カプコンの『戦国BASARA』は、2005年の第1作発売以降、歴代シリーズ21タイトルで累計310万本を販売した戦国時代が舞台のアクションゲームだ。若い女性に戦国武将ブームを巻き起こしたコンテンツとしても有名で、近年はテレビアニメ化や劇場版、舞台といった幅広い分野への展開も積極的に行われている。

その展開の1つで今話題なのが、7月12日より毎日放送で放送された実写テレビドラマ『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』だ。このドラマはREDのシネマカメラで撮影されて、編集にPremiere Pro、特殊効果にAfter Effectsを使って制作された。

同作品の制作でカメラのレンタルや撮影現場でのデータ管理、カラーグレーディングまでの工程を担当したRawesome!のRAWビジュアルスペシャリストの伊藤格氏と、カラーグレーディング以降のオンライン作業を担当した株式会社映広の豊里秦宏氏に、R3Dファイルを使った『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』のワークフローについて話を聞くことができた。

シネマカメラのEPICでテレビドラマを全編撮影

Rawesome!は、REDデジタルシネマ社のRED ONEやEPICといった一般的なHDカメラの4倍以上の画像サイズをもつ4K/5Kのシネマカメラの機材レンタルや、RAWワークフローを使った現像やポスプロ事業を手掛けているチームだ。伊藤氏といえばRED ONEがリリースされていち早くから映画『築城せよ』(2009年)や『ハイキック・ガール!』(2009年)などのRAWワークフローのディレクションを手がけているディレクターとして有名だ。『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』では、EPICやMXセンサー搭載モデルのRED ONEのレンタルや撮影技術提供、撮影サポート、ワークフローのディレクションとして活躍をした。まず最初に今回のテレビドラマの撮影でREDのシネマカメラが採用された経緯を伊藤氏はこう語った。

伊藤氏:『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』には松田圭太氏とアベユーイチ氏の2人の監督がいまして、松田監督はREDのシネマカメラで撮影することを強く希望していて私たちに打診を頂きました。当初はRED ONEに決まりそうだったのですが、撮影監督の高橋創さんとも話をしたりして照明のことやナイトシーンが多いこと、RED ONEよりも機動性がいいこと、ハイスピード撮影が有効な格闘シーンがあることを考慮して、最終的にはメインをEPIC、Bカメを必要とした場合はMXセンサー搭載モデルのRED ONEで撮影をするということになりました。EPICは一式揃えるには約600万円から800万はかかるシネマカメラで、120コマ/秒というハイスピード撮影でも4Kや5Kで撮れるというのが特徴です。

Rawesome!のRAWビジュアルスペシャリスト 伊藤格氏

Rawesome!のRAWビジュアルスペシャリスト 伊藤格氏

株式会社映広 RAWメディア事業部 事業部長の豊里秦宏氏

株式会社映広 RAWメディア事業部 事業部長の豊里秦宏氏

Rawesome!にある3台のEPIC。このほかにも2台のRED ONE MXと1台のノーマルタイプのRED ONEがある

Rawesome!にある3台のEPIC。このほかにも2台のRED ONE MXと1台のノーマルタイプのRED ONEがある

Premiere Proでタイトなスケジュールを乗り切る

REDのシネマカメラはビデオをはるかに上回る帯域で収録できるのは確かだが、問題はワークフローだ。通常のテレビドラマや映画のようなプロジェクトの場合は、伊藤氏が実際に編集される編集担当者の作業のしやすさを考慮してワークフローの提案を行うが、今回のテレビドラマの場合は撮影から納品までの時間の短さが問題だった。6月15日から7月14日の一ヶ月間で全9話分のロケを山梨県で行いつつ、並行して7月12日からテレビドラマの放送がスタートするという非常にタイトなスケジュールが控えていたのだ。

さらにREDデジタルシネマ社のカメラはR3Dと呼ばれるファイル形式で記録され、Final Cut Proで編集を行いたい場合はR3DファイルをProResに変換する必要がある。1日に撮影する尺の合計は30~40分ぐらいで、再生/現像を高速に行うボード「RED Rocket」を使えば尺の等倍で変換できるが、通常のFinderコピーの2倍の時間がかかるMD5チェックサム検証込みのバックアップ作業も含めて考えると、ファイルの変換をしている時間がなく、睡眠時間さえとれないほどタイトなスケジュールになることが予想された。そこで編集に選ばれたのがPremiere Proだ。

伊藤氏:連続ドラマをやっている最中にデータのバックアップ+変換をするということになると、もう睡眠時間はありません。変換しないでネイティブのまま編集ができる方法があるならばその方法を選ぶに越したことはありません。このような経緯で、今回のドラマでは撮影をしたR3DファイルをRawesome!に持ち込み、編集の方にはRawesome!に来ていただいてRAWデータを直接Premiere Proで編集するという方法で行いました。

『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』は格闘シーンの特殊効果も見所の1つだ。しかしそれには撮影の時点で特殊効果担当のスタッフが撮影現場で内容を確認しつつ、その場でCGの使いどころのカットを選んで頂いてDPXファイルで書き出しをする必要があった。そこで伊藤氏は、撮影現場には17インチのMacBook ProにRED Rocketを搭載したPCIe拡張シャーシを組み合わせたシステムを導入。Premiere ProでR3Dファイルを変換作業なしで確認ができるようにしつつ、順次素材の出力ができる環境を実現した。

伊藤氏:撮影結果を確認するだけならばREDCINE-XやRED PLAYERなどのREDデジタルシネマ社の純正ソフトでも可能ですが、REDCINE-Xは変換している最中に触り始めると変換が止まってしまいますし、基本的にベータ版のソフトです。しかし、Premiere Proならば変換なしで確認できうえに、アドビのMedia Encoderに送っても全体的なパフォーマンスは落ちるだけで変換が止まることはありません。Premiere Proで確認ができたことは全体の効率の中で凄く大きかったです。

Premiere Proならば、EPICの4Kで撮影されたR3Dファイルを変換なしでそのまま編集することが可能だ

Premiere Proならば、EPICの4Kで撮影されたR3Dファイルを変換なしでそのまま編集することが可能だ

64ビット対応でパフォーマンスと安定性を実現

次に伊藤氏が語ったのは編集のパフォーマンスだ。Rawesome!には編集用のワークステーションとして、12コアのMac Proに24GBのメモリ、GeForce GTX 285が2枚とRED Rocketを搭載したメインマシンのほかに、8コアのMac Proに20GBのメモリ、GeForce GTX 480にを搭載したサブのマシンがある。しかし、これほどのハイスペックのワークステーションでもFinal Cut Proは32ビットアプリケーションのために、カット数が多くなってくるとメモリエラーが出始めたり、不明なエラーに悩まされることがある。一方、Premiere Proは完全に64ビット対応アプリケーションなので、搭載したメモリをフルに活用して安定した動作を実現できる。伊藤氏は64ビットのパフォーマンスと安定感についてこう語った。

伊藤氏:Final Cut ProはRAWをそのまま再生することはできませんでしたが、Premiere Proならば監督の許してくれる範囲の解像度と再生感でRAWを変換なしでコマ落ちなく再生できます。また、プロジェクトが長くなってきたときにへこたれるようなエラーが出ることもありません。その安定度は非常にびっくりしました。あと、H.264やProRes、MXF、試写用のラッシュやMAラッシュ、編集結果の内容を監督にリモートで確認してもらうために変換して出力をすることが多いのですが、その時の安定度も非常に高かったです。

また、アプリケーション間のやり取りの安心感についても言及する。他のノンリニア編集ツールはビデオレンジに制限があるものがあり、素材のやり取りに安心できないところがあるが、アドビのPremiere ProとAfter Effectsの間ならばこのような心配に悩まされることは一切ないという。

伊藤氏:読み込み方を間違えただけでビデオレンジがぜんぜん違ったものになったり、ファイル名に決まりのうるさいツールもありますが、Premiere ProとAfter Effectsの間であればそういったことに悩まされることはありません。自分で素材を出してとりあえず確認して、”そのルックでOKだからこのまま進めてください”といえる安心感は大きいです。Premiere ProはAfter Effectsを使っている人にデータを書き出すうえでの安心度が非常に高いツールといえます。

8コアのMac ProにGeForce GTX 480を搭載したサブの編集用ワークステーション

8コアのMac ProにGeForce GTX 480を搭載したサブの編集用ワークステーション

12コアのMac ProにDaVinci Resolveを使ったカラーグレーディング用のワークステーション。RED RocketとGeForce GTX 285 2枚を搭載しており、快適なカラーグレーディング環境を実現している

12コアのMac ProにDaVinci Resolveを使ったカラーグレーディング用のワークステーション。RED RocketとGeForce GTX 285 2枚を搭載しており、快適なカラーグレーディング環境を実現している

4Kで撮って4Kで仕上げる意味はある

『戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-』の撮影は、ほぼ全編4Kの4,096×2,160、30pで撮影されている。テレビドラマの撮影ならば最初から2Kで撮影してもいいではないか?と思われる方も多いと思う。最後に4Kでテレビドラマを撮影/編集するメリットを聞いてみた。

伊藤氏:REDを使っている人はターゲットがなんであろうが、4Kや5Kで撮ります。なぜかというと、やはり引きの画などの解像度感がまったくちがうんです。REDには4Kで撮ってREDのディベイヤーという考え方で解像度を落とすと、リサイズのモアレが出るということもありません。常に素材の品質が高く、ターゲットとなるものに対して余裕をもって対応できている。そういうことを考えると、2Kの作品だから2Kで撮るとかはまったくないですね。

また、制作したコンテンツが将来、4K対応テレビだったり4K対応Blu-rayのコンテンツに対応させる機会があるかもしれません。それならば今から4Kでプロジェクトを作ってマスターは4Kにしておいたり、Quad HDをマスターにしておき、そこからHDに出力するというのは無駄な作業だとは思いません。そういう意味で今、4Kの素材を編集できる環境を検討すると、Final Cut Proはプロキシを介した方法が中心だし、Final Cut Pro XもネイティブなR3DファイルやRED Rocketにも対応していません。今後アドビのワークフローを取り入れていくのは必然の流れだろうと思います。

国内では2011年に地上デジタル放送への完全移行が完了したばかりで、次世代のテレビ放送がスタートするのは相当先のことだと予想される。しかし近い将来、4K対応のモニタやプレーヤーが登場しはじめることを想定すると、今から4Kで撮って4Kのプロジェクトで制作してマスターは4Kで仕上げるというのも1つの方法かもしれない。その際に4Kのワークフローを考えるならば、アドビのCreative Suiteは最も有力なワークフローの候補となるのではないだろうか。

番組情報

「戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-」
伊達政宗を林遣都が演じ、ライバル役の真田幸村に武田航平、片倉小十郎に徳山秀典、織田信長をGACKTが演じるなど、オリジナルキャラクターに勝るとも劣らない個性豊かな実力派俳優達が集結。今までのテレビドラマでは見たことのないCGアクションにも注目だ。

MBS 毎週木曜深夜1時25分(2012年7月12日スタート)
BS-TBS 毎週火曜深夜3時(2012年9月4日スタート)
http://basara-drama.com/

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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。