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[オタク社長の世界映像紀行]Vol.19 ついに貿易赤字に転落したニッポンを考える…

#オタク社長の世界映像紀行

2012-02-14 掲載

ついに、貿易赤字に転落した日本。今回は、そのニュースから、日本の映像業界の現状と取るべき道を探ってゆきたい。

ニッポン、貿易赤字へ

teduka19_01.jpg 去年初頭まで圧倒的な輸出量を誇った日本の製造業。今は大幅な貿易赤字。

日本は無資源の貿易国であり、言うまでも無く貿易収支の輸出入差益によって国家を支えている。現状、まだ海外貸し付けへの利子収入等が有るとは言え、この貿易差益が無くなるということは国家的な危機である。思い返せば、旧軍の跋扈も、その後の敗戦、全国的飢餓も、結局はこの貿易差益の消失によって食糧や石油を初めとする海外資源を購入できなくなった事によって発生したのだ。

しかしながら、ついに、2011年の貿易収支が、約2.5兆円の大幅な赤字へと転落したことが発表された。実は、我が国は東日本大震災と福島原発事故後、毎月2500億円前後の巨額な赤字を垂れ流していたので、この結果は昨年後半には分かっていたことであった。震災による製造業のダメージもさることながら、やはり、放射能汚染された製造物が海外で売れるはずが無いのだ。

こうした海外からの放射能汚染懸念に対する政府や業界の対応は、全般に「汚染されてないから検査をしない」「一部サンプルが検査クリアしたから他も大丈夫なはず」という消極的な選択が多く、しまいには「風評被害」などと、あたかも買わない方が悪いかのような事を言い出す始末だ。その結果、海外の購入国側も身構えざるを得なくなり、海外の受付港での厳しい検査に引っかかる製品が続々と出てきてしまった。これではますます信頼を無くし、売れるものも売れなくなるのは当然の結果だと言える(主要国・地域の輸出入等関連措置 外務省)。

この海外からの禁輸措置は、2012年現在も決して緩んではおらず、今年に入ってもロシアへの自動車部品輸出が規制されるなど(、むしろ、強化されてきている。これは、野田政権による日本国内の原発安全宣言の結果、日本国内での放射能汚染への管理が緩み、海外受付港での放射能汚染の発覚が立て続けに発生していることによるものだ。チェルノブイリの例を見れば分かるとおり、放射能汚染は25年経っても深刻なものであり、福島原発事故から1年足らずの(しかも、まだ吹き飛んだままの事故原発に蓋すらされていない)日本では、まだまだ深刻な汚染が続いていると認識し、本来であれば、海外からもはっきりと分かる形できちんと対策を取らねばならない。しかし、後手後手に回った政府・官僚たちの対応によって、次々と放射能汚染の対策不十分が発覚し、かつては高品質を誇った日本ブランドは、既に地に墜ちてしまっていることは認識しなければならないだろう。

映像業界の現状は…?

我が国がこうなった今、放射能汚染の可能性の無い、映像産業などのソフトウェア産業に注目が集まってもおかしくないはずである。しかし、残念ながら、我が国の映像産業は、読者諸賢もご存じの通り震災と原発事故後、度重なる特番の影響もあってむしろ急激に状況を悪化させており、数少ない制作物もそのほとんどを海外オフショア制作に頼るという有様になってしまっている。

そんな中、映像業界では、今年に入ってから中国沿岸部のCG制作人件費請求が30万円/人月を越えたところが複数出始めたという話題が業界を駆け巡っている。中国はまだまだ制作技術も発達途上で、なおかつサービス残業も休日出勤も無いため、これを日本の作業単価あたりに直すと1.5倍~2倍になるというのが通例だ。つまり、中国のこの価格は、日本で言うところの45万円/人月~60万円/人月程度の価格になったということで、これで事実上、日本国内制作と中国オフショア制作に価格差が無くなったという事を意味している。去年の秋口の時期で対日本向け制作費として25万円/人月の表値を付けているところが大半であったので、今年に入ってそれがこの価格になるのは、必然であったと言えるだろう。無論、上記は交渉可能な表向き上の請求額であり、まだまだ中国内陸部では安い所も多々ある。従って中国オフショア制作が今すぐ無くなってしまうと言うわけでは無い。しかし、当初から、中国の発展と共に日中の経済関係の逆転は示唆されており、いよいよ来るべきものが来つつある状況とも言えるだろう。

中国と韓国以外のアジア諸国はまだまだ映像技術は未発達で、テクスチャやマスク切りなどの一部制作を除き、全般的なオフショア制作が可能なレベルには達していない。そのため、日本国内の制作業務においても、オフショア制作をやめ国内制作へと切り替える企業が今後続々と出てくるであろう事が予想される。また、おそらく1月半ば以降、国内での制作業務の再活発化が聞こえるようになってきており、日本国内の制作企業はほっと一息ついているところも多いのでは無かろうか。

しかし、このままではいけない

teduka19_02.jpg 中国政府全面支援の動漫基地の街並みは、同じく米政府の支援を受けるハリウッドに匹敵。各国の映像産業は、赤貧最下層の我が国のアニメや映像業界とはあまりに違いすぎる。これでは勝負になるはずが無い。

このまま座視していては、いずれ、中国内陸部の再開発の進行や、あるいはインドやタイなどの新興映像制作国によって同様の展開が発生するのは目に見えている。そもそも、日本の映像技術は、カメラメーカー各社の例だけで無く、アニメやCGの技術においても世界有数の筈である。それなのに、単に価格で劣るだけで3年間以上も中国の制作企業の後塵を拝し、海外からの受注を取れないというだけで無く、国内の制作需要をも海外に出してしまっていたのは、恥ずべき事態である。

一体、どうしてこんな事になってしまっていたのだろうか?この答えは、日本と同様の高人件費でありながら、映像制作大国として成功している、カナダ、ニュージーランド、そして韓国の例が参考になるだろう。

これらの国は、いずれも、国家の主要な外貨獲得手段の一つとして、映画、アニメやCG等の映像制作には税制優遇があり、また、国家として営業をかけて国内企業に業務を紹介する仕組みが出来上がっている。中国も、これを真似た動漫基地システムで成功を収めている。こうした政府支援による産業基地運営は日本でも自動車製造やゼネコンによる海外開発などではおなじみの手法であり、それを日本の映像制作分野で出来ないわけは無い。ただハコモノを作るだけで無く、そこに、流通サポートや税制サポートを付けるだけで、日本の映像分野は一大産業へと化けるはずである。

原発事故による深刻な放射能汚染の影響で日本の製造物が売れなくなった今、ソフトウェア産業を主軸に仕切り直すのは、我が国にとって急務であるはずだ。思い切った政府方針の転換を望みたいところだ。

地方都市へと産業基盤の移る日本国内

teduka19_03.jpg 福岡の中心街、電気屋も建ち並ぶ天神西通りは、去年までのシャッター街から一変し、若者の溢れる街に。

これもまた東日本大震災と原発事故の影響も大きいのだが、昨今、我が国の地方都市の経済活性化が話題となっている。前回も書いたが、大阪では、橋下大阪市長の率いる大阪維新の会の指導の下「大阪都構想」が持ち上がり、これに対して民主党政府も東京都の首都機能の一部を移す事を検討すると言い出し、後押しをする形をとっている。堺市がこの構想から離脱したことで先行きは見えなくなってきたが、まだ、2015年春からの大阪都構想や首都機能の一部移転構想自体が頓挫したわけでは無い。

元々、東京首都圏は、都市としての集積に限界が来始めており、それを解決するために東京スカイツリーを中心としてまだ未開発地域の多い東葛地区に都心をずらす「首都圏メガロポリス構想」を打ち上げた経緯があった。しかしそれも、震災と原発事故の影響で首都圏東部地域の再開発が困難になりつつあるところから、上手く行っているとはいいがたい状況だ。

首都圏東部やその周辺は、震災での液状化の被害が大きかっただけで無く、福島原発事故の放射能汚染でも距離的にちょうど放射性降下物が多い地域(ホットスポット)に当たるところから汚染が大変に深刻であり、子連れ家庭の避難が無汚染地域の一部市町村から呼びかけられるほどに住民の健康被害が案じられる状況であることが判明しつつある(原発避難の子連れ世帯に住宅提供 松本市が対象拡大)。また、先にも書いた産業面での問題も深刻であり、特に汚染の影響を受けやすい食品生産や、科学研究産業、輸出産業を中心とする製造業の地方移転が急務でもある。

人的資源の集約産業である映像業界やゲームCGなどの近縁業界でも、地方移転の動きは活発になっている。中でも、映画特区構想を早くからもっていた沖縄県と、元々「福岡ゲーム産業振興機構」の活動をしていた福岡県では、人件費がそれぞれ、東京の7割~8割程度、オフィス賃貸料に至ってはなんと4割程度と格段に安いこともあり、特に誘致の動きが活発である(制作クオリティを考えれば、実質、中国制作よりも安くなっている、という主張もある)。このあたり、後々のこのコラムで報告出来ればと思っている。

teduka19_04.jpg 同じくシャッターが目立った天神の地下商店街も、賑わいを見せていた。

しかし、詳細な調査を待たず、単純に街を見比べるだけでも、その空気の変化は一目で分かる。前述の福岡を例に挙げるが、数年前まで老人の目立つシャッター通りだった福岡の中心街は、今や若者でごった返し、活気のある街となっていた。閉店していたシャッターにも、次々と開店予告の紙が貼られ、シャッター街を脱しつつある様子が見て取れる。この傾向は数字にも表れており、昨年一年間の福岡市の人口は、1%の伸びを示している。これに対して、東京近郊、特に東葛地域の人口は外国人を中心として統計開始以来初めての大幅な減少となってしまっている。こうした盛り上がりを見ただけでも、こうした地方都市での産業が成立しうることが見て取れるだろう。

teduka19_06.jpg 羽田空港は、まだ最終便まで1時間以上あるのに車通りも少ない。新設されたばかりの羽田空港第二ターミナルのP4方面だが、最終便まではまだ早い時間から、人通りがほとんど無い。

こうした福岡など地方都市の回復に対して、やはり、東京の街並みはいまいちな感じを否めない。震災の影響が有るとは言え、拡大されたばかりの羽田空港第二ターミナルは拡張部分がほとんど使われず、夜は早々に電気を消してしまっている。以前ご報告したとおり、国際線ターミナルも予定のエアラインがいくつか就航せず、やや寂しい現状だ。もちろん、首都としての東京は、福島原発のさらなる悪化や、直下型地震、あるいは富士山・箱根の噴火でも無い限り、当面維持されるだろう。日本の映像制作の中心地も、また、当面は東京であることは間違いが無い。しかし、東京の人口が減り始めてそれが地方都市に徐々に動き、東京一極集中が終わりつつあるのも、また、2012年の現実でもあるのだ。


WRITER PROFILE

手塚一佳 CGムービー制作、ネットワークゲーム制作を得意とするデジタルデザイン会社アイラ・ラボラトリの代表取締役。修士(芸術) 博士課程芸術専攻


[ Writer : 手塚一佳 ]
[ DATE : 2012-02-14 ]
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