カムコーダ界の巨人、ソニーが放つメモリー記録型AVCHDカムコーダ、NXCAM。業務用ながらAVCHDフォーマットを使用するというスタイルに、「とうとうその日が来たか」という思いである。業務用モデルの「HXR-NX5J」のポテンシャルもさることながら、少し遅れて登場した民生機「HDR-AX2000」も気になっている人が多い事だろう。

まず両方を並べてみると、外見はほとんど変わらない。パッと見た違いは、ロゴとしてNXCAMと書いてあるか、HD AVCHDと書いてあるかの差ぐらいである。細かいところまで見れば、背面に外部メモリユニットがあるとかSDI端子があるとか、グリップ部にアクセサリシューがもう一つあるとかいった点があるが、XLR端子があって外部マイクが使える点などは同じなので、見た目はほとんど変わらない。交互に撮っていると、どっちがどっちだかわからなくなるぐらい、操作性も同じだ。しかしメニューを探っていくと、見た目以上にいろいろ違いがあることがわかってくる。

今回はこの両モデルをお借りして実際にテスト撮影をしてみた。その結果から、どのような用途や棲み分けが可能なのか、以下のポイントで考えてみよう。

両カメラを並べてみた。見た目はほとんど同じ

リニアPCM収録が必要か

まず音声だが、NX5JはリニアPCMによる音声収録ができる。一方AX2000は、ドルビーデジタルのみである。ドルビーデジタルはDVDやBlu-rayまで幅広く使われてはいるが、いかんせん圧縮規格としては結構古い。現場音をノイズ扱いで収録するぐらいならばあまり問題にならないと思うが、音にシビアな現場、特に最終完パケが音にシビアなメディアの場合は、S/Nの悪さが問題になるだろう。

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NX5JではリニアPCM収録が可能

ただし、イベントなどのマルチカメラ収録では、音声は別の機器で収録するケースも多い。カムコーダで是が非でもリニアPCMで録らなければならないのは、少人数で撮影する場合であろう。カメラでどうしてもリニアPCM収録が必要であればNX5Jということになるが、別ラインで収録が可能であればAX2000で十分ということになる。

タイムコード収録は必要か

プロフェッショナルユースではタイムコード収録が必須、と言われるが、今本当にそうだろうか。最近はオンライン編集もノンリニア化が進んで来ており、たとえマルチカメラ収録であっても、あまり同期をタイムコードに依存しなくなってきている。タイムコード収録はNX5Jのみの機能だが、タイムコードの外部入力がないので、同期には使えないということになる。そもそもNX5JもAX2000も、外部同期(GENLOCK)がかけられないカメラである点は覚えておく必要がある*。

*NX5JはTCリンクという、2台のHXR-NX5J同士をRCAケーブルでタイムコードを揃える機能があるが、ここでは他機種とのスレーブや広義の意味でのことについて書いてある。(編集部註)

タイムコード収録が可能なのもNX5Jのみ

編集のワークフローがテープベースのリニア編集の場合には、タイムコードがあったほうがいいという意見もある。しかしそれはテープに起こした時点でテープのタイムコードを使用すればいいだけのことである。一応HD-SDIからATC/VITCの出力はできるので、他の収録機器、例えばDAW(Digital Audio Workstation)などを同期させることはできる。だが1カメでDAW収録というのも考えにくいので、実際にはあまり使い道がないのではないかという気がする。

バックアップ収録は必要か

NX5J特有の機能として、外部フラッシュメモリーパックにバックアップ記録ができるという点がある。この機能はなかなか良くできていて、メモリーカードにはHD、フラッシュメモリーパックにはSDで収録したり、2つあるRECボタンそれぞれにどちらのメディアに記録するかをアサインできたりと、いろいろ使えるようになっている。

いろんなフォーマットの組み合わせが選択できる

どちらに記録するか、2つの録画ボタンにアサインが可能

現在この機能をもっとも重視しているのは、イベントやブライダルなど一発勝負の収録現場であるという。それはおそらく、メモリー記録というものをあまり信用していないというところから来る不安であろう。まずは不安を払拭しないと普及が始まらないわけであるが、メモリーでも問題ないね、ということになれば、バックアップ記録はすぐに使われなくなるように思う。

今HDVに対してメモリー記録でバックアップというパターンが多いと思うが、編集はメモリーのほうを使ってノンリニア編集しているケースが多いだろう。この収録スタイルのメリットは、テープがそのままアーカイブになるから楽、という点である。AVCHDフォーマットでの編集とアーカイブの方法論が確立されれば、またシングル収録に戻っていくだろう。

ピクチャープロファイルはどこまで必要か

実は実機を触るまで、AX2000にはピクチャープロファイルがないのだと思っていた。しかしこちらにもNX5Jと同じく、6バンクのプロファイルがメモリーできる。ただし、設定できるパラメータが少ない。まずガンマカーブは、NX5Jがスタンダードも含めて7種類なのに対し、AX2000は3種類である。またNX5Jのほうには、ブラックレベル、ブラックガンマ、ニーといった細かい設定があるが、AX2000では省略されている。ただしカラーモードやWBシフト、スキンディテールなどの設定はあるので、ある程度の絵作りはAX2000でも可能だ。

NX5Jのピクチャープロファイル

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AX2000のピクチャープロファイル

そもそもブラックレベルやニーを設定するためには、現場で照明も仕込んだ状態で波形モニタおよびマスターモニタを見ながら調整する必要があるわけだが、そこまで時間がかけられる現場は希であろう。そこは撮影にかけられるバジェットがモノを言うわけだが、バジェットが十分にあったらNXCAMは使わない、というジレンマがあるのも事実だ。ただ、自主制作など時間に余裕がある場合は、後学のためにいろいろやってみたい、というニーズも当然あるだろう。

以上、NX5JとAX2000の主だった違いから、現場ニーズを考えてみた。両カメラの価格差は、今ストリートプライスで15~17万円ぐらいである。ただフラッシュメモリーユニットが12万円ぐらいするので、NX5Jの機能をフルで使おうとすると、相当価格差が出ることになる。レンズ、撮像素子など光学性能は全く同じなので、プレーンな設定なら画質も同じだ。

ただ職業カメラマンが自前で持つツールとしては、普通のプロ用機でできることが一通りできるNX5Jのほうが、思わぬリクエストがあったときに対応しやすいのは事実だ。またHD-SDI出力があるというだけで、プロ機のシステム内に組み込めるというメリットはある。

どちらにすべきか迷っている人は、自分の仕事と上記に上げた条件をよく考えて、選択して欲しい。

WRITER PROFILE

小寺信良

小寺信良

18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。映像機器なら家電から放送機器まで、幅広い執筆・評論活動を行う。