IFA2012が8月31日から9月5日までドイツのベルリンで開催されたので参加してみた。IFAはいわばヨーロッパ圏最大の家電ショーだ。簡単に言えば、PRONEWSでも取り上げるCESと同じ展示会だと思っていただきたい。まずは全体の印象から述べると、傾向が分散して全体のトレンドが掴みにくい感がある。例えばテレビに関してはこれまで大型薄画面、HD、3D、最近では4Kなど各社の動向を表すキーワードが集約できたと思うのであるが、今年は各社共通の明確な傾向が見当たらない。このあたりはIFAがコンシューマー向けであるという点もあると思うが、昨年の状況やCESからの流れで考えれば4Kが主流にはなっていてもおかしくないのだがそうはなっていない。

また有機ELディスプレイ(OLED)も韓国メーカーだけが主役に据えていているのだが、日本メーカーは展示自体がない。カメラについてはあくまでもコンシューマーレベルの話だが、いわゆるエクストリーム系カメラが目立つ。

スマートフォンやタブレットについては、単独の機能追加というよりはテレビとどう連携させるかが焦点の一つになってきているといえる。それでは各社ごとに内容を紹介していこう。

Sony | タブレットPCから 4KTVまで

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ソニーブースは上部に超高輝度プロジェクターを36台をズラリ円形に配置して360度全周映像でブースを盛り上げていた。ソニーは各機器トータルでの提案はともかく、今年は個別の製品が面白い。まずスマートフォンXperia Tがテレビとの連携強化で興味深い。

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特に「Screen Mirroring」という機能を使ってスマートフォンの画面をWiFi経由でフルHDミラーリングできる。ベースとなる規格はWHDIだ。テレビ側には別売のアダブターをHDMI端子に接続し、Xperia側には専用アプリをダウンロードする。これによってスマホがそのままスマートTVになるいうことが実現できる。家族のいる前でメールやSNSをするとは思わないが、スマートフォンの画面のUIや情報量とテレビのそれは案外親和性が高く、テレビパソコンよりははるかに使いやすい。Screen Mirroringは11月から提供開始予定だ。明言は得られなかったが、ソニー製以外のテレビでも利用できるものと思われる。

またPCというかタブレットというか、VAIO DUO 11はWindows8搭載のタブレットPCである。タブレット状態からスライド&チルトでディスプレイが立ち上がり、キーボードが登場する。個人的に使った感想は、機構的に正直壊れそうで使用中に不安を感じてしまう。出てくるキーボードも決して打ちやすいとは言えない。重さもおよそ1.3kgとタブレットとしてみれば重いと言わざるを得ないので微妙な位置づけの商品と感じた。

20インチのタブレット、VAIO Tap 20。あちこち持ち運びができる重さではない

一方面白かったのがVAIO Tap 20だ。Windows8搭載で、画面は20インチ。通常の自立はもちろんだが、水平平置きまで可能なのだ。10点同時タッチに対応しているので、複数人が同時に操作することが可能。以前のMS Surface現在のMS PixelSenseのホームエディションといったところだろうか。

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こうすればデスクトップのタッチPCになるが…

このディスプレイ平置きの複数人による「車座型利用」というのは、平面型のディスプレイを共有するのとでは感覚的にまるで異なるところが興味深い。その場にいる人との会話が「ディスプレイを介して」ではなく、人と直接話している感覚といえばいいだろうか、人と目線が合いやすいのだ。こうしたディスプレイと人間の関係性はアプリケーションと利用シーン次第で期待できるのではないかと感じた。

ソニーの84インチ4Kディスプレイ

さて84インチ4Kモニターであるが、なかなか完成度は高いものの価格は250万円程度のようということだ。50インチのフルHDテレビが20万円を切っても売れない状況で、どういうマーケティングやコンテンツ開発をしていくのか注目したい。なおCESで圧倒的な高画質を見せつけたクリスタルLEDディスプレイは展示自体がなかった。

SHARP | IGZOディスプレイの真価はいかに?

IGZOは技術展示に終始して製品が見えてこない

何かと話題のシャープ。IGZOディスプレイは非常に美しく高精細だ。特に31,3インチの4K中型ディスプレイはこのサイズであるからということもあるのだが、まさに人間の認識限界値に近づいている。IGZOの低消費電力を表す展示もあるのだが、IGZOの展示はどちらかと言うと技術展示の印象が強い。一部に自社製タブレットのモックがあるだけで、製品展示や利用シーンを積極的にアピールしてもらいたいところだ。

IFA2012_DSC_7664.JPG>31.3インチ4Kの映像はこれ以上細かくてももう見えない領域だ

なお前述の31.3インチパネルはパネルのみの提供をするようである。このあたりがシャープが部品メーカーになってしまうのか、最終商品を出していくのか、展示と技術と製品に関する戦略がまとまっていない状況が見て取れてしまう。またICC技術を使ったディスプレイの展示がシアター形式の閉じた空間で従来のフルHDとの比較で行われていた。残念ながらこれが昨年と比較してあまり進化を感じなかったので今後に期待したい。

全体的に他社と比較するとブースデザインは黒を基調とした地味目で、数年前と比較してこうも変わってしまうのかという感は否めない。こういう時だからこそ勢いを感じさせて欲しかったところだ。

SAMSUNG | 勢いが止まらないサムスンの展示

大量のディスプレイとLED照明が連動したサムスンブース

続いてサムスンブース。相変わらずの巨大な広さには圧倒される。展示内容はと言うとさほど目新しい提案があるわけではない。しかし勢いというのは重要なことで、サムスンのブースはいつも活気に満ちている。

4Kは昨年と変わらず。参考出品とのことで製品化は未定

70インチ4Kディスプレイも展示していたが昨年とレベルも変わらず。さほどの画質は正直出ていない。OLEDはCESとほとんど変わらずで、CG中心のデモ映像だったので判断が難しいところだが、発色にまだまだ作為的というか人工的なものを感じてしまう。量販店の店頭で一般コンシューマーがこういう色味を好むだろうことは容易に想像できる。

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さてこちらはサムスンのAndroidデジタルカメラ、GALAXY Cameraだ。スマートフォンにカメラがついているのではなく、デジタルカメラにAndroidが乗ってるというわけなのだが、これがなんともまたカメラとしては使いにくい。カメラにAndroidOSをむき出しのままに搭載してきても余計なものが多すぎるのだ。OSを感じさせないように出来れば話は変わるのかもしれないし、高機能カメラ付きのスマートフォンとしての割り切りもあるのだろうか(実際電話として通話できる機能もある)。

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良くも悪くもAndroidがそのままむき出しにされていたりする

LG | 自然な発色が売りのOLED。今更感が否めない3D

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画質が向上したLGの55インチOLED。写真では分からないが2D表示で実写を再生した場合のクオリティがかなり向上

LGはCESとほぼ同じブース構成。その中でOLEDがCESの時と比べるとかなり画質が向上したのには注目したい。サムスンに比べるとかなり自然な発色になっていただ。CGではない実写映像を見てもギラギラ感もかなり緩和されている。LGブース全体はほとんどのディスプレイが3Dの映像表示していたが、やはり今更感が否めない。

エクストリーム・カメラ 百花撩乱

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ソニーからも登場。アタッチメントも順次発売するとしてる

GoProが市場を切り拓いた系カメラであるが、JVC、ソニー、easypix、Rolleiなどから続々登場で、本家のGoProは出展はなし。こうしたカメラはアタッチメント系の充実度合いがポイントの1つだが、この点ではまだまだGoProの圧勝といえる。そんな中でRolleiは複数機種の展開にはなるが、様々なシーンで利用できる構成になっている。Rolleiは1920年創業のドイツの老舗カメラメーカーである。

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RolleiはGoProにそっくり

こうしたカメラは映像のプロも使うようになってきてはいるが、やはりエクストリーム系のスポーツをやる人々に訴求できていないと商品としては失格だと思う。アメリカ国内ではサーフショップやスポーツショップで見かけることのほうが多く、そういうマーケティング展開がJVCやソニーにできるかどうかだ。

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同じくRolleiのバイクや自転車に特化したタイプ

突然現れたドコモのロゴ…!?

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会場内で突然現れたドコモのロゴ。なんだろうと思えば3Dモデリングのデモであった。日本からではなくDoCoMo Euro Labからの出展で、現時点ではモバイルアプリではない。これは通常の2次元写真から顔の特徴量抽出を行い、パソコン画面上で極めて簡単に笑顔や怒った顔を作り出せるというもの。テキスト読み上げと連動させることも可能で、将来的には文章から感情を紐付けて、描画に繋げたい考えとのこと。また1000人分の顔の前後左右のサンプリング写真によって、写真に写っていない横顔などもある程度描画させることもできるそうだ。すぐに商用化出来るサービスではないのだが、クラウド上でドコモの同時通訳コンシェルジュサービスあたりと組み合わせるなどを考えているそうだ。

また個人的に期待していた「スティック型STB」だが、発見することができなかった。この種のハードとアプリを組み合わせて新しいサービスが登場するのを期待したい。

IFAはCES以上にデジタルだけとは限らない家電ショーで、白物やミシンなどまで展示内容は非常に広範囲だ。また会期は週末を含むので、老夫婦が遊びに来たり、社会見学っぽい学生も非常に多く、来場者数はCESの14万をはるかに超える24万人クラスである。展示スタイルやデザインも日本やアメリカとはまた異なる美しさがあるので、ぜひとも足を運ばれることをおすすめする。とにかく見ていて飽きない楽しいコンベンションだ。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。