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[オタク社長の世界映像紀行]Vol.10 変わる日本のポジション2

2011-05-03 掲載

そろそろ大震災から2ヶ月が経とうとしているが、東日本では思ったよりも復興が進んでいない。それもそのはず。津波が少なかったために死者数こそ東北には及ばないが、日本の経済の実に4~6割を担う肝心の首都圏が小~中程度被災した上、その首都圏から東北へと繋がるみちのく入り口の福島県東部が原発事故でやられてしまっているのだ。これではただでさえ大変な復興作業が上手く回るはずがない。新幹線の再開などがようやく出来たばかり、復興開始はこれから、と言う状況だ。そんな中、テレビ番組構成などはようやく平常運転に戻りつつある。我々映像制作者の仕事も、多大なキャンセルを出しつつも、ようやくこれから復興開始というところだろう。今回も前回に続き、震災後の日本のポジションなどについて、アニメの制作現場目線からお送りしたい。

東京近郊にとどまった多くのアニメ制作拠点

映像制作業界において、今回の震災で最も心配されたのが、今後の映像制作拠点はどこになるのか、という点だった。ご存じの通り日本での映像作品制作、特にアニメ制作は東京近郊に集中しており、他はせいぜい京都と大阪で一部作られている、と言う程度の状況である。そんな中、東京電力による無計画極まりない計画停電と原発による流通混乱で、果たして東京近郊での制作が継続可能なのか、という点が心配されていたのだ。

結論から言えば、4月末現在もほとんどの作品において、東京での映像制作が続いている。不透明とはいえ計画停電の中止宣言もあり、制作会社の多くは東京にとどまり、制作を続ける事を選んだようだ。アニメ業界の場合には人材が日本中から集まっており、東北出身者に多くのマンパワーを頼っていた製造業などと異なり、人材不足にも陥らなかったことも幸いしたようだ。とはいえ、京都や大阪に制作場所を持つ企業などではそちらの制作比重を増やしたり、あるいは震災の影響で特番のために番組そのものが無くなってしまったり、映画やイベントそのものが消滅してしまったりして制作中断となる例も多々耳にしている。震災と事故からそろそろ2ヶ月になろうというのに、まだまだ先は見えない状態だ。

そんな中、朗報もある。各地のオタク系の専門学校などを見ると、日本へ戻ることを心配された諸外国の学生たちが続々と学校へ帰ってきているのだ。それも、関西や九州などだけではなく、他業種外国人のめっきり減った東京近郊の学校にもその多くが帰ってきている。実際、私の教える専門学校で話を聞くと、自らのオタク心をもって、家族や友人の反対を押し切って日本に戻ってきた、という子が多いようだ。世界基準からかけ離れた根拠の怪しげな暫定基準値を振りかざす日本政府には警戒しつつも、自分なりの判断で帰ってきた子が多い。これは、世界オンリーワンのオタク業界に関する教育をまともに受けられるのは日本だけであり、そうしたオンリーワン業界は、震災や軽度放射能にも負けない、ということを如実に示していると思う。無論彼ら学生もバカではない。前回も書いたとおり「アニメ制作物は放射能汚染をされない」という強みもあり、日本の産業の中でも、今後もさほど原発被害の影響を受けないというしたたかな読みもあるようだ。

ただ、実業務に目を移すと、海外系の会社などでは震災後ずっと海外帰国中で連絡の付かない担当者もまだまだ多い。特に、震災前に日本オタクコンテンツに強い興味を示していた欧州や中国の企業は「北のオタクの都」と呼ばれた仙台に拠点を持っていたところも多く、仙台被災のダメージから抜けられずにいるようだ。私のもう一つの顔である刀工(まだ弟子として修行中の身だが)方面でも、東北に多くの欧州関係者が居て、被災により営業活動休止中のところが多い。少し考えれば自然なことだが欧州の日本刀愛好者はアニメから日本刀好きになった者も多く、オタクが多いため、オタク方面にも強い仙台近郊で事務所を持っていたところが多々あった。その相当数が被災してしまった様子だ。いずれにせよ、日本のアニメ制作は、ゆっくりではあるが立ち上がり、前に向かって進みつつある、と言える。少なくとも、他業種よりもかなり確実に立ち上がりつつある。

特に、被災地の避難所でもアニメの時間になると子どもたちがテレビにかじりつく様子が見られていると聞く。震災でダメージを受けた子どもの心のケアのためとのことで、今もなお子ども向けアニメの需要は低下していないのだ。これは、我々制作者にとってはなによりの励みになるのではないか。それにしても、いざこうした事態になってみると、ITバブル前後に沖縄や四国、九州などで一時期取り組まれていたアニメ制作拠点の地方移転運動が結局うやむやになってしまったのが大変惜しい。もし、あのときに地方分散制作やSOHO化が進んでいれば、また違った展開もあっただろう。こういう面からも、制作環境に対する政治の影響というものを強く感じざるを得ない。

国策とアニメ

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西安の動漫基地の一部。市街地にある中規模ビルの動漫基地本体の他に、郊外に制作拠点企業向けの大型ビル群を備える形式

アニメ制作に関係して政治がどうのこうのというと、眉をひそめる向きも多いとは思う。しかし、諸外国においては、アニメは政治と密接に関わって成長してきた。この連載でも繰り返してお伝えしてきたとおり、中国ではアニメ制作は国家の重要事業の一つと位置づけられ、例えば、北京、杭州、天津、西安、成都などでは、市政府(日本で言うと都道府県以上の規模と権力の地方政府)の主導での「動漫基地」(超大規模アニメ・ゲーム制作企業地域)の設置を大車輪で行っている。

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西安の動漫基地内部。最新の環境での政策が進む。なんと、初年度入居費は無料。その代わり、確実に成果を上げ、近い将来の多額の納税と、多くの人を雇い続けることを政府に期待されている。ダメな企業は数年で撤退を余儀なくされる

韓国では、各省庁ごとにネットゲームを推進し、政策に補助金を出すだけでなく、諸外国での商業展開も積極的に政治協力し、ゲームプレイヤーによる国際大会や国際表彰システムの設置にまで乗り出してきている。つまり、日本でもおなじみの自動車や航空機、新幹線や原発のような、政治トップ、省庁トップによる国家的売り込みを、アニメやゲームでも積極的に行っているのが、日本以外の状況なのだ。

teduka1003.jpg韓国で最もいかつい観光名所の一つである戦争博物館。ここにも韓国の国策であるゲームの影響は強い

そもそも、世界最初の大ヒットアニメ映画であるディズニーの「白雪姫」は、ナチスドイツに対抗するためにドイツを追い出されたユダヤ系映画関係者たちによって作られた、米国の国策要素の強い作品だ。繰り返しになるが、アニメはそもそもが政治と密接に関わって成長してきたのだ。

そんな中、戦後日本だけが政治の無頓着により、良くも悪くも放置された状態で制作を続けてきた。ニュース番組や報道調査番組などの「メインカルチャー」は厳しく管理されて政府や官僚、大企業の影響が色濃く見えるが、反面、アニメやドラマなどは「サブカルチャー」と位置づけてくれていたため、幸か不幸か完全に放置されてきたのだ。そのため、日本のアニメやゲームは他国に例を見ない独自の進化を遂げることとなり、世界に多くのファンを獲得した。反面、国際競争力としてははなはだ疑問の残る、家内制手工業に毛が生えた程度の制作体制のまま、21世紀を10年過ぎるまでの年月を過ごしてしまった。

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韓国では、ゲームが国策に密接に結びついている。写真は韓国国防省の戦争博物館。同博物館では無料で楽しめる射撃ゲームや体感式フライトシューティングゲームなど、ゲーム表現を積極的に取り込んでいる

地デジ化で変わる日本の状況?

数年前から日本でも大きな変革が訪れた。地デジ化である。官僚主導の地デジ化によって否応なしに高コスト化を迫られたため、家内制手工業に過ぎなかったアニメ制作や小規模ドラマ制作は一気に衰退。その直前にはBS放送ブームでのアニメ・ドラマ量産時代があっただけに、そのダメージは、より目立つ状況であった。ここ数年急に目立ちはじめたアニメ・ゲーム・ネットに対する表現規制問題も、裏を返せば地デジ化によって今までニュースや報道番組にとどまっていた官僚・政治干渉が、我々の住むかつてサブカルチャーと呼ばれたこの世界にも接近してきた、というだけのことなのだ。実は、ここしばらく、表現規制問題が話題になる度、政治側・官僚側こそ驚いている、という話を度々聞いた。つまり、彼らにしてみれば今までメインカルチャーに対して当たり前にやってきた表現規制を当たり前にアニメ等にも適用しようとしただけのことで、それが大問題になるとは夢にも思っていなかったというのだ。官僚の中には表現規制に対し「アニメが産業として成長してきた証で、通過儀礼だ」とまで言い放つ者も居て、辟易した記憶もある。

地デジ化による高コストで作りにくくなったところへ表現規制問題まで入り、さらに作りにくくなったそのダメージの真っ最中での、今回の震災・原発事故である。この状況で、今後は、我々アニメ関係者も政治や官僚たちの動きと無関係でいられ無いであろう事は、想像に難くない。

そうであれば、せめて良い影響が多く出てくれるように個々人が出来る範囲で何らかの活動をすべきではないだろうか。もはや「クリエイターに政治は関係無い」と頬被りをしているだけで済む状況ではなくなってきてしまったのだ。

例えば、せっかくハコ自体はあるのだから、中座していたアニメ制作拠点の地方移転構想の再活性化なども考慮すべきだろう。あるいは逆に、すっかりやりにくくなってしまった東京近郊での制作強化のための支援を考え、提案してゆくのも方法だろう。東北、特に仙台近辺での復興の際には、あるいは国家主導型での中国式の動漫基地も再考すべきかも知れない。もちろん、MIAUのような従来型のいわゆる「声を上げる」形での政治参加も今まで以上に大切になってくるだろう。

いずれにしても、放射能汚染の進んでしまった加工産業国家である日本において、製品が物理的に放射能汚染されない産業であるアニメ・ゲーム産業は、非常に重要なポジションを占めることになるのは確実な状勢だ。良くも悪くも、この震災からの復興は、日本のアニメ制作のポジションを変える、一つの機会になると思うのだ。


WRITER PROFILE

手塚一佳 CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。


[ Writer : 手塚一佳 ]
[ DATE : 2011-05-03 ]
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