2010年3月25~28日まで開催された「東京国際アニメフェア」は、去年までとは大きく様変わりをしていた。ビジネスデーに日本人同士の商談の姿が非常に少なく、代わりに海外向け、特に中国向けのビジネス客が目立ったのだ。Asianimationを中心にアジアの映像事情を紹介するこのコラム。今回はこの「東京国際アニメフェア」に注視してみたいと思う。

アジア向けライセンスフェアに特化した東京国際アニメフェア

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「東京国際アニメフェア」は、今回で9回目になる世界最大のアニメ見本市だ。数年前までの東京国際アニメフェアは、海外参加者が1000人前後の比較的少人数と言うこともあり、主に日本国内向けのフェアであって、ビジネスデーともなれば活発に商談をするアニメ関係者たちの姿が見られたものであった。しかし、今年は従来のアニメフェアとは明らかに様子が違った。というのも日本側企業はアジア、特に中国向けにライセンス販売をアピールする場として捉え、反対に、中国企業側ブースは日本からのさらなる受注を得ようと大規模に乗り込んでくる、という状況であった。出展海外ブース数こそ59と少なめであったが、その盛り上がりは大変なもので、海外客も格段に増えたように体感した。

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会場横の海外受付ブースにも列が出来ていた。海外客専用の広大な交渉ブースも設置された

結果から言えばこの状況は双方共に大成功であったようだ。それは中国共産党文化部の著名な顔もあちらこちらに見受けられたところからも伺える。それ以外にも中国に進出している日本企業の方々も大勢戻ってこられており、普段は中国でしかお会いできないような面々と会場内で偶然にお会いすることが出来たのは個人的には嬉しいことであった。しかし、逆に言えばこうした見本市の場での日本企業同士のビジネスが成立しなくなってきていると言うことでもある。

実は、東京国際アニメフェア自体、数年前からビジネスデーでの商談が徐々に減っており、一般客向け対応を重視したイベントとなってきている傾向があった。しかし、それでは見本市の意味があまりない。そこで、海外専用の交渉ブースまで設けての積極的海外呼び込みを行い、それが功を奏した、という事情のようだ。

このイベント、もともとは日本アニメの映像ライセンスを海外にも売り込もうという意図があって「国際」と銘打って始められたイベントでもあるので、ようやくここ数回にしてその本来の姿に立ち戻ったとも言えるのかも知れないが…。日本人制作者、そして日本のアニメ企業経営者の一人としては、非常に複雑な思いがある。

オリジナル作品を作り始めた中国企業

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文化部ブース内「悟空パンダ連盟」コーナー。湯澤明(Jack Tang)理事長自らが対応してくださった
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中国共産党文化部ブースにて。北京でもあり得ないような豪華な面々が並ぶ発表会であった

作品面から見た場合、今回の「東京国際アニメフェア」の特徴の一つに、ついに中国がオリジナル作品の制作に本腰を入れ始めた、と言う事が挙げられる。これは、中国共産党文化部(文化省)のブースを見ると一目でわかる。文化部ブースは典型的な政府系ブースで、基本的に日本企業からのアニメ/ゲームの受注生産を目指している各地方の動漫基地の出展するミニブースの集合体である。

ところが、今年のアニメフェアでは、これらミニブース群の中でも、いくつかのオリジナル作品展示が目立っていた。こうした姿勢は明確に日本にも中国作品を売り込もうという姿勢を中国政府として持っているということであり、注目に値する。

その出展総数は、大小併せて100種類以上の新作アニメとキャラクター類。本格的なアニメだけでも70を超える数の出展があったとのこと。日本のアニメが出展数を激減させる中で、正直なところ、どこの国の見本市かわからないほどの状況であった。

文化部ブースで目立っていたのが、「悟空巴布品牌連盟(悟空パンダグッズ連盟)」というオリジナルキャラクター。中国ではかなりの人気らしく、確かにあちこちで見かけるキャラクターである。この「悟空パンダ連盟」の新製品発表を日本の東京国際アニメフェアで行ったのは極めて象徴的な出来事であったと思う。

まだまだキャラクターの洗練度や統一性では未成熟なところがあるが、今後の展開が楽しみであり、また、日本のアニメ業界人としては強大なライバルが目覚めつつある状況に、どこか恐ろしくもある。

他国のブースも百花繚乱

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Index社副社長、Eng. Anas Al Madani氏が自ら対応をしてくださった
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この日はビジネスデーだったので人は少なかったが、OTACONブースは一般日に賑わった模様
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海外の空気が濃い中、ここだけは秋葉原駅前の空気。ここに来るとほっとするのはなぜだろう?

中国だけではなく、他国のブースも紹介しておきたい。まず、色々話題になっているドバイのコンベンション情報も出ていた。「ドバイ国際キャラクター&ライセンスフェア」といって、2010年11月29日~12月1日まで開催される、中東最大のアニメ系フェアだ。

しかし、こちらは開催までまだ間があるほか、ドバイの強烈な不況の影響もあって、ポスターのみの参加でスタッフも一人だけと、ちょっと力の抜けた感じであった。正直なところ、アジアのアニメ業界が中国一強になって貰っても困るので、なんとかドバイを始めとする西アジアのアラブ勢にも力を取り戻して欲しいものだ。このドバイフェアには注目していきたい。

米国のブースも紹介したい。この写真のブースは、日本人のオタクにも有名な「OTACON」のブース。日本で言うところの「ワンダーフェスティバル」に若干「コミケ」の要素が加わったような、北米素人オタクによる北米素人オタクのための非常に濃いイベントである。北米大陸中から日本アニメ好きが集まることで著名なOTACONだが、今年はメリーランド州バルチモア、バルチモアコンベンションセンターで7月30日~8月1日まで行われるとのこと。

NPO法人ながら、わざわざ通訳まで常駐で置いて、熱心な活動をしていた。

最後に、日本のオタクイベントらしく、日本オタク的ブース紹介。海外色の強い今年のアニメフェアではあったが、秋葉原名物のちょっとエッチな空気を漂わせるメイドさんも会場に現れていたのでご安心を。秋葉原では有名な「萌土産」が独自ブースを出して居り、その一環とのこと。中身は比較的普通のお菓子やカレーだそうだが、こういうパッケージで出ると別物に見えるから不思議だ。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。