8月20日から8月22日の3日間、横浜市にあるパシフィコ横浜で日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2012」が行われた。CEDECというとゲーム開発の関係者にとってはカンファレンスという場だけではなく、業界人同士の交流や話が聞けて刺激も得られる大切な場という感じではないだろうか。ゲーム開発がメインなので映像業界には無関係のイベントのように思えるが、映像制作者にもお勧めしたいカンファレンスや発表が今年も行われていた。ピックアップして紹介しよう。

質の高いカンファレンスプログラム

まずはCEDECがどういったイベントなのか、ということから紹介しよう。CEDECの講演時間は基本的に1時間で、カンファレンスの数は209件と昨年の210件とほぼ同数だ。1日約70件という膨大なペースで行われるカンファレンスは、各講演は15あるホールで朝から晩まで1日5回ローテーションするような形で運営されている。講演の中でもっとも多いジャンルは「プログラミング」の45件で、「ビジュアルアーツ」が17件、「ゲームデザイン」が13件という感じだ。

講演の見所は、PlayStation3向けソフト「TOKYO JUNGLE」やAppStoreで「パズル&ドラゴンズ」といった近年のヒット作品を実現したノウハウを包み隠さず制作者本人が公開をするようなものだ。ここがCEDECの魅力で、業界一丸になって良い情報をカンファレンスで公開して「業界全体のレベルをどんどん上げていこうよ」みたいな業界全体の発展を目指している。映像業界にはCEDECのようなみんな一丸となってレベルを上げようみたいなカンファレンスはないし、そのほかの業界でも恐らくないだろう。CEDECはとても珍しい例ではないだろうか。

受講者の真剣な姿も印象的だ。CEDECは有料のセミナーで、3日間有効のレギュラーパスがCESA会員/学生の通常申込で25,000円、一般が35,000円とそれなりの金額が設定されている(早期割引はそれぞれの価格から5,000円引き)。講師の話を聞きながらメモをとっている人が多いのも、他のカンファレンスイベントと違うところと感じた。

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講演前のホール内の様子

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8月22日のスケジュール。基調講演も含めれると9時45分から18時50分までみっちりとセッションが行われる

基調講演にILMの上杉氏が登壇

映像業界でも注目のセミナーを紹介しよう。一番注目だったのは、3日目の基調講演として行われたスタジオ「ILM」(インダストリアル・ライト&マジック)でシニアマットアーティストとして活躍している上杉裕世氏の「デジタル製作環境におけるアナログマインド」だ。上杉氏は、1995年に『スター・ウォーズ 特別編』で3Dマットペインティングを開発し、『エピソード3 シスの復讐』(2005年)に至るまで『スター・ウォーズ』シリーズ全作でデジタルマットアーティストとして活躍している。上杉氏はこの講演でいろいろな作例をスクリーンに投影しつつ解説を行ったが、この講演はスクリーンの転載が不可なので、画は掲載できないことをご了承いただきたい。

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「デジタル製作環境におけるアナログマインド」で講師を担当した上杉氏

上杉氏の話の中でもっとも面白かったのは後半の学生時代の武勇伝のような話だ。高校生の時代から8ミリを使った映像制作をしていて、文化祭の際には仲間7人ぐらいで映画を作る機会があったという。その時の悩みは「大学の時は大学の時で金がないですが、高校生の時は輪をかけてお金がありませんでした」と金銭的な問題があった。というのも8ミリフィルムの撮影時間は3分でフィルムと現像でちょうど2,000円。そうなると、30分の映画を作るとするとまったく無駄がない場合で2万円、倍の尺を使ったとしたら4万円かかる計算になる。そこで、学校の周りの商店街を回って1口5,000円で30秒のコマーシャルを作るという営業をかけて映画制作を実現。「半分以上それでまかないました」と苦労話をしてくれた。営業というのも驚くが「高校生の時にすでに特撮を成立させるかという方法論をよく考えていました」というのも驚く話だ。

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上杉氏の基調講演は一番広いメインホールで行われた

武蔵野美術大学の油絵科に進学してからは、高校の時に考えていた方法論を大学で実現し始める。大学時代ですでに「ミニILM」を目指していてたと言って話をしたのが、「1軸のモーションコントロールカメラ」や特殊効果を実現するための「オプチカルプリンタ」を手作りで実現した話だ。オプチカルプリンタの初期型は写真の引き伸ばし機を光源したもので、その後8ミリから16ミリ、16ミリから8ミリに戻すモデルもできるものを作ったという。この技術の高さには驚かされるばかりだ。当時のことを、「毎日、あれこれ考えて、思考錯誤をしてやったことが9割5分は失敗で、残りの5パーセントを明日につなげて、毎日前に進み続けるみたいなそんな毎日でした」と振り返りながら話をした。

講演の途中で「アメリカにわたるまでに凄くエポックメイキング的な映像があります」といって1つの映像が紹介された。カブトムシとクワガタが戦う仮装で『欽ちゃんの仮装大賞』に優勝したときの映像だ。これには会場は大ウケだった。

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司会を担当したセガの第一コンシューマー研究開発部 グループリーダー 岩出敬氏

上杉氏の講演のほかにも注目だったのが1日目に行われたセガの岩出敬氏が司会のラウンドテーブル「ゲームエフェクトの今とこれから」だ。内容は「ゲームエフェクトとは何なのか?」ということや「実際に発注があって、どのように実現するのか?」、技術的な面では「HDRになった際のエフェクト」「物理計算によるエフェクトのリアリティ」などが論議された。また、ゲーム以外のエフェクトの事例からもアニメーションにおけるエフェクト制作として劇場版『マクロスF』から煙のエフェクト事例も紹介された。実際にカットを実現したクリエイターが、ミサイルの煙のエフェクトを実現する方法には「フォトリアルな質感の表現が可能な3DCGのパーティクル」、「カーブを3D空間上に配置して実現するオブジェクトのパスアニメーション」、「デジタル作画などが完全に手で描いてしまう」の3つのパターンがあるということを解説したり、気持ちいいエフェクトを実現するテクニックとして、「カメラ前でミサイルを2枚、3枚は粘らせている。カメラ前ではゆっくり、つぎにコマを抜いて飛ばす」といったことを解説していた。

文量の都合で紹介できないが、ゲーム会社が特色を生かして実現した3D立体映画『ドットハック セカイの向こうに』の製作を解説したものや、バンダイナムコから発売・発表されている立体視ゲームについてゲームの開発メンバーが登壇して解説したものなども興味を引く講演だった。

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今年で3回目となるエフェクト制作に関するラウンドテーブル「ゲームエフェクトの今とこれから」

「インタラクティブセッション」で試作的な技術を体験する

CEDECには「インタラクティブセッション」と呼ばれる展示スペースを設けられて発表されるコーナーも行われている。その中でひときわ目立っていたのが、大阪電気通信大学大学院の「床大画面エクサテイメントの開発」だ。プロジェクターから床に映像を投影してゲームを楽しめるというものだ。デモではゲームセンターなどによく設置されているエアホッケーが行われていた。パドルが自分の足に割り当てられていて、ホッケーを足に当てて相手のほうに返すようになっていた。床には測域センサーが設置されていて、センサーで足の位置を特定する。その情報をコンピュータで処理してゲームのコントローラーとして使っている。床自体が白ければ何の仕掛けも必要ない。フィールドの大きさも可変で体育館の外壁一面に投影したこともあるという。低コストで大きなアクションがとれるというのが特徴とのことだ。

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床に投影されているプレイ画面

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床に向けて投影しているプロジェクター

神奈川工科大学と東京工芸大学の「3Dディスプレイと互換の多重化・隠蔽映像技術」のブースでは、裸眼で見えない映像が手持ちのレンズを通すと見えるようになるという技術が公開されていた。考えれる応用例としては、映画館で裸眼では字幕なしの状態に見えるが、めがねをかけると字幕ありにみえるといったことに使えるのではないかとのことだ。この技術の様子は神奈川工科大学 白井暁彦研究室(http://www.shirai.la/)で映像が公開されているので、そちらでも参照してほしい。

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写真中央のレンズを通してモニタを覗くと裸眼では見えないものが見えるようになる

東京工科大学大学院と東京工科大学が行っている「大気圧を考慮した濡れた布のシミュレーション」のブースでは、濡れた布を再現するデモが行われていた。濡れた布を再現する場合は単に色が変わっているだけとか、クロスシミュレーションでもひらひらしたものが貼り付くという、実現されていないことが気になって実現してみたという。現在は布は四角で床に貼り付くという限定された状態なので、今後はもうちょっといろんなところに貼り付けられるようにしたいとのことだ。

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PC上で濡れた布をシミュレーションした様子

エンターテイメント業界は常に変化している

映像業界とは関係のない話になるが、CEDECの会場に入って感じたのはグリーやディー・エヌ・エーといったソーシャルゲームを手がける会社の存在感の大きさだ。グリーは3年連続でプラチナスポンサー、ディー・エヌ・エーはゴールドスポンサーになっている。また、正確な数を把握しているわけではないがセッションの発言者の自己紹介とかを聞いていると遊技機(パチンコやパチスロなどのこと)を制作している人の参加者も増えてきているようにも感じられた。来年も映像業界に役に立ちそうなセッションがあったら紹介したいと思う。

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