バラエティなどのテレビ番組はまだまだテープで収録するのが一般的。そんな中、番組制作会社の株式会社タノシナルでは、撮ってすぐさま編集し、放送する”撮って出し”や、迅速なオフライン編集を実現するために、スタジオ収録と同時にデジタイズをするというサービスを行っている。

リニア編集文化が根強く残るテレビ番組制作業界で、ファイルベースの収録というのは珍しい例ではないだろうか。そこで実際に収録しているスタジオの現場にお邪魔して、タノシナルの代表 福島ツトム氏と、システム構築や編集業務を担当している鈴木健太氏に、ファイルベース収録のメリットや運用のポイントなども聞いてみた。

ファイルベース収録で高速化

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タノシナル 代表の福島ツトム氏

タノシナルは、テレビ番組やWebコンテンツの企画や映像を手がける制作会社だ。現在、フジテレビ系列のテレビ番組「人生の正解TV」では、スタジオで出演者に見せるためにあらかじめ用意する「サブ出しVTR」の制作のほか、状況によってはスタジオ収録をファイルベースのレコーダーを使って現場でデジタイズを行う作業も行っている。実際にスタジオ収録の現場にお邪魔してみると、副調整室にはずらりとポータブルコンパクトフィールドレコーダーの「nanoFLASH(Convergent Design社製品)」が4台並べられていてレコーディングが行われていた。現場は7カメで、本線とISO1、ISO2とパラが1本回っている4系統をテープのVTRで収録しているが、並行してnanoFLASHによる収録も行われていた。

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ポータブルフィールドレコーダーnanoFLASHに50Mbpsで収録。64GBのCFカードで約160分の収録が可能だ

スタジオで収録と同時にデジタイズをするメリットは作業の早さだ。鈴木氏はまず最初に、このメリットから紹介をしてくれた。従来の収録方法では、スタジオ収録後にVTRからプロキシデータのデジタイズ作業が必要だが、同時にデジタイズを行えばその手間が要らなくなる。バッチ作業を省けるうえ、ディレクター側でハイレゾリューションのデータをもっていて、それと同じものをプロダクション側でももっていれば、ディレクターはオフラインが完成したプロジェクトファイルをメール送信するだけで、プロダクション側でも同じ結果を再現することが可能だ。これならばわざわざ編集結果のハードディスクを届けに来なくてもいい。やり取りも早くてスムーズになるというわけだ。

ファイルベース収録のポイント

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タノシナルの鈴木健太氏

今回、編集部が一番最初に鈴木氏に質問をしたのは「なぜnanoFLASHなのか?」ということだ。その理由はQuickTimeのXDCAMで収録するためだと鈴木氏は語る。ディレクターがFinal Cut Proでオフライン編集をする際、スタジオトークのカットなどはマルチクリップ編集でスイッチングをしたいが、ポータブルハードディスクに収録されている素材がProResでは重くて2トラック走らせるのが精一杯。しかしXDCAMで収録をしていればマルチクリップ編集を快適に行うことが可能とのことだ。鈴木氏によると、「ポータブルハードディスクでも一気に6トラック、7トラック同時に再生させることができるでしょう」という。逆に、マルチクリップ編集をしないうえに、Final Cut Proでテロップ作業や加工作業するのであればXDCAMの素材は対応しにくい。

鈴木氏:今回の番組に関わっている制作会社はタノシナルだけではありません。オフラインはノンリニアで編集をして、最終的にテロップはリニアで入れるという流れなので、今回はnanoFLASHを利用しました。

もし、タノシナルの社内でテロップなどの加工までを行うのであれば、Ki Pro(AJA社製品)でProRes収録するという選択もあるという。nanoFLASHかKi Proかは、ディレクターのニーズや目的に合わせて選ぶとのことだ。

さらに鈴木氏は注意しなければならない点としてこうも付け加えた。テレビ番組の収録現場でデジタイズということに、現場のスタッフがまだ慣れていない。そんな中で特に注意しなければいけないのは、ファイルベースのレコーダーで収録する際はタイムコードが途切れてしまったり、止まってしまうとファイルが構築されなくなってしまうということだ。その結果、ファイナライズができなくなってしまい、ファイルは壊れてしまう。VTRを扱うスタッフには、「nanoFLASHを止めるまで、VTRを回して続けてほしい」ということを事前にしっかりと説明をしたうえで運用をしているという。

ファイルベースで番組収録が増えてきそうだ

福島氏と鈴木氏がテレビ番組(特にバラエティ)の収録現場で感じていることは、ファイルベースで収録するという文化の馴染みの薄さだという。ファイルベースで収録していると、離れたところから物珍しそうにレコーダーを見ている人がいたり、とある現場では某テレビ局の技術部長さんがわざわざ視察に訪れたこともあったという。しかし、馴染みは薄いものの、みんな興味は持っているとのことだ。

テレビ番組の制作業界はいつも時間に追われていて、「テロップをいっぱい入れなくてはいけないのに、3日後に放送というのもある」と福島氏は言う。そのために、タノシナルには「ファイルベースで収録してください」という話が増えてきているそうだ。今後、タノシナルのように、テレビ番組の制作業界でもファイルベースで収録する事例は増えてくるのではないだろうか。

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