CESで3Dテレビが公式にオワコンに

例年同様、年明け早々にラスベガスで開催された2013 International CES(世界最大の家電見本市)。会場の様子は、ココPRONEWSさんでも詳しく報じられたので、お読みになったかたも大勢いらっしゃることと思います。中でも、最終統括レポート内「CESでの栄枯盛衰」に書かれていた以下のくだりに注目。

ここ数年は花形であったのに、今年は勢いが無かった製品カテゴリに、電子書籍端末と立体視テレビがある。もちろんどちらもそれなりの展示はあるのだが、一時期の脚光を浴びていた感じは無かった。

[CES2013]Vol.07 総括-終わりから見えてくる次世代へのメッセージ

“立体視TV” って呼称は個人的にあまり馴染みがありませんが、これってぶっちゃけ「3Dテレビ」のことですよね?(笑)

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海外のブログやニュースサイトでも3Dテレビの終焉を告げる記事が目立ったのが今年のCESでした。ことに開幕早々、『昨年まではどこのブースに行っても入り口で必ず手渡された3Dメガネが今年は皆無だった!』ことをもって、「公式発表:3Dは死亡しました(It’s official: 3D is dead)」…と報じたTHE VERGEの記事は、「いいね!」x 8,000回越え、「Tweet」x 3,000回越え、記事下コメント500本弱の大ヒット。ほうぼうに引用され拡散したので、海外ニュースに目を光らせている方ならきっと読んだはず。

SONY、Panaの4Kカムコーダー@CES

さぁ、どうやら家庭内3Dが死んでしまった家電業界が、次に白羽の矢を立てた最新のトレンドが「4K」。今年のCES関連ニュースは、なんといっても4Kのオンパレードでした。

常日頃から映像業界系のニュースに触れている人にとっては「やっと来たか!」な話題とはいえ、今年以降、ご家庭にどんどんバリバリ4Kテレビが侵入していくのかと思うと、鬼気迫るものがあります。なんとなれば、4Kコンテンツの制作環境がまるで整っていないように思われるからです。そもそも4K解像度の映像を収録できるカメラからして、まだまだ片手の指で数えられる程度しか存在しておらず…

と、思っていたら、CES会場内ではSONYさん、Panaさんが揃って業務用4Kカムコーダーのプロトタイプを発表していたんですね。

  

これこれ。映画用や放送用のいわゆるプロ機とは別に、こういうカムコーダータイプのカメラが出ないことには、4Kコンテンツなんてそうそう増えるわけないよなぁ〜と思っていました。…とはいえ、これらはまだプロトタイプ。…ってことは、やっぱり4Kテレビのほうが先にお茶の間に浸透しちゃうって寸法ですか?

SONYと米4大ネットの密接な関係

つい先日、REDがSony Corporation of America並びにSony Electronics Incを相手取り、民事訴訟を起こして話題になりました。

色々な憶測や噂が飛び交っているのは皆様もご承知の通りですが、業界重鎮のI氏に伺った意見が印象に残っています。氏曰く、「なぁに、世界中のテレビ局がバックについてるSONYが負けるワケないですから(笑)」

なるほど〜。…実はこのお話を伺う数日前から、氏の卓見を裏付ける動きがあって、密かに気になっていたところでした。まさにREDに訴えられたSony Electronicsのプロ映像機器部門の長であるAlec Shapiro社長が、なぜか米4大ネットの雄、FOX NEWSのTECH TAKEに登場し、しきりに「4K押し活動」を始めていたのです(笑)。

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Shapiro氏はキャスター女史の質問に答える形でまずは4Kの定義から説明を始め、自社系列企業である米・Sony Picturesが「8Kセンサーを内蔵したF65で制作した “4K映画” が続々と公開される」ことを宣伝。

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After Earth(2013|W・スミス親子主演/M・ナイト・シャマラン監督)」や「Oblivion(2013|T・クルーズ主演/J・コーシンスキー監督)ほか、解説を進めるものの、この辺り知らない人が聞いたら「SONYのカメラだけが4K映画を撮れる」かのように聞こえて、ちょ〜っと詐欺っぽい展開。

ま、それはおいといて。最後に念を押すように言及しているのが、“SONYがFOXに協力する形ですでに始まっている” スポーツ番組の4K中継について。

Shapiro氏曰く、「すべてのプレーを4K解像度で撮影しているから、あとで決定的瞬間をスロー再生する際にも、精細感を保ったまま拡大表示できるんだよ」。続くキャスター女史の「4K制作はもはや必然なんですね〜?」との問いにも、余裕の笑みと共に「すでに5本のレギュラー番組が4Kで制作されてるし、5本の新作パイロットが4Kで制作されていますからね」

どうです?当然と言えば当然のことながら、やっぱりSONYはTV局を押さえてること、間違いなしっぽいですね。

「4Kテレビがバカげている理由」というCNETの記事

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以上、とにもかくにも、今後の世界はドドーッと一路4Kに向かって大行進を始めるのね?と信じ込まされるのが既定路線。…かと思いきや、今度はCNETの名物記者、Geoffrey Morrison氏が「4Kテレビがバカげている理由(Why 4K TVs are stupid)」という記事を公開し、ちょっとした騒ぎが巻き起こりました。

詳しい説明(生理学的、数学的根拠)は元記事をあたって頂くとして、大雑把に内容をかいつまんでご紹介しますと…

  • 人間の視覚解像度は有限である(限界がある)
  • テレビ視聴時、おおかたの人は約3m離れて見ている
  • この距離では、0.89mm以下の線は視覚的に解像できない
  • 50インチ、720pモニタの1画素の幅は約0.86mmである
  • 3m離れたら、4Kはおろか720pテレビですら充分以上である
  • 故にせいぜいフルHDは「あり」でも、4Kはバカげている

というもので、この記事があまりにも反響を呼んだため、二日後には追加で後追い記事まで公開されました。題して「ウルトラHD 4Kテレビがやっぱりバカげている理由(Why Ultra HD 4K TVs are still stupid)」。

記事の内容はまぁ最初の記事の補強版といった体裁なんですが、こちらには興味深いチャートが掲載されています。

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©CarltonBale.com

これはCarlton Baleさんという市井の “ホームシアター・マニア” のかた(といってもエンジニアリング関係でMBAを取得されてるそうですが)が、上述の生理学と数学的根拠を基にお作りになった、テレビ画面サイズ+解像度 vs 視聴距離の相関図です。

あ〜、これはわかりやすい。たとえば先ほどの例にあった、『普通の人は3m(10フィート)離れてテレビを見る』にあてはめますと、フルHD解像度が必要になるのはザックリ50インチ以上。画面サイズがそれ以下なら、720pテレビでも違いは識別不能。4K解像度はどうでしょうか?同じように3m離れた位置から視聴するなら、『4K解像度の意味が出る(違いがわかる)のは、ザッと80インチ以上から』ということになるようです。

高精細(レティナ)の定義は…

一昨年お亡くなりになった故・スティーブ・ジョブス氏がiPhone4のデビュー・プレゼンテーションで口にするや否や、瞬く間に広まった「レティナ・ディスプレイ」。レティナ(Retina)とは網膜のこと。それまでのiPhone3GSに採用されていたディスプレイの解像度(320×480)を一挙に四倍密化(640×960)することで1画素の幅が78マイクロメートル、解像度にして「326ppi」となったiPhone4では、もはや肉眼では画素が識別できない!

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…ということでしたが、その後に登場したiPad3のディスプレイ解像度はグッと低い「264ppi」。さらに後に登場したMacBook Proのそれは更に低い「220ppi」。でも、すべておしなべて「レティナ・ディスプレイ」と呼ばれていますし、異を唱える人はいません。これは一体どういうことでしょう?

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それは、iPhone、iPad、MacBook Proでは、それぞれ『想定使用時の目とディスプレイの距離が違う』のです。この辺りを詳細かつ懇切丁寧に紹介してくださっているのが、DisplayMateさん。

  • iPhone4は、27cm以上目から離して使う時にRetinaディスプレイになる
  • iPad3は、33cm以上目から離して使う時にRetinaディスプレイになる
  • MacBook Proは、40cm以上目から離して使う時にRetinaディスプレイになる
  • ※「Retinaディスプレイになる」=画素が見えない


 

そして、この記事で一番重要(&一番傑作!)なのは、『お宅にある40インチのフルHDテレビは、1.6m以上離れて見ているなら、すでにRetinaテレビですよ〜!』という結論です(笑)。

なにを言っても4Kテレビはやって来るのだろうけれど

まだまだ “気軽に” 4K映像を収録できるカメラがJVC GY-HMQ10(と、GoPro Hero3?)くらいしかない現状、CESのレポートを眺めつつ、お〜い!4Kテレビの前に4Kカメラをなんとかしろ〜、順番が違うだろ〜!といった気持ち悪さを感じていました。またぞろ無駄に解像感がアップした箱だけ買わせておいて、肝心の中身(コンテンツ)は「その内ね〜!」とは…、と。

でも、上に綴ったようなリサーチの旅路の果てに、『80インチ以下の4Kテレビには意味がない』事と同じように、アップコンしたフルHD解像度のコンテンツを4Kテレビに流したとしても、(3m離れて見たら)やっぱり違いはわからないんだろうなぁ?と思うと、なんだか色々もろもろ可笑しくなり、すべてがどうでも良く思えてきました。

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…なんて結びの言葉を書いてたら、我らが経産省様は5年後に「4K/8K対応」を施策提言、ですって?う〜〜ん。

WRITER PROFILE

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raitank blogが業界で話題になったのも今は昔。現在は横浜・札幌・名古屋を往来する宇宙開発系技術研究所所長。