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[オタク社長の世界映像紀行]Vol.13 沈没しつつある日本のゲーム業界

#オタク社長の世界映像紀行

2011-08-09 掲載

日本のゲーム産業が危ない、という事は、このコーナーでも散々繰り返してきた。 2011年7月29日。ついに、任天堂の株価が1日で12%も下がるという事態になった。前日に発表された同社「3DS」の値下げをきっかけとしているようだが、単一材料の割には取引量が非常に大きく、実際の所は同社経営の「ゲーム機依存率の高さ」に市場が嫌気を差して株主たちが手放す機会を狙っていた、という分析が強い。ゲーム機メーカーが本業のゲーム機依存の経営を指摘されて株価が下がるのだから、もうこれはゲーム業界全体として末期的だといえる。ゲーム業界が時代の寵児としてもてはやされていた時代から、まだ10年も経っていない。一体どうしてこんな事になってしまったのだろうか?

ネットゲームに乗り遅れた日本

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急速な進歩を遂げる中国。写真は上海のシンボル、東方明珠電視塔

私は仕事で中国のゲームメーカーを何社もまわったが、頭に焼き付いて離れない、あるゲーム制作会社役員の言葉がある。その会社では日本のネットゲームの中国運営を扱っていたが、その対応の遅さに嫌気を差し最終的には日本との契約を切ったという。その理由を担当役員に聞くと「日本のゲームメーカーはゲームをまるで芸術品か何かのように扱っている」という。中国側の主張では、日本のゲームメーカーは、自分たちの主張ばかり押しつけ、中国の現場の声を全く聞かないという。特に、ユーザーからのアイテム追加やキャラクター強化などの要望はまったく受け入れられず、そのため、全然売り上げが伸びなかったというのだ。

その担当者は「ゲームは娯楽。遊園地やショーと一緒だ。もちろん、遊園地やショーと同じように芸術性はあるかも知れないが、それはゲームの本質ではない。ゲームはお客さんを楽しませるのが本質だ。ゲームメーカーやゲームクリエイターたちが自分自身の主義主張にこだわって客の要望を取り入れないのは、世界市場では疑問のある態度だ。少なくとも中国では受けない」と力説した。

私は日本のオタクコンテンツクリエイターの一員として、日本ゲームの芸術性には一言ある。中国側の発言とは異なり、ゲームはただの娯楽ではなく文芸性も持っている、と信じてもいる。しかし、その担当者の言うとおり、日本のネットゲームで中国で成功を収めたものは一つもないのも事実なのだ。

そして、日本のゲームは中国のみならずネットゲーム全体で世界市場への進出に失敗した。これに対し、私も知人の政治家を通じて何度か質問を掛けたが、我が国の経済産業省は暢気にも「ゲーム専用機をプラットフォームとしたコンシューマゲームでの日本寡占状態は変わらないから大丈夫」と言い張っていた。しかし、世界市場は既にネットゲームに移行してしまっており、取り残されたコンシューマゲーム市場で日本勢が寡占をしていても何も意味はない。そして、それでもなお経産省主導でコンシューマゲームにこだわった結果が、今の日本ゲームメーカーの現状だ。冒頭で語ったゲームメーカーのゲーム機依存率の高さを理由とした株価暴落も、来るべきものが来たとも言える。

日本のゲーム産業の状況は、制作現場の体感的にも既に絶望的

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意外なことに中国ではゲームセンターのゲームは日本製。中国ゲームメーカーはネットゲーム時代から始まったため、こうしたアーケードゲームのノウハウが薄いのだ

先日も、ゲーム内映像制作の下請けの話があり、人月計算でアニメCGの標準的水準を提示したところ、「高すぎる」と強烈な反応を受けた。こちらはサービスでアニメ水準の価格を安く言ったつもりだったので、正直驚いた。従来、日本のゲームはアニメよりもはるかに高い人月価格で制作され、それ故にハイクオリティを保っていた。しかし、それは既に過去の話だ。もちろんこれ以外の他社ではさすがにアニメ以下の費用を要求されるということはまだ無いが、大幅に水準が下がってきている。しかし、不況故に各業界とも制作費が下がってきているとは言え、大昔の手塚治虫のダンピング以来、食うや喰わずやで有名なアニメ業界に人月計算で負けるというのは大問題だろう。

ゲーム制作期間が12~18ヶ月であることを考えると、東日本大震災や福島原発事故の影響も今はまだ出て居らず、これからそれらの影響がやって来る計算になる。日本のゲーム業界のこの先は、なかなかに暗い。そんな中、ゲーム業界で囁かれている言葉がある。それは「で、おたくは7号やってます?」というもの。この「7号」とは風営法上の「7号」許認可。つまり、麻雀店やパチンコ店に関わる案件だ。表だっては誰も言わないが、今、ゲーム業界は、パチンコやパチスロ向けのコンテンツを作り、それで糊口を凌いでいる状況なのである。もちろん、パチンコやパチスロもれっきとしたエンターテインメントであり、それを作る事に何も問題はない。実際、筆者率いるアイラ・ラボラトリも、実はかなり昔から(ゲーム業界が元気だった頃から)パチンコやパチスロの液晶演出の制作を手がけてもいる。

このまま7号だけに頼っている状況では先はない

韓国では既にパチンコは国力を削ぐとして全面禁止になっている。日本でも、東京都の石原知事がパチンコを「あんまり誇るべき文明の対応とは、私は言えないと思います」などとして、廃止をすべきと匂わせる方向性を示している*1)。私は石原都知事と異なり、さすがにパチンコやパチスロ廃止までは行かないと思うが、この状況で、しかもゲーム制作会社が大挙して制作に押し寄せてきている中、これから先、パチンコやパチスロでの制作が盛り上がっていくとは到底思えないのが本音だ。ただ状況に流されて7号案件の下請けに甘んじるのではなく、7号案件でのエッセンスに学び、ゲーム業界本体を復活させるべき状況に来ているのではないだろうか。

7号案件が、ゲーム業界本家のこの落ちぶれぶりにも関わらず、なぜここまでうまくいったか?これは、ネットゲームにおける中国側の発言がヒントになると私は思っている。パチンコやパチスロが本質的にギャンブルであるため、クリエイター側の主義主張が入りにくく、適度に客の要望をくみ取っているため、と考えられるのだ。もちろん「焦らし」は必要だから、中国ネットゲームのように、何でもかんでも客の言うままに取り入れるのは業界寿命そのものを縮めることになり、極めてまずい(事実、中国ではそうした何もかも取り入れた派手なネットゲームが飽きられ、チャット中心の昔ながらの「まったり系」ネットゲームが主流に戻りつつある)。しかし、ゲームは、クリエイター側が「芸術家で御座い」と自己主張を押しつけて、それで買ってくれるような商品でもないのではないか。

我々日本のクリエイターも、7号案件がしぶとく生き残って居ることに学び、プレイヤー本位のゲーム作りに回帰すべき時が来ているのではないだろうか。

*1)東京都ホームページ

フェリーと萌えの新しい関係

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おーしゃんいーすと丸は、東京都北九州を結ぶ、巨大なフェリー

さて、せっかく日本国内の話をしているので、最近の身の回りのオタクネタなどを少々。別記事でも紹介したが、私は宮崎に刀剣と武道の師匠が住んでいるため、度々宮崎に通っている。普段は飛行機や車での通いなのだが、車で現地にいる内に菅民主党の迷走の結果高速千円上限が無くなったため、フェリーを使って東京に戻ってくることになった。そこで、いくつか日本らしい「萌え」との出会いがあったので、それをご紹介したい。つまり「海外」の話ではなく「海上」でのオタク話だ。

長時間を船内で過ごすフェリーでは、ゲームコーナーがつきものだ。私が乗った「オーシャン東九フェリー」の「おーしゃんいーすと」丸でも、ご多分に漏れず、ゲームコーナーが設けられていた。

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北九州から東京まで36時間。長時間滞在する船内だけあり、ゲームコーナーはなかなか充実している

写真を見てわかるとおり、ゲーム筐体数だけでも地方のゲームセンター並みのなかなかの陣容だが、実はこれだけではない。実は、昔懐かしのMVS(マルチビデオシステム)搭載筐体で、ゲームコンシューマー機「ネオジオ」をベースにした複数ゲーム搭載機なのだ。つまり、設置してある筐体数の数倍のゲームがゲームコーナーに収められている計算になる。巨大なフェリーとは言え、限られたスペースしかない船内の有効活用を考えれば、MVSのような複数ゲーム搭載機は非常に効率的と言える。

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昔懐かしのMVS!これには興奮してしまった

複数ゲーム搭載機は、MVSを最後に、あまり見なくなってしまった。従ってこの「おーしゃんいーすと」でも、古いゲーム機なのを承知でも敢えてMVSを置いている、という。最新ゲームを遊んで貰うよりも、テレビの電波もあまり届かない中、長時間の船旅を飽きずに遊んで貰うことを優先した結果だ。高速千円が無くなったため、今後はフェリーの活躍機会も大幅に増えると思われる。その時、船旅のお供として、こうした複数ゲーム機は、大事な存在になってゆくのではないだろうか。本来、日本のゲームは、こういう庶民に身近な存在だったはずだ。文芸性にこだわるのではなく、こうした身近な存在としてのゲームをもう一度見直すべき時期なのではないだろうか?また、行き交い船で、変わった船を見た。

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行き交う南海フェリーの横に描かれているのは、どう見ても場違いな萌えキャラ

…フェリーで、何で萌えキャラ?しかも二人も?そう疑問に思ったが、すでに携帯も圏外。ネットも通じないため、東京に帰ってから検索をしてみた。なんとこの二人「高野きらら&阿波野まい」という名前でこの春から売り出している、南海フェリーオリジナルの萌えキャラクターだと言うではないか!*2)しかも、和歌山港と徳島港往復航路限定の存在だ。海と萌えの両方には自負のあるこの私が、なぜ、こんなビッグニュースを知らなかったのか、と驚いたが、これも実は震災の影響。今年の2月に名前を募集し、いよいよ発表!というときに震災が起き、この非常時に萌えでもないだろうと言うことで地味な出発となってしまった様子だ。

そもそも、この萌えキャラ採用は、高速千円の影響に対抗して、船とも相性の良い我々オタク層を狙って、とのこと。いや、見た瞬間、確かにがっつり食らいつきましたよ(笑)。高速千円もなくなった今、この「萌え」がフェリー業界復興の要になるのではないか、と変な期待をしてしまう。ただ、欲を言えば、船舶会社で全体で2人のキャラクターを持つのではなく、各船ごとにキャラクターを用意して、その船の擬人化という事で売り出せばいいのにな、とオタク心に思ってしまう。「ただ何となく萌えのイメージキャラクターです」というのは、実はオタクには受けない。一瞬食らいついても、それで終わってしまう。でも、例えば船のイメージキャラクターとして擬人化した場合、我々オタクとしては、その船自体に愛情を注ぐ気になる。そのイメージゲームでも出来れば、ますます必死に食らいつく。たぶん、惚れ込めば毎週だって乗ってしまう。

つまり、余分なことを言えば「高野きらら&阿波野まい」ではなく、片方は船名通りの「かつらぎ」ちゃんであるべきじゃないのか、そして他の船にもそれぞれのキャラクターの存在があるべきじゃないのか、と、熱く熱くオタク的主張をさせて頂きたい。船の寿命が10~20年前後とキャラクターの製品寿命にも近いところをみても連携を取りやすいのではないだろうか。それで、できれば、我々ゲーム業界にもフェリーキャラクターゲームの発注でもしていただき、WIN-WINの関係になりましょうよ!…ダメですかね(笑)。


WRITER PROFILE

手塚一佳 CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。修士(芸術) 博士課程芸術専攻


[ Writer : 手塚一佳 ]
[ DATE : 2011-08-09 ]
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