テレビ局やプロダクションなどで、放送した素材を保存しておくという習慣はほとんどなかった。そもそもテレビ放送が始まったころにVTRはなく、生放送が基本となっていたからである。記録が必要な場合は、キネコでフィルムに記録し、ニュースなど機動性が求められる番組やドラマなどでは、フィルムカメラで撮影したものをテレシネ放送していた。こうした流れは、ベータカムが一般化する比較的最近まで続いていたが、レンタルビデオが普及しだし、ドラマなどをパッケージ化して販売するという2次利用が行われるようになり、状況が変わってきた。重大な事故・事件などの映像は別としてこれまでは、再放送用に保存する程度だったものが、5年10年といったスパンで保存しようという動きがでてきた。今回は、ファイルベース時代のアーカイブを考えるべく展開したい。

完パケテープで保存する

1インチやD2など完パケテープで保存する手段は、もっとも簡単でコストのかからない方法といえる。放送が終了したテープをそのまま保存すれば良いだけなので、あとは管理の問題だけだ。ただ、こうしたフォーマットが10年先も存在するかといえば、まずありえないと思われる。1インチやD2だけでなく、SDフォーマットの機材は地デジ以降は次々と終息製品となり、修理すらできない状況になるだろう。これは、2インチVTRが終息を向かえた時と同じといえる。当時は2インチから1インチやベーカム、MⅡなどへ実時間をかけてコピーしていた。現在ではHDにアップコンバートしてVTRにコピーするのだろうか。

デジタル化してファイルとして保存する

VTRtoVTRでコピーして保存するというのはそのVTRフォーマットが現存する間は問題ないが、5年後10年後も再生できるVTRとして存在しているかはまったくわからない。特に特定のメーカーしか製造していないフォーマットは、メーカーの都合しだいということになる。せっかく、コピーした映像資産も再生するVTRが無くなってしまっては、宝の持ち腐れどころか、大量の粗大ごみと化してしまう。すでに、ここ数年VTRの新製品は非常に少なくなり、いずれのフォーマットも先はそれほど長くないと思われる。

現状で最良の方法は、デジタイズ(キャプチャー)なりインジェストなり、とにかくデジタルのファイルとして保存する方法である。圧縮フォーマットの種類の選択の問題はあるものの、現在では非圧縮でもSDならそれほど敷居は高くない。余談だが、キャプチャーボードも以前ほど種類もなくなり、新製品も少なくなってきた。SDIなどデジタル入力はHD-SDIとの兼用で当分は残るだろうが、SDのアナログ入力を装備したものなどは、将来的に終息の方向といえるだろう。

では、デジタル化してファイルとして保存すればすべて解決かといえばそうともいえない現実がある。デジタルデータをどのメディア保存しておくかで、保存コストや保存期間などが決まってしまうからだ。

デジタルデータを長期保存するために最適なメディアとは

ビデオのファイルは容量が大きくすでに圧縮されているフォーマットが多いことから容量か大きくビット単価が安いことが求められる。現在こうした用途で使われるメディアとしては光ディスクやハードディスク、バックアップ用に作られたテープなどが挙げられる。 光ディスクといえばDVDが一般的だが容量が4.7GBしかない。Blu-rayでも1層あたり25GBなので、2層でも50GBだ。ドライブやメディアが安価で手軽に扱えるもののビデオファイルをバックアップするには容量不足であろう。

ハードディスクは大容量で、最近は価格も下がり、ビデオ業界ではハードディスクごと保存することも多いようだ。一見保存に適したメディアに思われるが、軸受やベアリングなど可動部分が多いので、バックアップして10年後に通電しても正常に起動する保証はなく、いきなりクラッシュする可能性すらある。

ビデオ業界ではあまり知られていないかもしれないが、バックアップ用に作られたテープメディアは長期間デジタルデータを保存する媒体として歴史も長く、最も適したメディアと言える。すでにいくつかのフォーマットが存在しており、それぞれ一長一短がある。記録ヘッドに8ミリビデオやDATで採用されたヘリカルスキャンタイプのものを採用したものと長手方向にリニアに記録するタイプの2種類に分けることができる。ヘリカルスキャンタイプは構造的に複雑で、8ミリビデオやDATが製品として終息した現在ではあまり良い選択肢とはいえない。代表的なものとしてDDSやAITが挙げられるが、5世代AITで400GB、第7世代のDDSであるDAT 320で160GBとなっており、容量的にはてごろでメディア単価やドライブも比較的安価という利点はあるが、いずれも転送レートが24MB/s程度なので、バックアップに時間がかかる。

DLT roadmap.bmp

DLT roadmap。ビデオ系とIT系は分けられているが、国内ではビデオ系製品を扱っているところはないようだ

長手方向にリニアに記録するタイプは、DLTやLTOがある。DLTはDVDのプレス納品フォーマットとして現在でも流通しているが、書き込めるドライブがすでに生産中止になっている。後継機種としてDLT-S4があり、800GBで転送レートは120 MB/s。

LTO roadmap.jpg

LTO roadmap。黄色のところまでが現在市場に出ているモデル。

一方LTOは最近第5世代の製品が投入され、1.6TBで転送レート180 MB/sとなっている。このクラスのテープバックアップシステムは金融機関等で採用されているだけあって信頼性や長期保存、新たなモデルがでても下位互換が保証されるなど、長期にわたる使用も安心出来る。

ただ、現状では容量や転送レートなど性能面でLTOがリードしているほか、DLTがQuantum社の単独製品であるのに対し、LTOはIBM社、Hewlett-Packard社、Seagate Technology社の3社が共同で策定したフォーマットで、簡単にメーカーの都合で生産が中止になるような危険は少ないように思われる。また、いずれも比較的ドライブは高価だが、両者ともにたようなプライスゾーンにあることを考えると現状ではLTOが最良の選択と言えるだろう。

Quantum_DLT_S4.jpg hp_lto5i.jpg

Quantum社DLT-S4テープドライブ

LTO5テープドライブ

ビデオもファイルベースでのワークフローが当たり前になりIT業界で開発されたこうした周辺機器が利用出来るようになった。テープドライブの仕様に記載されている記録容量には圧縮時の容量(通常非圧縮の倍)が記載されているが、現在のビデオフォーマットはすでに圧縮されているものがほとんどなので、圧縮時の容量で使うことはできないことがほとんどである。転送レートも圧縮時と非圧縮時では異なり、製品を比較する場合注意したい。ほかにもバックアップやアーカイブを行う際に使用するソフトウェアも使い勝手や効率に影響するので、導入にはデモを見るなどして吟味したい。

WRITER PROFILE

編集部

編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。