛り上がりとは言えないとはいえ、去年から今年に掛けてカジノゲーム機が進化して、マカオでもカジノゲーム機のプレイヤーが徐々に増えているのは体感した。ここでもう一がんばりして、来年に向けてさらなる飛翔を期待したいところだ。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。