Canon EOS 5D MarkIIの登場以来、増加の一途をたどる大判センサー搭載カメラによるビデオ撮影。テレビドラマや映画、CM撮影などでの活用は周知の事実だが、最近では結婚式などのブライダルビデオ撮影においても採用事例が増加しているという。

そんな中、先日品川のソニー本社ビルで開催された「ソニープロフェッショナルセミナー」では、大判カメラで撮る新しいウェディングムービーの魅力をテーマに、ブライダル撮影における大判センサーカメラの活用方法やその課題についてのトークセッションが行われた。

セミナーのゲストスピーカーには、Canonのデジタル一眼レフカメラ EOS 5D MarkIIやSONY HDVカムコーダー HVR-Z5Jを活用してブライダル撮影を行っている株式会社ポイントゼロの田村洋介氏が登壇。田村市はブライダルのみならずVPやPV、ライブ撮影でも活躍中のカメラマンだ。トークセッションでは、”なぜ大判カメラを使うのか” “ユーザーのニーズはどう変化しているのか” “大判カメラを使った運用のポイント” などについて、現場で活用しているユーザーならではの声を聞くことができた。

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MCを務めたソニービジネスソリューション入倉氏(左)とゲストスピーカーのポイントゼロ田村氏(右)

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入倉氏:今回、NEX-FS100J(以下FS100)を結婚式撮影で活用いただきましたが、どのようなセットで撮影をしたのでしょうか?

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田村氏:今回はFS100を使用して、METABONESのEFマウントアダプターとCanonの24-105mmレンズを使用して撮影しました。これはある程度1カメでオペレーションがいけるか試したかったのと、どれくらいの表現ができるかを試してみたかったんです。通常は24-70mmや16-35mm、単焦点の50mmを差し込み用に使っています。マウントアダプターが登場したことで、ポテンシャルが上がって魅力的なカメラになったのではないかなと思います。

入倉氏:そうですね。Eマウントだけだとレンズラインナップが不足するというお客様からも、マウントアダプターが出てきたことで「キヤノンのEFレンズも使えるならいいね」という声をお聞きします。

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田村氏が使用した機材構成

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FS100で撮影した実際の結婚式映像

入倉氏:これまでZ5Jメインで使われていたそうですが、どのようなきっかけで大判センサーカメラを使おうと思われたのでしょうか。

田村氏:もともと撮影をやり始めた頃は、ソニーのDSR-PD150などを使っていました。それからの流れで、小型でプログレッシブが撮れるようになったパナソニックのAG-DVX100A(以下100A)を使うようになりました。当時、技術的な知識も全くなく、僕達の感覚で「インターレースは古い、プログレッシブがかっこいい」みたいな安直な発想でしたが(笑)。そんな中100Aでライブ撮影していたところ、「これはブライダルでも面白い画が撮れるのではないかな」ということで、100Aをブライダルでも使い始めました。

その後キヤノンのEOS 5D MarkII(以下5D)が登場してきた時に、単純に「これで映像を撮ったらすごい画になる」「これまでと違った表現ができるのではないか」ということで、とりあえずやってみて使えるかどうかの判断をすることになりました。もちろんいきなり仕事で使うということはなく、知り合いの結婚式で撮影させてもらったのですが、大判で撮影したものを実際に新郎新婦に見ていただいた際に「すごいね、こんなの見たこと無い」「綺麗だね」というようにとても評判が良く、これは取り入れていかないとまずいな…という話になって今に至る、という感じですかね。

入倉氏:それまでにPVなどでのお仕事で5Dなどのカメラを使っていた経験はあったのでしょうか?

田村氏:どちらかというとブライダルの方が先だった気がします。PVでは被写界深度を浅くするDoFアダプターを使い、カメラはパナソニックのAG-HVX200などで撮っていました。その後5Dが出てきて移行した形ですね。ソニーのPMW-EX3(以下EX3)も使っていましたよ。

入倉氏:プログレッシブの後のトレンドとして被写界深度DoFアダプターをEX3などで利用、ローコストなCMやPV撮影などではEX3が相当使われて、その後5Dも使われてきたといった変遷がありましたね。

コストについて

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入倉氏:それからはずっと大判で撮影されているのですか?

田村氏:自社のWebサイト「cEE」から直接ご注文いただくお客様に関しては2カメ体制などでずっと大判カメラを使っていますね。

入倉氏:ブライダルでは2カメ体制だとコストが大変で難しいという話をよく聞きますが、大判の場合は必ず2カメでやるという体制でしょうか?

田村氏:そうですね。まず5Dを使っている時点でバックアップがとれないという課題がありました。バックアップについては最近ではいくらでもやりようがありますが、カメラの機動性も落ちるので、2台体制で1台はZ5Jなどを使ったり、もしくは5Dと7Dをいれて一台はZ5Jなどで撮影しています。バックアップだけでなく、音をどうやってうまく収録していくか、という部分が一番ネックでしたね。

入倉氏:2カメで撮ることによるコストアップはどのようにしていますか?

田村氏:Webからの注文ですとお客様からいただく金額が全部会社の売上になりますので、コストという面についてはそれほど負担にはなっていない気がします。

2カメの商品には”威力”があると個人的には思います。画としてもガラっと変わってきますし、お客様としてもわかりやすいですよね。「2カメになると、こういういいことがあるよ」と。普通のカメラだと提示しにくいんですが、「2カメにすることによってカメラも変わって綺麗な画が撮れるよ」というのがすごくわかりやすくて説明しやすいんです。

入倉氏:ポイントゼロさんが運営されているWebサイト「cEE」から直接の申込があった場合、商品を説明する際は、実際にお会いして打ち合わせをして決めていくのでしょうか。

田村氏:お客様によっても異なりますが、メールでサンプルを希望される方もいらっしゃいますし、商品が決定していて、「これがやりたい!」というお客様もいらっしゃいます。最終的にはお客様と直接打ち合わせをして、求めているものに応じたプラン提示もありますので、打ち合わせをしてからの決定になります。

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ポイントゼロが運営しているブライダルビデオ申込Webサイト「cEE」

入倉氏:Web経由で申し込まれる方の何割くらいは大判撮影でしょうか。

田村氏:基本的にはWebからの申し込みはすべて大判を使っています。式場経由の場合は100%Z5Jを使っています。式場経由は数が多いので、例えばひとつの案件だけFS100で撮ると「これ他のと全然違うじゃん」という話になってしまう場合があるんです。明らかに最終的な仕上がりが違ってきてしまいますので。

また、会社として機材を選んで使っていく方向性の中で、例えばFS100を使って大判で撮ろう、ということになったとしたら、個人のスキルだけじゃなくて全体的な撮影スタッフのスキルも上げていかなければいけない。 みんながFS100を使いこなせるようにしないといけないわけですよね。そうなってくると、だいぶ時間とコストがかかってしまいます。

契約式場さんに関してもゆくゆくは大判を取り入れていく方向性にはなってくるのかなとは思いますが、現状ですとまだ入り口に立っているという感じでしょうか。

入倉氏:「大判カメラならこういうコンテンツが撮影できるよ」と、式場にとってもメリットになるということを式場側が理解してくれればいいですけどね。

田村氏:理解がある式場さんは話に乗ってきてくれると思うんですけどね。1カメだけの商品だけじゃなくて2カメの商品があってもいいと思いますし。

ニーズの変化について

入倉氏:大判を使ってブライダルビデオを撮っているという方は昔は誰もいらっしゃらなかったですが、最近はかなり増えてきている感じがしています。これまでは「大判は難しい」「ちゃんと記録をしないといけない」「参加する人すべてを記録しないといけない」という課題を聞いていましたが、最近大判撮影が増えてきているということは、新郎新婦の考え方が変わってきているとか、ユーザーのニーズが変わってきているとか、何かそのような動きがあるのでしょうか?

田村氏:20代の方などはWebでコンテンツを見ている量がすごいんですよね。僕は35歳ですが、下の世代ではYouTubeなどでいろいろな映像を見ていて、見る目が明らかに肥えているんですよ。何がカッコいい、カッコ悪い、といった感覚が昔に比べて一般層にも広まっている感じがします。映像が好きで毎日観ている、仕事として映像に携わりたい、という人でなくても、今の子達は情報収集が簡単にできてしまいますからね。

お客様の中では使用レンズを指定してくる方もいらっしゃいます。「単焦点の○ミリ使ってください」というリクエストなど。そういった打ち合わせができるというのも直受けのメリットだと思っています。

入倉氏:大判撮影の場合、記録性は若干損なわれてしまい、出来たものに対して「とれていないじゃないか」といったクレームを受けることはありませんか?

田村氏:2カメでオペレーションをする場合はぞれぞれ役割を変えて記録性が極端に損なわれないようにしていますので、クレームは全く受けたことがないですね。また、記録とは別にダイジェスト版も作成してお渡ししています。記録は記録でしっかり押さえたものと、それを多少作りこんで数分の尺にまとめて気軽に見ていただけるようなものの2パターンを納品させていただくことが多いです。

撮影体制・スタイルについて

入倉氏:大判で撮影するのは挙式から披露宴まで全部でしょうか。もしくは、挙式や支度風景は大判で撮るけれども披露宴ではHDVを使うとか、使い分けはされたりしますか?

田村氏:撮影スタイルの変遷がありまして、当初はとにかく5D使うときはもう一台Z5Jなど一般的なビデオカメラを必ず入れるようにしていました。ダイジェストはダイジェスト用のカメラとして5Dを入れて、記録、レコーディング用としてZ5Jで回すんです。Z5Jの方は終始しっかり撮っている形で、音も入れておきます。あとで2カメで編集するときに合わせていたりもしていたんですけれども。最近は3台で可能ならDSLRカメラを2台入れて作っちゃったりしています。

入倉氏:それはノウハウが貯まってきて、2台の大判でもいけるようになったということでしょうか。

田村氏:シーンによってのレンズチョイスがこなれてきて、ここだとこのレンズで大丈夫というように、失敗する確率は少なくなりました。手探りなときは、「このレンズじゃないよな…」とか、レンズチェンジに時間を取られてしまい収録する時間が減ってしまうということがありました。レンズチョイスがわかってきた段階で二台でいけると思います。

入倉氏:大判が流行っていて興味はあるけれども、披露宴などの場ではフォーカスあわせも大変だし、レンズもたくさん用意しなければならない、ポジション取りも制限されるなどの理由でとても無理、と思っている方は結構いらっしゃるようです。大判で撮影するときのポイント、コツはありますか?

田村氏:そうですね、ピントがシビアというのはもちろんですが、逆にそのピントがシビアなところを活かしてしまうのも面白いです。たとえば人が横並びになっている時に手前から奥にピントをずらして遊ぶこともできます。もちろんデメリットもありますが、メリットとして受け入れている部分はあります。外れてしまう時は外してしまいますので、2台で収録してよく撮れている方を使う、というやり方もしています。

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田村氏:ブライダルは動きがそれほどアクティブなものではないですから、入場時点でピントをあわせてだんだんずらしていけば、大きくピントが外れることは無いですね。歩くのはとにかくゆっくりが基本ですから。たまに、余興などで走り回る人はいますけど、そういうところでピントが外れてもアクティブ感が伝わるイメージとして面白いと個人的には思っています。

ピント合わせは使用しているレンズを使い慣れているかどうかがすごく影響してきます。慣れたレンズで、シーンが始まるときに先にピントが合う距離とポジション取りをして待ち構えてから狙う、という形をとっています。

入倉氏:FS100は電動ズームが無いですが、ブライダルではしゃべっている人を撮りながらパンして引いて全体を収めるとか、ズームを多用する印象があります。電動ズームがないことによって作り方を工夫しなければいけないとかあるのでしょうか?

田村氏:そこはすごいネックな部分でもあるのですが(笑)、まず2カメの場合はカット割りで表現できる部分があるので、たとえば今こうやって二人で話しているシーンの例で言うと、向こうからの一台と、別の角度から狙う一台をカットで切り替えて見せていき、たまにお客さん側に向けたい時は一台のほうが狙って行ってカットを切り替えて見せる。DSLRで撮るときはズーミングはほとんど使いませんね。

SONY NEX-FS100Jについて

入倉氏:FS100というカメラについての感想はいかがでしょうか?

田村氏:初見では、本当に使いづらいカメラだなと思いました(笑)。構え方がうまくハマらなくて、どう持つのが良いんだろうと。最初使ったときはサポートみたいなものを使って撮影したのですが、いかんせんファインダーの位置がど真ん中なので、使っていて首が痛いな、ということもありました。でも、ハンドルを縦グリップにして構えてみたところ、印象が一変し、モニターとレンズの軸がまっすぐなのが気持ちよくて撮りやすかったですね。カメラのボディを胸に押し当てると、ハンディでは安定します。

搭載されているパラメータ類に関しては、普段つかっているZ5Jとほぼ一緒ですが、調整がわかりやすい普段使い慣れているものなので良かったですね。あとはピーキングだったりゼブラだったり、ビデオとしての必要な機能が入っていて安心して使えました。5Dでは撮影時にわからないので感覚に頼っていました。

それにバックアップできるユニットが別売りであるので、撮影データを別々に保存できるというのは一番大きいメリットです。僕達ブライダル業界の人間から言えば、バックアップがないと話になりませんから。

あとは、音の収録ですね。モニタリングも5D MarkIIIからはできるようになったようですが、IIではできませんでしたからね。収録している時に音を聞けるというのは、本当は絶対なくてはならない機能なんですけどね。当たり前の機能がしっかりとある、というのもFS100のメリットではないでしょうか。

入倉氏:FS100の画質、テイストはどうでしょうか?

田村氏:無加工の映像では、なんとなく「5Dの画っていいな」っていうのはあると思いますが、最終的にグレーディングをするという話になると、ブラックガンマとか多少動かせるFS100の方が有利な面はありますね。撮影後のワークフローをどこまでやっていくのかという部分で変わっていくかとは思いますが。

入倉氏:良くも悪くもソニーのカメラは「ビデオっぽい」と言われることがあり、5Dで撮った映像は独特で、フィルムともまた違った傾向がありますよね。ただ、黒い部分はべったり潰れてしまうことが多いので、後処理が難しいという声はよく聞きます。

田村氏:結局、「撮影後に処理をしなくても何となく良い画が撮れる」ということであれば、我々の技術的な部分も頭打ちになってしまうというか、映像制作業をやっていてビデオで収録している限りは、やはり撮った後のフローもしっかり対応していくようにしなければならないと思います。

入倉氏:FS100はバックアップ収録も可能ですが、これなら1カメでもいけそうですか?それとも、そもそも大判だと1カメは無理でしょうか?

田村氏:そうですね、撮影するスタイルというか、撮影方法が大幅に変わってくると思うんですよね。商品の内容にも関わってくると思いますし、一般的な「最初から最後までしっかり収録する」というものに関しては、FS1001台だけでは結構難しいと感じますね。どうしても寄ったり引いたりができないと、長い間撮り続けるのが難しいんです。

でも、シーンの切れ目や言葉の節でカメラを動かして、また画を作って、収録して…とカットを割っていく撮影スタイルでしたら、1カメでも十分運用できると僕は思っています。最近ブライダル業界では当日撮ったばかりの模様をエンドロールで流す「撮って出し映像」が流行っているのですが、それに関してはほとんど文句なく運用できるのではないでしょうか。

入倉氏:「撮って出し」ではどのあたりまで撮っていますか?

田村氏:披露宴が始まってからお色直しで新婦が中座、着替えて再入場した後くらいまで撮りますね。これは従来のテープ収録では難しかったことなのですが、ファイルベースに移行したことによってギリギリまで撮影していてもすぐに編集できるようになりました。FS100なら、Z5Jで撮るものよりもクオリティの高い撮って出し映像が作れると思います。

セミナーを終えて

大判センサー搭載カメラをブライダル撮影業務で活用するには、まだまだコストやスキルの課題なども残されているものの、今後より一般的になっていくことは撮影の現場でも認識されているようだ。

撮影するだけであれば、安価な家庭用ビデオカメラを使って誰でも簡単に高画質な映像を残すことができる昨今。友人に撮影を依頼して結婚式にかかるコストを削減している新郎新婦も多く、撮影を依頼された経験のある読者諸賢も多いのではないだろうか。そのようなブライダル映像業界を取り巻く情勢の下でプロフェッショナルとして映像制作業を営んでいくためには、専門業者としての付加価値が必要だ。その一つとして、大判センサー搭載カメラを使いこなした、魅力的でドラマティックなブライダルビデオ撮影が広まっていくことが予想される。

その一方で、セミナーの参加者からはFS100のような奇抜な形状ではなく、使い慣れたZ5JやNX5Jなど従来のカムコーダスタイルを継承した、新しい大判イメージセンサー搭載カメラを望む声も寄せられていた。ソニーを含め各カメラメーカーには、よりいっそう機動力と使い勝手を向上させた新製品の登場を期待したい。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。