メディア芸術祭に行って参りました。アート部門の大賞はサウンドスカルプチャーの「Cycloïd-E」。金属管の回転によって音が反響するこの巨大装置は、会場である国立新美術館に入りきらないという豪快な理由につき、ミッドタウン内に併設された関連スペースにて展示されておりました。昨年、リンツで行われたアルツ・エレクトロニカ展での様子をご参照下さい。

Cycloïd-E at REPAIR (Ars Electronica) in Linz 2010

その他のアート作品、特にインスタレーションを見て、思うこと。日頃モニターやプロジェクターの画角の中に凝縮された情報を眺めているからか、空間に開放される、拡散のエネルギーを持つ情報に触れると、脱力するんですよね。脳に穴があいて、詰めこまれた情報がダダ漏れていく開放感と虚無感を楽しんでおります。目新しさや技術よりもなによりも、そういった超個人的な拡散の感触を味わいたいという気持が強いからか、展示ができない作品を映像収録し、ヘッドフォンと共に展示しているコーナーにはがっかりしましたよ。せっかくの拡散を凝縮のメディアに落とし込んでどうする! まあ、面積の問題もあるでしょうし、文句の内容があまりにも私的すぎるので、先に進みます。

エンタテインメント部門の優勝はwebサービスの「IS Parade」(http://isparade.jp/)。Twitter IDを登録すると、自分のフォロワーたちとパレードを行えるサービスで、実際にトライした友達たちいわく、私は結構な確率で犬として登場するらしいです。それはさておき、これを見て思い出すのは、groovisionsさんが作られたHALFBY「RODEO MACHINE」MV。

HALFBY – Rodeo Machine

「IS Parade」自体は私も楽しく参加しましたが、ここで定義されるエンタテインメントという概念に、違和感を持ちました。ユーザー参加型のサービスは確かに娯楽性が強い。ユーザーの参加により、そのコンテンツおよびサービスが完成を迎える、というインタラクティブな在り方も現代的で、興味深いことは確かです。今年は、主催者が、参加する面白さと「完成されたコンテンツを見る」面白さ、両者を共に「エンタメ」と解釈したと推測されるので、双方の良いところを調和させた作品、例えばこのコーナーでも以前紹介した、優秀賞の「Tabio Slide Show」などの方がより「エンタメ」を感じさせるのではないかなあ。

Tabio Slide Show

完成度の高い映像作品という基盤の上で、ユーザーの参加を誘導している。カタログとしても機能する。今回のラインナップを思うと、この作品の中庸さが一番如実に昨年度の「エンタメ感」を現していると、私は考えます。「IS Parade」は、正直、サービスが展開される映像の世界観に美意識を感じないんですよね。HALFBY MVの優れたデザインの上に、このサービスがオンされていたらいいのに。

コンテンツとしての完成度をストイックに極めている作品として人気が高かったのは、みんな大好き、アルクアラウンドのMV。

サカナクション/アルクアラウンド

監督の関和亮さんは、新作である柴咲コウさんのMVも話題になっていますね。

柴咲コウ Kou Shibasaki – 無形スピリット Mukei Spirit [PV]

凝縮ってこういうこと!ついでに、さっきYoutubeで見つけた、凝縮系の素晴らしい作品もご紹介しておきます。

Kraak & Smaak – Squeeze Me

MUTO a wall-painted animation by BLU

アイデア自体はアナログな手法を使っているので、王道感もあれば既視感もある。でも、大量のコマの向こう側から作り手たちの怨念が溢れ出てくるような妖力がはんぱない。実作業の労力たるや、想像するだけで失神寸前。

こういった画作りとインタラクティブなサービスのマリアージュが、今年はきっとたくさん見られるのではないかな。来年のメディア芸術祭にも期待します。

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。