広大な敷地に広がる数多くのサイネージ

12月20日にグランドオープンした、イオンモール幕張新都心に出かけてみた。広大な敷地に広がる施設にはイオンが自ら運用するデジタルサイネージと、各テナントが独自に設置したものも含めて、膨大な数のディスプレイがある。その中で今回取り上げてみたいのが「よしもとお笑い店員スマホ接客中」というサービスである。デジタルサイネージとスマホアプリとの連携という、大きく期待されている分野の取り組みである。どんなサービスなのかを順を追って説明してみよう。

「よしもとお笑い店員スマホ接客中」は、店内のデジタルサイネージから、人間の耳には聞こえない可聴域外の音を発生させ、それをアプリで認識させて何かを起こすという仕組みである。

1:当該デジタルサイネージを発見する

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2:何か面白そうだと認識する

3:「AEONサウンドキャッチアプリ」をダウンロードして起動する

4:サイネージ端末から可聴域外の音が出るタイミングまで待つ(今のコンテンツ構成では最大で60秒位)

5:そのタイミングでアプリを操作する

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6:10秒ほどで電話の着信のような画面になり、応答ボタンを押すと吉本興業の芸人動画が表示

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7:動画の内容は具体的な商品をセールスするのではなく、来店に感謝する内容を面白おかしく伝えてくれる

8:終了すると芸人の写真をプレゼント

6の電話着信のような画面は、実際にはストリーミングの動画のようです。残念なことに、サイネージ端末に近づいたら自動で何かが起きるわけではありません。サイネージで気がついて、アプリを起動して、さらに可聴域外の音をわざわざ利用者が拾わなければなりません。

これだけのタスクを要求した結果、得られるベネフィットがごく普通のおもしろ動画というのは、一般的には受け入れられないでしょう。そもそも可聴域外の音をトリガーに何かを起こすということは、無意識のうちに、何の操作もすることなく何かが起きないと意味がありません。これだけのことを利用者側に操作させるのなら、最初から可聴域外の音を使う必要はゼロなわけで、素直に画面をタッチさせたほうが遥かにシンプルです。サービス名称にある「接客中」というのも名ばかりで機能しておらず残念です。

サイネージとスマホの関係性

ここで考えなければいけないのは、サイネージとスマホの関係性です。このケースはトリガーがサイネージ側にあります。それ自体に問題があるとは思いませんが、サイネージで気づきが起きないと何も起きません。しかし、この例のように可聴域外の音を使うということは、それ自体がトリガーになるべきで、かつ耳に聞こえない音というのを利用する最大の目的は、騒音対策ではなくて無意識にあるはずです。ここを設計ミスしていると思います。音を使う場合には、スマホが勝手に自動認識してくれなければならないわけで、アプリを常駐させる必要があります。ここはバッテリー問題に直面することになり課題だと思います。

またスマホに電話がかかってくるという演出も残念ながらこの流れでは企画倒れです。時間差で動画がストリーミングされてくるとか、時にはサプライズで本当に電話がかかってこないとワクワクしません。せっかく吉本興業の芸人さんを起用できるのであれば、スマホアプリ側がスタートになるべきで、仕組みとしてはおそらくGPSがトリガーになるのでしょう。イオンに来たらスマホがブルブルして、わざわざサイネージ端末まで足を運ばせ(吉本なら可能でしょう)芸人さんが面白いことをしてくれて、かつ利用者のメリットになることが提供される。こういった設計が欠けているのが残念です。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。