txt:高信行秀 構成:編集

4K制作が徐々に一般化しつつある現在、4K制作で直面するのが広色域(Rec.2020)そしてHDRだ。いま世の中に出ているNLEでいわゆる「4Kサイズ(3840×2160)」に対応していないものはないだろう。しかし広色域やHDRに関しては少し話は違う。そしてこう思う方がいるかもしれない。「FCPXで広色域?HDR?できるの?」と。もちろんFCPXは広色域、HDRともに対応している。

FCPXは他のNLEに比べてもスマートな環境で広色域/HDRをサポートしている。今回はFCPXでの広色域、そしてHDRに関して見ていこう。

広色域への対応

4K制作にあたりNLE環境に求められるようになったことは、4Kフレームサイズへの対応はもちろん、広色域(Rec.2020)への対応だ。FCPXはVer10.3(2016.10)から広色域に対応している。それもよく考えられた環境が用意されている。

例えば編集する全ての内容が広色域のものであれば、色域が一貫されるので何も気にすることはないのかも知れない。しかし例えばこれまでにHD映像で使用してきたRec.709などの異なる色域の素材が混在する場合は話は別だ。

実は広色域への対応をうたっているNLEでも、このような混在時に問題を起こすものがある。これは簡単に言えばカラーマネジメントの機能を持っていないからだ。酷いものだと、そもそも色域の概念がないものもある。もちろんFCPXではシンプルに整理されたカラーマネジメントの機能を用意している。

■カラーマネジメントによってできること

カラーマネジメントを構成する上で最も基本的な要素は、編集しているタイムラインの色域と、その上に乗る編集素材それぞれの色域だ。これらの異なるものを正しく管理することがカラーマネジメントの役割だ。

例えば、書き出すものの目的がRec.2020の色域のものであれば、タイムラインはRec.2020の色域を設定し編集する。その上でRec.709の色域の素材が編集された場合、カラーマネジメントされている環境では「Rec.2020の環境の中でも、Rec.709の素材がRec.709の環境で見えたものと同じように見える」ようになる。

カラーマネジメントによりそれぞれの色域における表現は守られる

■カラーマネジメントがされていないと

「Rec.2020の環境の中でも、Rec.709の素材がRec.709の環境で見えたものと同じように見える」。何を当たり前のことを言っているのか?と思われる方もいるかもしれないが、これはとても重要なことだ。編集時の色域が変わるからといって、素材が本来の色域時の表現から変わる(=色が変わる)ことは問題だからだ。そしてこれができていないものも多い。

話題は少しそれるが、よく誤解されていることで「Rec.2020とRec.709より広い色域をあつかうのでデータの形式も違う」と勘違いされる方がいるがこれは違う。Rec.709、Rec.2020はあくまでも色域のデータへのマッピングが違うだけで、一般的な10bit、12bit、16bitなどのスケールデータで管理されている。言い換えれば値の物差しが違うだけだ。

そして、色域の識別にはメタデータに含まれる宣言をつかう。逆を言えば、ちゃんと自身が色域の宣言をしなければ、異なる色域にマッピングされて色が変わる可能性もあるのだ。

カラーマネジメントが不十分なNLEの場合

■カラーマネジメントの条件

カラーマネジメントに対応するとはどのような条件をもっていうのであろうか。

まず1つ目は、編集する土台、タイムラインの色域を指定できることだ。これによりフィニッシングする映像の色域を決める。その上で編集する素材がもつ色域をタイムラインの色域に合わせることをする。

2つ目は編集される素材の色域の管理だ。素材となるデータの色域の宣言はメタデータに含まれている。QuickTimeであればnclcであったり、MXFにも格納されるパラメータが用意されている。これを読み取り反映させることが求められる。

メタデータ内にもつ色域情報

また、宣言の情報を持たなかったり間違っていた場合、本来の色域と異なる規格が反映され色が変わってしまう。そこで色域の宣言を変更できることが求められる。

これらの要素をもとに適切な色域変換を通して色を管理し、目的の色域で映像を書き出す。さらに書き出されたものには色域の宣言となる情報を付加する。これらのことができてカラーマネジメントに対応といえるだろう。

カラーマネジメントのワークフロー

■FCPXでの対応

FCPXでのカラーマネジメントでは、プロジェクトそしてフッテージ単位で管理できる。それ故に流動的にマネージメントができる、しかも簡単に。

Rec.2020のプロジェクト上に、Rec.2020、Rec.709の異なる色域のフッテージの混在はもちろん可能で、さらに編集途中でのフッテージの色域指定の変更はもちろんプロジェクトの色域変更など、特に複雑な作業をすることなく設定できる。

FCPXでのカラーマネジメント

続いてHDRに関して見ていこう。

HDRへの対応

4K制作時の選択項目にはRec.2020対応の他にHDRへの対応がある。HDRには代表的な規格にPQ(Perceptual Quantizer)、HLG(Hybrid Log-Gamma)とあり、パッケージやオンラインコンテンツ向けにはPQ、放送用途などのリアルタイム性やSDR機器との互換性を求められるものであればHLGといった選択肢になるだろうか。

HDRの規格内容自体はここではふれないが、HDRを編集で扱うには先に説明した色域と同じようにマネージメントが必要になる。なぜならHDRとSDRの混在などがあり得るからだ。

マネージメントされたHDR編集

HDRにおいても規格を示す宣言があり、色域と同じように映像データ内のメタデータに含まれる。そしてこれらを利用してタイムラインのダイナミックレンジに合わせて変換などをして管理されることが必要だからだ。

■FCPXでの対応

FCPXはVer10.4(2017.10)からHDRに対応しており、PQ、HLGに対応している。そして色域と同じようにスマートなマネジメントが用意されておりSDRを含めての混在も容易だ。

ダイナミックスのマネジメント

HDRでの編集をするにはプロジェクトを目的のHDR設定に変更するだけだ。そしてフッテージは色域と同様にダイナミックレンジの宣言の反映はもちろん、個々に設定が変更ができる。さらに規格の変換や調整のエフェクトも用意されている。

プロジェクト/フッテージのHDR設定/HDRツール(エフェクト)

その他の目に見える(見えるべき)変化は、ビデオスコープでのRGBパレードがHDR基準の表示になること、そしてビューアの表示だ。

ビューアの表示に関しては、ご存知の通りmacOSのGUI表示はHDRに対応していない。つまりGUI上ではHDRの内容は再現されない。そこでFCPXでは2つの表示モードを用意しており、輝度階調が再現できる範囲(SDR範囲)までを正しく表示するモード(デフォルト)と全ての階調が表示できる(結果的にLog素材のようにコントラストが低いように表示される)モードを用意している。基本的にはデフォルトの表示を使うことになるが、外部モニターに出力されたHDR映像が見れない場合、後者のモード使ってハイライト部のデータ保持状況を確認できる。

HDRをRaw値で表示

操作に関しては良い意味で特に変わることはない。調整のために1つ1つのクリップにHDR指定の設定をしたり、HDRになったからといって途端にカラーホイールの動きが変わったりもしない。これまでのSDRでの操作感と同じだ。

外部HDRモニターへの出力は対応しているビデオインターフェースで可能だ。現在(2018.12)のところ確認できているものはAJA社の対応インターフェースのみだ。Blackmagic Design社のインターフェースでのFCPXを使ったHDR出力対応はできてない(2018.12)。モデルにもよるがハードウェア自体はHDR出力への対応をしている(DaVinci Resolveでは対応)ので残念だ。

■FCPXでのYouTubeへの4K HDRのアップロード

FCPXではダイレクトにYouTubeにアップロードする機能がある。これを使えば4K映像も簡単にアップロードできる。ただし、HDRになると少し事情が変わってくる。標準で用意されている設定ではHDRで制作してもYouTube側でHDRとして認識されない。これは標準の設定で書き出されたH.264はYouTube側でHDRのデータとみなす基準を満たしていないからだ。

そこでYouTubeへHDRコンテンツをアップロードするには、HDR設定されたプロジェクトからProRes形式でファイルを書き出し、Webブラウザ経由でYouTubeへアップロードすることで対応できる。意外と知られていないことだが、YouTubeはProRes形式でのアップロードにも対応している。4K HDR(10bit or 12bit)形式のデータは大きなデータ量になるが、YouTube側は受け入れてくれる。この辺りはYouTubeのドキュメントを参考にされたい。

ハイダイナミックレンジ(HDR)動画をアップロードする(YouTube)

アップロードサイズの上限(YouTube)

YouTubeで4K HDRを視聴するには当たり前だが、対応した再生環境が必要だ。4K HDR再生に対応した民生テレビの機能を利用したり、Chromecast Ultra、HDRに対応したグラフィクボードとモニターを使用したWindows10でのChromeを使用しての再生などだ。ちなみにHDRに対応したiOS端末、Apple TV 4KでもHDRでの視聴は可能だがVP9対立問題から再生は2Kまでだ。

macOSにおいてのYouTubeの再生は正直なところ残念な状況だ。4Kでの再生に関してはSafari以外のブラウザにより再生が可能。しかし、HDRに関しては先にも書いた通りmacOS自体がGUI上でのHDR表示ができないため不可能だ。潔く他の視聴方法を利用した方が賢明だ。

まとめ

今回はFCPXでの広色域とHDRについてとりあげてみた。内容をご覧いただき、こう思われている方も多いのではないかと思う。

「4KはいいけどHDRを利用する機会がないし、撮影する機材もモニターもないから関係がない」

本当にそうなのだろうか。まず「HDRで撮影する機材を持っていない」と思われる方もいるだろうが、読者の方の多くは何らかの形式のLog方式で撮影するカメラを持たれているだろう。それらのカメラは従来のビデオレンジ(SDR)を超えたダイナミックレンジを撮れるものだ。画質的には不利だがiOS端末でFiLMiC Proを利用したLog撮影も該当する。

こんな風に思ったことはないだろか、せっかくLogを使って広いダイナミックレンジで撮影したものを何故メーカーなどが提供するLUTを使ってRec.709の規格に押し込めているのかと(もちろん、SDR制作のビデオ業務では信号管理は当たり前の発想だが)。

そう、HDRを使うことでそれらのカメラの本来持つ性能が発揮できるのだ。撮影する機材があり、編集するアプリ(FCPX等)がある。さらに信号を出力するボードもある。決して無縁な事柄ではないのだ。

そして「HDRを利用する機会がない」という意見、これは他の言葉に言い換えれば「HDR再生環境が自他共にない」というのが実際の意見だろう。これらに関しては、モニターならば業務用のレファレンスモニターというのはもちろんだし、民生のテレビでもHDMIを使ったHDR映像の再生が可能だ。しかし皆さんが最も気にされるのは「作成したコンテンツをどう再生させる」かだろう。これに関しては様々な機器はあるが、最も手軽なところではYouTubeを利用してのものだろう。

YouTubeではHDRで再生できる端末ではHDRで、そうでない端末ではSDR(自動変換)で再生される。テレビ自体の機能はもちろん、Apple TV 4K(ただしVP9問題から2K HDR)、Chromecast Ultra、HDR環境が整ったWindow10で視聴するなど方法は色々ある。さらにHDRに対応したiOS端末からもHDRは見ることができる。HDRはすでに簡単に公開し、視聴できるものになっているのだ。

4K HDRをYouTubeで利用することはYouTuberの方にとっては即戦力であろうし、オフラインでのプロダクション業務でこれから4K HDRに取り込む予定がある方にとっても「非公開」や「限定公開」を利用することで良い実験室になるはずだ。

今回、書かせていただいた内容は決してハードルの高いものではない。FCPXを通して4K HDRの世界に踏み込んでみるのも良いのではないかと思う。

WRITER PROFILE

高信行秀

ターミガンデザインズ代表。トレーニングや技術解説、マニュアルなどのドキュメント作成など、テクニカルに関しての裏方を務める。