txt: Yasuhito NAKE

12月8日、東京・港区にあるラフォーレミュージアム六本木でオートデスクの3ds Max、Maya、Softimage、MotionBuilderユーザやCGツールに興味がある人を対象にしたイベント「Autodesk 3December 2011」が行われた。

3Decemberは本来その名の通り「3 December」(12月3日)に行われるイベントなのだが、実際のところは”3 December前後”に世界の各都市で行われているような感じで開催されている。起源はMayaがエイリアス・システムズ社の製品だった1999年からユーザーカンファレンスを中心にヨーロッパでの初開催されたもので、日本ではエイリアスとオートデスクが一緒になった今もほぼ毎年行われている。主にユーザー事例を中心に紹介が行われ、今年もバンダイナムコゲームスの「エースコンバット アサルト・ホライゾンにおける実在都市の再現手法」や「friends もののけ島のナキ ~新しい表現をめざして~」の事例、米国のThe Third Floorのプリビズ専門のプロダクションのクリス・エドワーズ氏による講演が行われた。

Mayaによってリアルな背景を実現した「エースコンバット アサルト・ホライゾン」

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ビジュアルアーティストの鈴木氏(左)はゲーム背景の制作とテクニカルスタッフと共にツールの開発を担当、ビジュアルアーティストの千家氏(右)はエースコンバットでゲーム背景全般の監修と制作を担当した

最初に行われたユーザーセッションはバンダイナムコゲームスの千家英嗣氏、鈴木摩耶氏による「エースコンバット アサルト・ホライズンにおける実在都市の再現手法」についてだ。エースコンバット アサルト・ホライズン(以下、エースコンバット)とは、10月13日に発売したPS3とXbox360のフライトシューティングゲームで、戦闘機や爆撃機といった航空機を操縦して、迫力ある戦闘を体験できるのが特徴だ。この講演では、エースコンバットの背景制作の中でも一番肝となる実在都市の再現手法に絞って紹介された。フライトシューティングゲームの広域背景というちょっと特殊な講演だが、Mayaのユーザーでなくても楽しめる面白い講演だった。

海岸線のマイアミビーチを再現したマイアミ

エースコンバットの魅力の1つが、誰でもお馴染みの有名な実在都市がいくつも登場して、ユーザーが現実の都市で戦っていると実感することだ。アメリカ東海岸の都市部を走る高速道路やダウンタウンの高層ビルを再現した「マイアミビーチ」、海のヤシの木的なリゾート開発の人工都市「パーム」や砂漠に立つ高層ビル群が印象的の中東の都市「ドバイ」など、世界中のバリエーションに飛んだ都市の名所やイメージカラーをゲーム中で楽しめるのだ。そしてこれらを現実世界を再現するのに選ばれたツールがMayaだ。バンダイナムコゲームスのビジュアルアーティストやテクニカルスタッフが使い慣れており、社内ツールが充実しているのが選考の理由とのことだ。

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砂漠に立つ高層ビル群が印象的な「ドバイ」。画面中央に映っているのは世界一の高さを誇っている高層ビル「ブルジュ・ハリーファ」

次に紹介したのは製作をするうえでやっかいな3つの問題とその解決方法だ。製品発売後にダウンロードコンテンツとして配信される予定の「東京マップ」をベースに、紹介が行われた。

東京マップは25km四方の大きさで再現された

1つ目の大きな問題は、再現する範囲が非常に広大であるということだ。エースコンバットは主に飛行機を操縦するゲームなので、移動範囲が狭いとゲームが成立しなくなってしまう。遊ぶのに不自由のない広い範囲をリアルに再現する必要があるわけだ。東京マップの場合は、北は池袋から南は羽田空港ぐらいまでのエリアを再現している。マミアミやドバイになると50キロ四方と移動できる範囲はさらに倍の広さになっている。

この広さを再現しなければならない問題を解決したのが、地面のディテールに衛星写真を使用するというアプローチだ。衛星写真を使用することで、広域の地形を短期間で作成することが可能になるというノウハウだ。衛星写真は、Photoshopで色調補正や海面をマスクしたり、雲などの不要なディテールをレタッチする。その画像をMaya上で地形のポリゴンメッシュに上から割りつける。作業は単純で時間もかからないながら、これだけである程度の高さから見える分には十分耐えられる広域の背景が作れるというわけだ。

2つ目の問題は、配置する建物の量が非常に多いということだ。東京マップがテーマの東京は建物だらけで、道が毛細血管のように複雑に絡み合っている。しかも、建物の向きもばらばらな状態だ。もし、配置する建物を1つずつ資料を確認しながら移動や回転をして、配置するのを1万回とか2万回行うとなると誰でも気が遠くなるだろう。過去のシリーズのマップは手作業で配置を行っていて、1マップあたり平均2.5ヶ月の時間を費やしていたという。つまり、1タイトルあたり、2.5ヶ月×都市のマップの数分だけかかって、その効率は問題になっていた。

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プラグインとして実装した自動配置ツール

この問題を解決したのが、インクリメントPの地図データベースと自動配置ツールだ。自動配置ツールとは都市生成のアルゴリズムのことではなく、地図データベースを直接Mayaに取り込んで、自動的に立体化、配置を行うツールのことだ。自動配置ツールを実行すると、面白いぐらい簡単に一発で立体化、配置することができるというものだ。東京マップには3万を超える建物が配置されているが、その数をデザイナーの手を借りずに実行するだけで一発で配置することができたという。また、実際に測量をして作成した地図データを用いているので、現実にかなり近い精度で見せられることもメリットだという。

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自動配置ツールを実行して立体の建物を配置した状態

3つ目の問題は、処理負荷やメモリの制約だ。Mayaの広い世界の範囲に建物を密集させて並べたとしても、最終的にはゲーム中の背景にしなければいけない。この問題を解決したのが、建物のインスタンス化だ。インスタンス化とは、同じ形状の建物同士の情報を共有することだ。エースコンバットの描画プログラムは描画処理の高速化の仕組みとしてインスタンスをサポートしており、インスタンス化された建物同士は一度にまとめて描画することができる。数万とある都市のさまざまなな形状の建物をできるだけ数の少ない共通した建物の種類に置き換えることで、街並みの高速化を図ることができるわけだ。

最後に千家氏は「今回の開発では建物生成、配置の自動化に大きな可能性を感じました。今後も実在都市を再現するための更なる工程のシェープアップを図っていくとともに、実在でない架空の街並みでも効率的に配置していくことを考案していきます」と課題を語った。

CGツールと地図データのコラボレーションにより、大幅な効率化を実現したエースコンバット。この技術をさらに更に伸ばして、今後驚くような景観のゲームに出会えそうな期待を感じさせる講演だった。

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完成した東京マップより新宿の副都心。新宿都庁など有名な建物をリアルに再現している

プリビズで映画制作のプランニングやワークフローに変化が起き始めている

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CEO兼クリエイティブ・ディレクタのクリス・エドワーズ氏

2つ目のセッションは、ハリウッドのプリビズスタジオの中でも最大手のThe Third FloorのCEO、クリス・エドワーズ氏の講演だ。会社設立の経緯から講演を始めた。

エドワーズ氏は 『スター・ウォーズ エピソード 3/シスの復讐』の製作でデジタルアーチストチームに加わり、そこでプレビジュアライゼーションに取り組んでいた。そのプロジェクトが終わったときにプリビズの会社を設立。ルーカスフィルム本社があるスタジオ「スカイウォーカーランチ」の3階にあったことから社名は「The Third Floor」になったという。2004年10月の設立時は6人だったスタッフ数も現在は120名まで大きくなっているという。

各プロセスごとにプリビズが関わってきている

次にプリビズについて紹介を行った。プリビズとは、単純なオブジェクトや3Dアセットを使って照明やカメラの配置や動き、ステージ演出や編集など、様々なステージ設定と美術演出を試した映像のことだ。プリビズはデジタルエフェクトショットが増えている現在、監督やプロデューサーがイメージの共有や工程の円滑化といったことに対して非常に手助けになっているという。プリビズによって工程の短縮ができれば、同じプロセスでもより時間を費やすということができる。つまり、品質を高めることができるというわけだ。また、プリビスを行うことで映画のファンドを集めるということにもつながっていくとのことだ。

さらにハイウッドのトレンドの紹介だ。プリビズが映画製作のさまざまななプロセスに関わってきているという話だ。映画製作は、開発からデザイン、プリプロ、最終的にはポストプロダクションといった直線の工程になっている。最近はそれぞれの工程をより効果的に行うためのプリビジュアリゼーションというのが存在しているきているというのだ。例えば、ピッチビズは実際にセットを作るためのプリビズであったり、ポストビズは最終的なエフエックスのショットを決める前の段階のものだ。ポスプロの最終的なプロセスそのもののコストを減らすという意味でもプリビズで詰めていくというのが非常に重要とのことだ。

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具体手的な例では、映画『マイティ・ソー』の事例が紹介された。ケネス・ブラナー監督は、役者として数多くの舞台に立った経験もあり、非常に複雑なショットというのを求めてきたという。そこで単純なプリビズに留まらずに各ショットが技術的にどういうふうになるのかということも一緒にやらせてもらったという例だ。たとえば非常に複雑なショットにおいて、実際にアクターがどのように動けばいいのかとか、ショットがどうすればいいのか、といったこともやらせてもらったという。

フル3DCGの映画『スマーフ』の事例も紹介された。カメラワークの動きが完成に非常に近いのがわかる例だった。モーションキャプチャには向いていないので、手付けのモーションを中心に行っている作品で、プリビズによってアニメーションの部分で品質を上げるということに対して協力ができたということが分かる例だった。

国内でも少ない注目の3DCG関連のイベント

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セッションの会場の外では、各メーカーの製品が展示されてて注目を浴びていた

このほかにも、八木竜一監督とCGスーパーバイザー鈴木健之氏によるオリジナル3DCGアニメーション映画「friends もののけ島のナキ」の製作過程の講演も行われて、多くの来場者が聞いていた。また、展示会場では製品やコンテンツのデモンストレーションが行われていて、いろんなブースでは来場者がスタッフに質問をする様子が見られた。3Decemberのような3DCG関連のイベントは少ないので、CGツールに興味のある人ならば要チェックのイベントだろう。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。