高野光太郎です。自分は「映像クリエイター」として仕事をしています。主なジャンルは、ミュージックビデオです。自らディレクションする事もあれば、実写合成などのVFXパートのみを担当する事もあり、また3DCG+After Effectsでのモーショングラフィックスの仕事もしています。基本的には映像制作をデスクトップで行っています。

簡単に私のDTV制作の遍歴を紹介しましょう。始まりは、PowerMacG3+DVカメラ(Panasonic民生機)という組み合わせで、アプリケーションは、Premiere,After Effects,Photoshop,Illustrator,LightWaveを使用しつつ、DTVデビューを果たしました。

現在は、MacPro(8core)メモリ12G 内蔵RAID 2TB、Final Cut Studio 2,After Effects,Photoshop,Illustratorなどを使用しています。 私が携わる仕事では、実写加工モノが多いため、カメラの選択も相談される事も多くHDカメラもかなり使いこんでいます。手探りですがHDとの付き合い方は多少なりとも分かっています。そんな私が、HD制作ワークフローの現状をレポートしてみたいと思います。

なぜ、ミュージックビデオがHDカメラを導入したのか?その顛末。

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ミュージックビデオ(以下:MV)以外での仕事では、2008年からHD納品が増加しました。しかし、自分の製作仕事であるMVでは、2009年現在HD納品はほとんどありません。実際には撮影カメラはほぼ100%HDビデオカメラなのですが…。撮影がHDで納品がSDというワークフローが今メインとなっています。なぜHDカメラなのでしょうか?

理由は簡単です。MVは元々フィルム撮影が主流でした。ビデオの生っぽい感じが合わないため、SDビデオカメラが選択される事はほとんどありませんでした。しかし2002年にPanasonicからAG-DVX100の登場がこの状況を大きく変えることになります。

画を見たとき、「フィルムっぽくてカッコイイ」という印象でした。それもそのはず、DVカメラで24P撮影を実現した事につきます。またCINE-LIKEガンマを搭載して、フィルムっぽい質感を実現。また、ちょうど世の中にDVベースのノンリニア編集がリアルタイムで安定してきた時期と重なります。そしてアップルのFinal Cut Pro(以下:FCP)でこの24P素材を扱うことができるようになったのです。MV業界でのFCP普及率が高い事は、この事に起因するのでしょう。

時代の流れもありMV制作費が下がった事も追い風?にもなり、フィルムライクなその質感からAG-DVX100を使用した撮影数が増えました。MVのもうひとつの特徴は、HS(ハイスピード撮影)つまりスローモーション映像が多用されます。

HDカメラを使用する場合は、Panasonicのバリアブルフレームレート撮影可能なHDビデオカメラVaricamを使用して24コマで2.5倍のスローモーション撮影を行います。その際カメラとは別にフレームレートコンバータという機材も必要で、当然のことながらコストのかかる撮影になります。

P2カード+FCPという福音

Panasonicがまたもや革命を起こすのです。それが、AG-HVX200の登場です。Panasonicは、テープメディアから脱却する事で、自分達のお家芸であるバリアブルフレームレート撮影を安価でコンパクトなビデオカメラに搭載することを実現しました。

P2カードを採用することで、ネイティブなフレームレートでの記録も可能にし、Varicamの時に必要だったフレームレートコンバータも不要で、1台のカメラの中でバリアブルフレームレート撮影可能になりました。これをMVの人たちが放っておくわけがありません。またバリアブルフレームレート撮影はHDサイズの720モードで撮影可能になります。

といいつつも、まだまだDVベースの時代、AG-HVX200の素晴らしいところはDVテープも搭載していることでした。P2カードで撮影したHD映像をダウンコンバートしてDVテープに記録できたのです。

今から考えると ノーマル撮影はDVで行い、ハイスピード撮影だけP2を選択するなど、DVテープという基軸があったお陰で、この安心感から当時DVテープのワークフローに難なく浸透できたのだと思います。その後に出てくるテープレス時代の不安感は、当時の撮影現場ではそれほど感じませんでした。

技術進化により、ノンリニアで完パケに近い状態まで制作できるディレクターやクリエイターも成長して来ている時期でした。FCPもP2カードに対応し、FCP上で安価なHD制作を可能にしました。これまではHDビデオカメラを使用すると、HDテープに記録する為、後処理のワークフローにコストがかかっていました。

これが、P2カードにデータ記録すれば、直接PC上で扱う事ができ、またダウンコンバートしない事から、高画質な制作ワークフローがPC上で実現し、それがSD画質を上回るという予算と反した画質の逆転現象が起きたのです。

このP2カード+FCPという福音の元にMV業界は、PC上でHDサイズのファイルを使用し始めるのです。

そして僕の果てしないバージョンアップを繰り返す機材との戦いはまだ終わりを見せません。 安住の地はどこなのか?これから制作と機材の関係をいろいろと紹介できればと思っています。

WRITER PROFILE

高野光太郎

高野光太郎

Cosaelu株式会社 代表取締役 / 映像ディレクター ミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、CM、劇場映画、全てをデスクトップで制作。