映像業界に詳しくない方でも「共同テレビジョン」の社名を聞いたことがあるという人は多いのではないだろうか。知らないという人でもテレビ番組のエンディングロールでよく見かける制作会社といえば、「ああっ」と思い出す人も多いと思う。共同テレビジョンはテレビ番組の制作を行っている最大手の番組制作会社だ。そんな同社が今年5月の分室移転の機会に編集室を増やして、Adobe Premiere Proを導入した。その経緯について、同社技術センター 映像取材部でシステムを担当している藤田弘二氏に話を聞いてみた。

国内最大手のテレビ番組制作会社

共同テレビジョンの会社自体は、ドラマやバラエティ、ドキュメンタリーなどのテレビ番組から、イベントやセミナー映像まで、映像に関わる制作を行っている総合制作会社だ。共同テレビジョンを語るうえで欠かせないのがフジ・メディア・ホールディングスの中核子会社であることだ。フジテレビジョン系列のレギュラー番組の制作、技術協力を多数手がける国内を代表するテレビ番組制作会社といっていいだろう。

藤田氏に話を伺うために訪れたのは、東京臨海副都心地区にあるダイバーシティ東京の分室だ。共同テレビジョンには、中央区築地の本社のほかにフジテレビジョン本社の分室とダイバーシティ東京分室の2つがある。今回訪れたダイバーシティ東京分室は、共同テレビジョンの中でもカメラクルーや中継などの部署が集まった技術センターの分室だ。機材を管理している部屋にお邪魔すると、HDW-750やHVR-Z5Jといったカメラやその充電器がずらりと並んでいる。いかにも取材部門の分室といった感じだ。

藤田氏:撮影や中継を担当する技術センターでは、ENG取材チームが常時約40チェーン(カメラクルーの数)ほど稼動しています。このチーム数は国内でもトップクラスの規模といってもいいと思います。それらのスタッフが報道番組「FNNニュース」や「スーパーニュース」「とくダネ!」といった、かなりの数のニュース番組や情報系の取材などをやっています。

特に藤田氏の紹介の中で気になったのがトップエンドの制作環境だ。3D映像制作に3D映像制作ソリューションで世界的にトップクラスの実力を持つ3ality Digital社の3Dリグ「TS-2」や、8K CMOSセンサーを搭載した高画質映像制作向けカメラ「CineAlta F65」が導入されているというのだ。このあたりはさすが番組制作会社の中でも最大手と呼ばれる設備だ。リニア編集室も台場フジテレビ内に10室、築地本社に3室備えている。社内で番組制作から撮影、編集のすべての環境を揃えているところも共同テレビジョンの強みといえるだろう。

技術センター 映像取材部の藤田弘二氏

技術センター 映像取材部の藤田弘二氏

新設の編集室にPremiere Proを導入

まず最初に、藤田氏にダイバーシティ東京分室で増設した編集室の詳細から説明をしてもらった。移転前の分室ではFinal Cut Pro 7をインストールしたMac Proの編集室が4室設置されていた。しかし、数が足りなく、今年5月にダイバーシティ東京に移転するのを機会に各編集室を省スペース化して6室に増やすように変更。さらに編集室の機能をもちつつ試写もできるプレビュー室と呼ばれている部屋を1室新設。現在は合計7室設置されているという。

右に3つ、左に3つの合計6つに増設された編集室の入り口。各部屋は作業中のために覗くことができなかった

右に3つ、左に3つの合計6つに増設された編集室の入り口。各部屋は作業中のために覗くことができなかった

移転の際に特に問題になったのが、移転の際に編集室に導入する新しいノンリニア編集ソフトだ。ダイバーシティ東京の編集室でもそのまま全室にFinal Cut Pro 7をインストールしたMac Proを設置している。しかし問題なのが「編集ソフトはこのままFinal Cut Pro 7でいいのか?」ということだ。Final Cut Pro 7は32ビットアプリケーションなので4GBのメモリの限界がある。そこでアップルはFinal Cut Proの次世代バージョン「Final Cut Pro X」を2011年6月にリリースしたものの、藤田氏が真っ先に感じたのは、「できないことが多い。これではFinal Cut Pro 7からそのまま置き換えることはできない」ということだ。周りの人たちも同じ意見で、「ちょっとこれだと厳しい」という話をもっぱら聞いてきたという。しかもこの状況はFinal Cut Pro Xがリリースされてから1年以上経っても変わっていない。そこで今後メインとなる編集ソフトに何を選ぶか?ということを、この機会に考えることになったという。

候補となった編集ソフトはアビッドのMedia Composer、グラスバレーのEDIUS、ソニーのXpri、アドビのPremiere Proなどだ。この中から選ぶにあたって3つの条件があったという。まず1つ目の条件は、インターフェイスがわかりやすいソフトを選ぶことだ。というのも、技術センターの編集室を主に使う「映像制作室」は、番組の制作を他の部署と連携をせずに行うセクションだ。つまりカメラマンは自分で撮影して自身で編集も行うわけだが、カメラマンが編集を行うというのはとても敷居の高い作業になる。そこでできるだけわかりやすいソフトが求められていたというわけだ。そこで選ばれたのがアドビの映像編集統合ソフト「Production Premium CS6」だ。導入したのはMac版を4本だ。

藤田氏:ここの編集室で操作するのは編集専業のエディターではありません。今までまったく編集とかをやったことがないというカメラマンも多数います。Media Composerは専業のエディターならばよいと思うのですが、ウチのスタッフからは”あれがわからない、これがわからない。難しくていやだ”という意見を聞きます。一方、Final Cut Proのインターフェイスはとても易しいです。ですので、できるだけFinal Cut Proのインターフェイスに近くてすっと入っていけるようなソフトであることを重視しました。そこで選んだのがPremiere Proです。また、若いスタッフに”どんな編集ソフトを使っているか?”ということを聞くと、Final Cutのほかに何人かは「Premiere Proを学校で使ったことがある」と答えました。学校で習得した編集ソフトが今後現場でもスライドして使えるようなところも重視しています。

2つ目の条件は、ハードウェアとセットになったターンキーシステムでないことだ。導入のコストが非常に高価になるターンキーシステムを避けて、できるだけ既存のMac Proをそのまま活用して新しい編集ソフトを選びたかったという。Production PremiumならばMac版とWindows版がリリースされているので、既存のプラットフォームに合わせることが可能だ。

最後の3つ目の条件は、カメラで収録されたファイルをそのまま編集ができることだ。共同テレビジョンの場合は、将来的にはXDCAM HD422やAVCHDのカメラがプラットフォームの中心になると予想される。Premiere Proならばこれらのファイルベースで収録されたファイルも変換することなくすぐに編集作業が可能というのも選定の理由だったという。さらに加えて藤田氏はこうも付け加えて語った。

藤田氏:取材は業務用のカメラがなければできないわけではありません。それゆえに多種多様なファイルが送られてきます。だからいろんなカメラに対応できるような編集ソフトが理想です。例えば最近困ったのは「Go Pro」です。変換時間に時間がかかるようなファイルフォーマットで記録された場合が結構あるのです。しかし、Premiere Proならば変換なしにそのまま乗っけて編集ができるのです。

プレビュー室のMac ProのPremiere Proで作業を行う藤田氏

プレビュー室のMac ProのPremiere Proで作業を行う藤田氏。Xeon 2.93GHz 6コアを2基、32GBのメモリ、2048MBのnVIDIA Quadro 4000にBlackmagic Designのボードを入れた状態で運用している

いきなり切り替えるのではなく、共存して次第に移行していく

共同テレビジョンのPremiere Pro導入で特筆するところは、既存のFinal Cut Pro 7が稼動しているシステムにそのままPremiere Proを追加でインストールしたというところだ。使い慣れたFinal Cut ProやMac Proはそのままなので、従来のワークフローを崩すことなく作業を進めることができるというわけだ。実際のところ共同テレビジョンの編集室にPremiere Proを導入したからといってスタッフはすぐに移行しているわけではなく、まだ多くは使い慣れたFinal Cut Proを使っているという。しかし、それも時間の問題ではないかと藤田氏は見ている。

藤田氏:Premiere Proを導入してもスタッフはまだFinal Cut Proを使っています。しかし、Premiere Proのレンダリングなしでプレビューできる圧倒的な速さなどの長所をそれぞれのスタッフがどのタイミングで気がつくかです。良さを知れば次第にPremiere Proにシフトしていくのではないかと思います。

Final Cut Pro 7の現行ユーザーは、どのタイミングで次の編集ソフトに移行するかを考えている人も多いと思う。しかし、いきなり別の編集ソフトに切り替えるのも困難なことだ。その点では共同テレビジョンの「共存しながら次第に次の編集ソフトに切り替えていく」というのは参考になる事例ではないだろうか。

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