Digital Signage EXPO 2014(DSE)が今年もラスベガスで2月11日から13日(現地時間)で開催中だ。DSEは世界最大規模のデジタルサイネージの展示会である。今年は一見すると今までと変わりがなく、あまり目新しさがないように見えるのだが、実は注目するべき新たな展開があったのでレポートしたい。

GoogleがChromeboxでデジタルサイネージに参入

DSE2014_05816.jpg

Chromeboxを利用したデジタルサイネージのデモは、インテルのパビリオンブースの中で行われた

一つめの注目ポイントは、GoogleがChromeboxを使ったデジタルサイネージに参入することを発表したことだ。Chromeboxは日本ではまだ馴染みのないChrome OSで動作するSTBである。会場ではASUS製のChromeboxで一般的な片方向のサイネージと、タッチパネルによるKIOSKのデモを行った。CMSはHTML5のWEBベースである。

ASUS製のChromeboxは179ドル

ASUSのChromeboxは179ドルで、サイネージのためのCMSは年間で1ボックス165ドルである。今後はデルとHPからも発売される。また説明員によると、近日中に発表されるHDMI端子がついたスティックタイプSTBである「Chromecast」の次期バージョンにも対応するという。

DSE2014_05814.jpg

CMS画面。年間利用料は165ドル

ChromeはPCとテレビにすでに対応しており、今回のサイネージ対応によって異なるシーンにおける、様々なデバイスに対応できる環境が構築可能。このことは非常に大きな意味を持っている。既存のサイネージ単独のシステムにとってはインパクトがかなりあると思われる。

LGはwebOSでマルチスクリーンに対応

DSE2014_05850.jpg

webOS for Signageのデモ

もう一つは、LGがCESで発表したwebOSを搭載したテレビで動作する「webOS for Signage」を展示したことだ。webOS搭載テレビ上でサイネージアプリを動かすことで、外部のメディアプレヤー機器が不要になる。一般的なサイネージの利用シーンでは必要十分な機能を持っている。webOSはもともとPDAであるPalm用に開発された軽いOSであり、HPが引き取ってwebOSとしてオープンソース化していたもの。これをスマートテレビにLGが導入し、サクサク動くスマートテレビとして注目されていた。

DSE2014_05852.jpg

webOS for Signageの特徴紹介

HTML5とCSS、JavaScriptでHTML5ベースのアプリを作成すると、デジタルサイネージ、Android、iOSなどの機器に対してもコンテンツ配信が可能になる。SDKも公開されるので、様々なアプリを作成してサイネージだけではないマルチスクリーン対応の映像によるミュニケーションが可能になる。

ChromeboxもwebOSも、これからますますデジタルサイネージが汎用的なものになり、マルチスクリーンに対応できるようになる方向性を示したものだ。デジタルサイネージを単体だけで利用する時代はまもなく終わりになるかもしれない。

4Kディスプレイは思ったほど出ていない

サイネージの4K化の進展状況もレポートしたい。ディスプレイ系ではLGとサムスンがCESと同様の展示を行ったが、明確に業務用をうたった製品はなかった。また日本のメーカーはマルチ画面を除いて、4K以上の解像度を展示やアピールしている会社はなかった。

■LG
DSE2014_05830.jpg

左から98インチ、105インチ21:9湾曲、105インチフラットパネルは全て4K。ブース入り口に設置

LGはCESで出品した98インチ、105インチ21:9の湾曲とフラットパネルの4Kディスプレイを展示した。これら製品は98インチを除いてカテゴリー的には業務用ではない。画質はいうまでもなくこれまでのHDサイネージをはるかに凌駕している。湾曲ディスプレイがサイネージにおいてアドバンテージがあるわけではないと思われる。

■サムスン
DSE2014_05823.jpg

85インチ4Kディスプレイ

サムスンは85インチの4Kディスプレイを展示。LGと比較すると4Kシフトが鮮明ではないのが特徴だった。

■PLANNER
DSE2014_05888.jpg

こちらは平置きのデモ

PLANNERは85インチの4K、32点タッチパネルディスプレイを壁掛けと平置きで展示。どちらも反応速度が非常に速い。

■CHRISTIE
CHRISTIEの84インチ4K

CHRISTIEは84インチの4Kディスプレイを出展。さすがにとても上品かつ高画質な映像だ。


4Kプレイヤー関連

現時点でサイネージを4K化する際の課題は、実はプレイヤーである。多くはPCに高性能のグラフィックボードを挿すか、REDの4Kプレイヤー「REDRAY」を利用するケースが多い。今回は2社から4Kプレイヤーの展示があった。

■Brightsign
DSE2014_05898.jpg

Brightsignの4Kプレイヤーのデモ

Brightsignの4KプレイヤーはH.265、4K60p、HDMI2.0に対応している。画質に関してはデモに使われているコンテンツが評価には向かないものであることと、表示ディスプレイが安価なもののために評価ができない。

DSE2014_05900.jpg

本体はお馴染みの青色

■AXIOMTEK
DSE2014_05811.jpg

AXIOTEKの4Kプレイヤー

台湾のAXIOMTEKも4K対応プレイヤーを展示。こちらは4K30pに対応。

■パナソニック
DSE2014_05766.jpg

パナソニックのトランスコーダーLSI PH1-Pro4搭載のサンプルボード

4Kプレイヤー用のトランスコーダーLSI「ProXstream PH1-Pro4」とボードを出展。同LSIは日本未発売のソニーの4Kプレイヤー「FMP-X1」にも搭載されているということで実績もある。デモでは試作ボードに実装させて4K30pを表示させていた。このLSI自体は以前からあるものだが、今回はデジタルサイネージ市場での4Kニーズの高まりを受けての出展のようだ。

DSE2014_05762.jpg

WiGigを使って動画コンテンツをKIOSKから高速ダウンロード。KIOSKから端末の上に付いているのがUSB接続の通信ユニット。スマートフォン側は本体裏側にある

またパナソニックは、新世代の高速Wi-Fi規格であるWiGig(802.11ad)を利用した高速ファイル伝送のデモを行った。WiGigは60GHz帯を利用して最大6Gでの伝送が可能とされるが、伝送距離が現時点では10mと制約がある。デモではKIOSK端末で映画などのコンテンツを購入し、手元のスマートフォンにWiGig経由でダウンロードをさせた。

総括

DSEは昨年くらいから完全にサイネージ機器展になっている。前回まではNABやCESと同じラスベガスコンベンションセンター(LVCC)のホールの一部を使って開催していたが、今回からSANDSに移動した。出展規模に大きな変化はない。ChromeやwebOSがサイネージに利用されることで、これまでのような業務用の映像配信システムからクラウドの構成要素であり、デジタルマーケティングコミュニケーションの一部となる方向性に向かうのであろう。デジタルサイネージは大きな転換期を迎えることになるに違いない。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。