デジタルカメラ映像制作の可能性とは?

3月26日から4日間にわたって東京ビックサイトで開催された、カメラマンや写真業界関係者からコンシューマ向けのスチルカメラ関連のカンファレンス&展示会Photo Imaging Expo(以下PIE)。映像制作関係者にとっては、スタジオセットやカメラアクセサリーなどを除けば、これまであまり注目されてはいなかった。しかし、今年からは映像制作関係者にとっても注目しておきたいイベントになってきた。デジタル一眼カメラが、ビデオカメラではありえないセンサーサイズと、スチルカメラ用の豊富な交換レンズ群を使えるという意味で、フルHD映像素材を収録するカメラとしても使えるまでに成長してきたからだ。2008年秋以降になって、デジタル一眼レフカメラ、コンパクトデジタルカメラでフルHD収録ができる機種が次々と投入された。特に、デジタル一眼への動画機能搭載は、2Kデジタルシネマカメラのダークホースとしても活用されていきそうな雰囲気だ。

デジタルカメラで動画が撮れるようになったのは、最近のことではない。2000年になるころには、すでにSDサイズのMotion JPEGで撮影ができるようになっていたし、数年前からサンヨーの動画デジカメXacti HDなど、720p以上のハイビジョン動画収録機能を搭載したデジタルカメラも存在していた。とはいえ、Xactiのように動画をウリにしたデジタルカメラは少なく、どちらかと言えば補助的な追加機能にとどまっていた。ミラー機構のあるデジタル一眼レフカメラにいたっては、動画機能どころか、コンパクトデジタルカメラでは普通なライブビュー機能を搭載したのさえ、つい最近のことだった。

フルHD映像収録機能をウリにしたデジタル一眼カメラの登場が相継ぐのは、2007年から2008年にかけての映像業界の動きと無関係ではあるまい。映像制作分野でこの時期に注目を浴び続けたカメラといえば、やはり米RED Digital Cinemaの4KデジタルシネマカメラRED ONEだろう。ファイルベースの映像制作にRAWファイルの概念とシステムマチックな製品構成を持ち込み、これまでの常識を覆す低価格で登場させたことは記憶に新しい。4Kサイズのピクチャを連続させることで映像を表現するという、フィルムライクな取り組みでもあった。レンズを含めたシステムを考えると、誰もが気軽に手を出せるほど低価格ではなく、4K収録​/編集/再生ができる設備も限られるため、デジタルシネマ業務用の域を出なかったことも事実だ。

センサーの生映像を現像処理してから編集するRED ONEは、ビデオ業界よりも、むしろ写真業界に刺激的な一石を投じることになったようだ。シネマレンズに比べれば安価な大口径単焦点レンズや、ビデオではありえない大型のイメージセンサー。デジタル一眼カメラが、まさにデジタルシネマ向きのカメラとなりうる可能性を示していたわけだ。そんなデジタル一眼カメラが、今回のPIE 2009でさらに一歩進めた。

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昨秋に発売したD90の動画収録機能D-MOVIEを使用したオリジナル動画作品を通じて、製品をアピールしたニコン。720pでありながらも豊富なレンズ群を活用しながら撮影したショートムービー「あたし と あたし」(監督・脚本:草野陽花、撮影:早坂伸)を公開した(現在、ニコンWebサイトで配信中)。ビデオカメラでは難しい浅い被写界深度や美しいボケ足のある映像を見ることができた。

昨秋に発売したD90の動画収録機能D-MOVIEを使用したオリジナル動画作品を通じて、製品をアピールしたニコン。720pでありながらも豊富なレンズ群を活用しながら撮影したショートムービー「あたし と あたし」(監督・脚本:草野陽花、撮影:早坂伸)を公開した(現在、ニコンWebサイトで配信中)。ビデオカメラでは難しい浅い被写界深度や美しいボケ足のある映像を見ることができた。


上の『あたし と あたし』はAPS-Cサイズのイメージセンサーによる作品だが、今後、デジタルカメラ利用のデジタルシネマ作品が増えていきそうだ。この流れを作りそうなのは、昨年策定されたマイクロフォーサーズ規格だ。マイクロフォーサーズ規格は、4/3型センサーを使用するフォーサーズシステムをさらに小型軽量化するために生まれたライブビュー専用の拡張規格で、専用マウントアダプターによりフォーサーズシステムのレンズ群はすべて使用できる。このライブビュー専用というところがポイントだ。イメージセンサー自体は、35mmフルサイズセンサーやAPS-Cサイズセンサーに比べて一回り小さく、大型センサーや画質思考のスチルカメラマンにとっては微妙な規格であったことも否めない。しかし、初心者向けにミラー機構を廃し、ライブビュー専用にしたことで、動画収録に対応しやすい規格としても成立することになった。

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マイクロフォーサーズ規格の新デジタル一眼カメラLUMIX DMC-GH1K。ミラーがないため、レンズを外せばイメージセンサーがすぐ見える。

マイクロフォーサーズ規格の新デジタル一眼カメラLUMIX DMC-GH1K。ミラーがないため、レンズを外せばイメージセンサーがすぐ見える。


マイクロフォーサーズ規格を採用しているデジタル一眼カメラを発売しているメーカーにパナソニックがある。ハンディサイズカメラレコーダーにもデジタルシネマに活用可能なモードを搭載する同社が、この「ライブビュー専用」の特性に目をつけないはずがない。PIE開催前日に発表したLUMIX DMC-GH1Kは、ビデオカメラの使い勝手も採り入れ、写真のモード切り替えダイヤルから動画モードを独立。写真のモードを生かしたまま、動画の収録スタートを可能にしている。このほか、リモート用のコネクタを使用して、ステレオマイク入力もできるようにした。映像フォーマットにはAVCHD方式とMotion JPEG方式の2種類を採用しているなど、まさに動画収録を前提に作られたデジタル一眼カメラということができそうだ。

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作品性の追求というわけではないが、お手軽映像表現機能を追求したのがカシオだ。20枚の連写から動きのある部分を切り出して別の静止画に合成できる「ダイナミックフォト」機能は、ブルーバックなどを使用しなくても、動いている部分を切り抜いて、他の静止画に合成する簡易合成機能だ。映像を書き出してソフトウェアで処理するのではなく、カメラ本体だけで処理するスグレモノだ。

1回で30枚連写するハイスビード機能などもそうだが、デジタルカメラで動画収録ということが当たり前の状況になってきただけに、今後はこうした機能面での差別化も加速しそうだ。デジタルカメラの映像作品制作への活用がますます進んでいくだろう。

WRITER PROFILE

秋山謙一

秋山謙一

映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。