MAの現場はビデオよりも早い時点でファイルベース化が進み、現在ではほとんどがPCベースのシステムとなっている。スタジオによっては大きなコンソールが置かれているのでなんとなくアナログ的な雰囲気ではあるが、裏で動いているのは完全にデジタル化された世界である。持ち込まれる素材もUSBメモリやHDDといった媒体であったり、メール添付やFTP経由でということも多い。一昔前では、DATや6ミリテープ、オーディオCDやMDといった素材の持ち込みが当たり前であったが、現在はそういった音源もファイル化が進み、こういったメディアが持ち込まれることはほとんどない。しかしCDは単価も安く手軽に使えることから現役の媒体となっている。

使用した機材の機能、特徴など

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専用リモートコントローラーにより頭出しなどの作業が効率的に行えるCD-9010CF

今回借用した機材は、CFとSDメモリーカードに対応した24bit/192kHz記録が可能なステレオオーディオレコーダー/プレーヤーHS-2およびCDプレーヤーとCFメモリーレコーダーが一体となったCD-9010CFの2機種である。いずれもラジオ局などの放送業務用を主な用途として開発された製品のようで、ボタン配置や操作性、耐久性、音質など一般的なプレーヤーやレコーダーとは異なった次元の製品である。機材の試用は、株式会社ユー・ブイ・エヌ(以下UVN)のスタジオにて実施した。

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CFやSDメモリーカードに対応したHS-2。LAN接続によるコントロールも行うことが可能

HS-2は、従来のMDやDATの置き換え的なコンセプトで開発されたようだが、音質はもとよりDATのように回転ヘッドもなくMDのようなピックアップもないことからトランスポート系のレスポンスは格段に優れている。またタイムコードオプションやLAN接続によるファイルベースでのオーディオファイルの転送やコントロールなどにも対応している。HS-2は4ch記録が可能なHS-4000をベースにラジオ局やスタジオなど各方面からの情報を集約して製品化されたということで、より広範な業務用途を想定した仕様となっている。こうしたレコーダーはDATやMDと異なり記録フォーマットやコントロール系の設定など煩雑になりがちだが、タッチパネル式のカラー液晶を装備しており直感的に行うことが可能だ。こうした操作性はHS-2000やHS-4000などと共通しており、表示も明瞭で視認性も良いので設定ミスなどの誤操作防止にもつながっていると思う。

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CD-9010CFはPC用のキーボードが使えるようになっており、CFメモリーカードのファイルネームなどの入力を行うことができる

CD-9010CFは専用のリモートコントローラーRC-9010Sが用意されており、テンキーによる曲の頭出しやジョグ/シャトルによる頭出しができるようになっている。筆者は同じTASCAMのCD-601,701シリーズ(放送業務用CDプレーヤー)を以前、仕事で使用したことがあるが、頭出しのレスポンスやCDをトレーに入れてからの出音時間など操作性の格段の進歩が感じられた。

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CD-9010CFは、アナログ2系統、デジタルのライン出力に対応している

余談だが、TEACはCDやDVDのドライブメーカーとしてかなり知られておりPCの内蔵ドライブなどTEAC製のものが非常に多い。当然、CD-9010CFに搭載されているドライブもTEAC製で、こうした用途向けにチューンアップされているようだ。ドライブも自社のものだからこそこうしたことができるだけでなく、ドライブメーカーとしてCDプレーヤーに求められる性能や機能を知り尽くしているからこそ、できると言えよう。さらに、DAWの創世記からDA-88などを世に送り出してきた実績もあり、制作の現場が必要としている性能や機能をうまく取り入れていると思う。UVNではその後継機にあたるDA-78HRを使用している。

操作ボタンなど一見して堅牢な作りのものが採用されており、ラジオ局などでの酷使にも充分耐えられる作りになっている。最近ではラジオ局やテレビ局などでもファイル化が進み、以前のようにレコードやCDを収めたラックがずらりと並んだライブラリー室も少なくなってきたようだが、CD-9010CFにはCDからCFメモリーカードに任意のトラックをコピーでき、操作性も良いので場合によってはこちらのほうが効率的ともいえる。

MA作業

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MA室は一見するとフェーダーが並んだコンソールがあり、アナログチックなイメージだが、完全なデジタルの世界となっている。この部屋はPro Tools/HD3 with Mojo ICON D-Command Systemが、もう一つのMA室にはPro Tools HD1 PROCONTROLが装備されている

UVNではテレビ番組を始めとしてPVやイベント物など様々な制作を行うため、ファイルベースによる作業が中心とはいえどのような素材が持ち込まれてもいいようにCDを始め、DATやMD、6ミリテープレコーダーなども用意している。

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MA室に併設されているアナブース

DAWは事実上の業界標準Pro Toolsで、MA室が2つとファイルサーバーやVTRなどがあるマシーンルームが別フロアにあり、ほとんどの素材はこのマシーンルームで仕込むことになる。MA室にはアナブースが併設されておりナレーションやアフレコなどが行えるようになっている。

持ち込まれる素材も当然Pro Toolsのデータか、Pro Toolsで展開できるデータである。このように、ファイルベースのワークフローが確立されている中で今回借用したような機材は利用価値があるのかといえば筆者は今後ますます重要になってくるのではと考えている。今回はこうしたことを想定して機材を試用してみた。また、HS-2はナレーションなどのバックアップ用としても試用した。


MAの機材として試用

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CD-9010CFには専用のスタンドが用意されており、スタジオやホール、ライブラリー室などスタンドアローンで使用するのに便利だ

いずれの機材も卓からのリモートコントロールに対応できるように各種インターフェースが装備されているが、CD-9010CFは専用のリモートコントローラーRC-9010Sと組み合わせてスタンドアローン使用もできるようになっている。

一昔前のMAはテープロックシステムでVTRのワークと同期をとりながらこうしたオーディオ機器をコントロールしていたので、単なるトランスポート系の制御だけでなく同期や調相に必要なTCやゲンロックなどタイミング系のインターフェースが必要だったが、ファイルベースでのワークフローが一般化した今ではほとんどそうした機能は使われない。

とはいえ、ラックにマウントしたり、マシーンルームに設置して使用する場合はトランスポート系のコントロールやHS-2のようなレコーダーの場合は記録フォーマットなどがリモート設定できる必要性はあるだろう。

今回は、リモート制御をせず、スタンドアローンで使っていたが、RS-422やGPIによるリモート制御機能がオプションまたは標準で装備されているので、MAでもうまくシステムに組み入れることができるだろう。また、HS-2は記録フォーマットなどをLAN経由で設定可能だ。その為のアプリケーションを用意する必要はあるが、複数台をコントロールする場合でもコントロール用に1台PCを用意すれば良いことなので、まとめて管理や運用ができる。

MAに必要な素材は必要尺の場合もあれば、一部分のみ使用ということもある。持ち込みもあれば社内のライブラリーから選択することもある。今回はライブラリーや長い尺の中から必要箇所を抜き出す作業をCD-9010CFで行ってみた。もちろんリモコンを接続した状態である。CDはトレー式で、CDを載せて再生してみたが、すぐに音声が出た。通常のCDプレーヤーやPCに内蔵のドライブだと何秒もかかるのだがCD-9010CFに搭載されているドライブはトレーのオープン・クローズだけでなくディスクの読み込みも高速化されているということで、その効果は絶大といえる。特に複数に渡るCDの中から必要な箇所を抜き出したり、試聴しながら選択するような作業の際は、オープン・クローズやディスクの読み込み時間が短い方が作業性だけではなく精神衛生上も好感が持てるところだ。

こうしたドライブは通常ピックアップのレーザー出力を調節したり、トラックのピッチの認識、TOC情報の読み取りなどで一定の時間が掛かるものだろうが、自社製のドライブをチューンナップしただけでこれほどの高速化が可能なのだろうか。

さて、当初はCDから必要箇所を選択しながらCFメモリーカードに記録したり、プレイリストのようなものを制作してそれを元にCDからCFカードに記録するようなことを考えていたのだが、メニュー操作で任意のトラックを選択して記録することは可能なものの、こうした使い方には対応していなかったので、CDやCFメモリーカードに収録されている音楽データからプレイリストを制作して、それを元にPro Toolsに一気に取り込む方法をとった。ちなみに、CDはCD-DA(一般の音楽CDフォーマット)だけでなくWAVで記録されたものでも再生可能だ。ただし、WAVはCDと同様44.1kHzまたはDAT同等の48kHzで16ビット記録されたものに限られる。姉妹機種であるCD-6010はより広いユーザーをターゲットとしているためMP3(32/44.1/48kHzでビットレートが64~320kbps)にも対応しているが、本機では放送業務をターゲットとしているため対応はしていないようだ。

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Pro Tools上にアサインしたCD-9010CFとHS-2

アナログ出力にはモニターとラインアウトの2つがあり、モニターボタンを押して操作するとラインには出力されないように設定可能だ。放送やイベントなどリアルタイムでライブ送出する場合は、あらかじめ頭出し送出に備えることで、便利な機能といえる。MAでも完全にファイルベースに移行する前では必要な機能といえるが、現状こうした運用は残念ながらほとんどない。UVNでは他にも制作部隊もあり、イベントやPVなどの制作を行っているが、そうしたスタッフにもレスポンスや操作性、リモコン部に装備されたフェーダーなどが好評であった。

CFレコーダーもCDと同様な操作が可能で、CDかCFかどちらを選択しているかは本体にも、リモコンにも明確に表示されるようになっている。また、トラックやディスク情報などを表示するLCDも同じものが両方にあり、レイアウトなども含め明瞭でわかりやすい。LEDを採用した製品もあるが、長時間にわたる作業では刺激が強く本機のような表示は目にも優しく好評だった。

CD-9010CFのCFレコーダー部は、ビルトインされているCDプレーヤーから必要箇所を拾ってレコーディングするのではなく、CDプレーヤーと同じ操作性をCFでも実現したものといえ、BWF、WAVフォーマットに対応しているが44.1および48kHzの16bitで、他のフォーマットには対応していないようだ。

伝え聞くところによると放送局でのヒアリングを重ねて開発されたということで、スタジオの調整室などに設置され、CDやCFメモリーカードに作り込まれた番組を放送したり、生番組の放送中にCDを選択して放送するという運用を主眼に作られた製品と考えられる。もちろん、こうした機能はイベントなどでも必要とされるものでもある。ファイルベース化されたMA作業でもその場で素材を入力したり、素材を選択しながら作業するような場合は有効であろう。何よりもファイルのコピーは先述した通りセキュリティの観点からPro Toolsのマシーンに対して直接行うことは極めて危険である。時代に逆行するようだが、専用機で再生したものを取り込むのであればこうした危険はなくなるので、ある意味究極の防御といえるだろう。

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HS-2のLCD表示部はタッチパネルになっており、直感的な操作が行える

HS-2は、CF&SDメモリーレコーダーなので、対応フォーマットは16bit/44.1kHzのほか24bit/192kHzまでとなっており、かなり幅広く対応している。ただし、CD-9010CFのようにジョグ/シャトルの付いたリモコンは今のところ用意されていない。先日の展示会にてトランスポートリモコンRC-900が発表されたようで、それに期待したいところだ。現状では、テンキーやフェーダーが装備されたリモートコントローラーRC-HS20PDやポン出し用としてRC-SS20が用意されている。TEACのレコーダーラインナップには、他にもHS-2000やHS-4000というモデルもあるが、HS-2はCF&SDメモリー対応やLANを装備しており、もう少し幅広い用途を想定しているようだ。紹介されているアプリケーションも店内放送集中管理システムや演劇などにおけるポン出しシステムなども含まれており、単なるDAT置き換えのレコーダーというわけではないようだ。MAではPro Toolsにナレーションを収録する際のバックアップとして使用したが、CFとSD両方に同時記録できるなどバックアップとしては万全といえる。もちろん、音楽もののPVなどでコンサートなどライブ収録でのレコーディングとして使う場合でもこうした機能は有効である。

最後に

MAで使われるDAWは初期の頃こそ専用機もあったが、現在ではMacやWindowsなど汎用のOSを搭載したマシーンが利用されている。ローコストかつ汎用性に優れる反面、セキュリティの面では危険性が増したといえる。特にファイルベースでの運用が当たり前となった昨今ではインターネットなどWANへの接続はおすすめできない。CDやメモリーなどの媒体も素性のよくわからない相手とのやり取りには不安が残る。結局のところ、取り込み用に別のマシーンでチェックするといった作業が必要になり、本来のファイルベースでの利便性は損なわれている。外につながっていない社内だけのネットワークだけでも利便性はあるものの、MAだけを受注するような形態では大きなメリットはないといえるだろう。今回使用したような専用機は実時間での取り込みは必要になるもののセキュリティといった面では万全だ。使いようによってはファイルベースより効率的な場面もあるだろう。また、レコーダーとしての機能もあるので、ナレーションのバックアップだけでなく、音声完パケとして外部に渡す場合も安心して渡すことができる。

TEACでは今回使用した機種以外にも、SS-R200やR100といったメモリーレコーダーやCDもビルトインされたSS-CDR200など1Uラックマウントタイプの製品が用意されているほか、ポータブルタイプの機種もあり、機能や性能などそれぞれの特徴を活かし、業務に取り入れることができる。

今回機材を設置したMA室の主な機材構成

  • Pro Tools:digidesign Pro Tools HD3 With Mojo ICON D-Control
  • Full HD Video Moniter:LC-45BE2W (SHARP)
  • Moniter:SP Front SP NF-1A (Fostex)、Rear SP NF-01A (Fostex)
  • MTR:DA-78HR (TASCAM)
  • DAT:PCM-7040 (SONY)
  • CD: CDJ-200S (PIONEER)
  • MD:MD-5MKⅡ (TEAC)
  • ATR: MX-5050B (6mm) (OTARI)
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txt:株式会社ユー・ブイ・エヌ 松本研二 / 稲田出 構成:編集部

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