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イオン幕張新都心店の透明LCDを搭載した冷蔵庫
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4年ぶりのソウル。当時、ソウルは、デジタルサイネージが世界一進んでいると言ってもいい状態であったが、その後はどうなっているのか。新しい試みと、当時話題になった事例がその後どうなっているのか、ソウルのデジタルサイネージ最新事情をレポートする。

今回一番目についたのは透明液晶ディスプレイである。Digital Signage EXPOなどの展示会ではよく目にするのだが、日本国内ではいまのところイオン幕張新都心店の冷蔵庫にあるものくらいしか導入事例はない。写真のように透明度も発色もいまひとつだ。


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コルトンボックスの表面に透明液晶が設置されているのがわかる

ソウルの地下鉄のホームやコンコースにあるのが透明LCDを4面組み合わせたものだ。もともとコルトンボックス形式の広告スペースの表面に透明LCDを設置したもののようで、背面が蛍光灯と思われる内照灯で明るく光っている。全体の輝度も良好だ。発色も自然で、正直に言うと最初は透明LCDであることに気が付かなかった。

「WikiTree」という、韓国でメジャーなSNSニュースサービスへリンクするためのQRコードが貼られ、NFCもある。実際にアクセスしてもサイトに飛ぶだけで、現時点では特に連動はしていないようだ。

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輝度も解像度も発色もまずまずだ

現在はテスト運用中のようであるが、現在表示されているコンテンツは透明LCDの特性を活かしたものではない。透明LCDは向こう側が透けて見えるのが特徴であるので、このボックス状の中に何かリアルなモノがあり、それと映像を重ね合わせて見ることで効果を増し、インパクトを与えることができるものだ。ただし、映像は何パターンも変えて表示できるが、リアルなモノはすぐに変えることはできない。イオンの冷蔵庫のように、特定商品の販促で利用する場合はいいが、このソウルの設置例の場合は、1社買い切りで同じモノに重ねあわせられる映像をパターン化することになるのだろうが、それでビジネスとして成立するのかも気になるところだ。

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地下鉄のホームドア横に設置された事例。この場所の視認性は非常に高い

こちらは地下鉄のホームドア部分に設置された事例。ソウルの地下鉄はほとんどの駅にホームドアが設置されており、かつ、それは天井までつながって、ガラスで覆われている。東京メトロの南北線と同じタイプである。そのためにドアとドアの間のスペースが広告媒体になっていて、その一部がデジタルサイネージ化されている。今回見たものはLGの65インチディスプレイが設置されている。この場所の視認性は極めて高く、多くの人が電車を待つ間の時間にディスプレイを眺めていた。

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フラットデザインに変更されたメディアポール

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車道側から見たメディアポール

ソウルのデジタルサイネージといえば、カンナムにある「メディアポール」が有名なのでご存じの方も多いだろう。メディアポールは2009年にカンナムの交差点から南北に伸びる通りに、全部で22基の殿長のようにそびえ立ち、設置されている。歩道面の下部はタッチパネルになっていて様々な情報を得ることができ、上部は超縦長に配列されたディスプレイによる広告媒体である。車道側はビデオアート的な作品が表示されている。2009年春の設置当初は非常に注目を集め、筆者も設置後すぐに現地に行ってみたが、確かに多くの人が操作しているのが印象的であった。その後2010年にも再度訪れたが、この時はだいぶ利用者も減っているのが気になっていた。

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ロードしたまま動かないものが続出

そして今回、メディアポールのあるカンナムを再訪したわけだが、ディスプレイとソフトウェアが新しくなっていた。GUIはフラットデザインに変更されている。早速操作してみようとすると、タッチパネルが反応しない。全部で22基もあるので次に移動すると、今度はカメラを起動してみるとロードしたままで動かなくなってしまった。以降次から次へと移動して試したところが、どれも何らかの動作不良が続いて、11本目まで行ってもまともに動かないのでさすがに諦めた。たまたまそうだったのかもしれないが、非常に残念な結果であった。

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設置場所は地下鉄のホームドア横

同じくカンナムの地下には、昨年秋に新設された大規模なデジタルサイネージがある。カンナム駅の地下鉄2号線と新盆唐(シンブンダン)線の間の地下通路部分の長い通路に、37本の柱にディスプレイを縦設置で各4面、合計148面が設置されている。ディスプレイは46インチとタッチパネルは60インチのものがあり、3つのエリアに分けて利用されている。タッチパネルタイプのものは写真撮影してメール送信が可能だ。駅におけるこうした設置スタイルは日本のJ・ADビジョンなどと同じで、駅の柱のスタンダードと言っても良いだろう。

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「KORAILのバナー型のタッチパネルサイネージ」

新しいタイプの駅サイネージとしては韓国の国鉄にあたるKORAILが導入した事例はユニークである。タッチパネル式であるが、やはり縦設置のディスプレイの上部には16:9の動画が流れ、その下部には5つのバナーが並んでいる。それぞれをタッチすると、WEBと同様にそれぞれのクライアントが用意したWEBページに遷移するのである。まさにWEBバナーと同じ構造である。このように駅に設置した場合に、どれくらいタッチされるものなのか興味深い事例である。デジタルではない屋外広告では、これに似たバナーはいくらでもあったわけで、そういう点では媒体として成立するものだろうか。筐体自体のサイドが青く光っているのも珍しい。

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販売商品はこちら。だいたいキオスクに近いが、洗剤類なども販売されている

2011年のカンヌライオンズで韓国初のグランプリを獲った「ホームプラス」の地下鉄でのバーチャルショップも遅ればせながら見てきた。仕組みは簡単で、駅に設置されたパネル(デジタルではない)に商品とQRコードまたはバーコードが書かれており、スマホの専用アプリで読み取ると価格がわかり、購入することができる。配送は超特急というわけでもないようで、通常の宅配便と同じようだ。

韓国での報道によると、一日平均6万2000人が利用し、2013年1~7月までの売上高は193億ウォンで、前年同期比200%だという(出典:biznmedia.com)。しかしながら、今回設置場所である2箇所とも見てきたが、筆者が見ている間に購入しようとした人は皆無であった。この数字は正直疑わしいとしても、こうした物販とデジタルサイネージについてこの事例はいろいろ示唆に富んでいる。

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こちらの設置場所は地下鉄の改札外の通路

アプリ画面。カップ麺は700ウォン=約66円で聞いてみると安いのだそうだ

まずは設置場所の問題。どこに設置したら買いやすくなるのか、同時にどういう商品ならこういった販売スタイルがふさわしいのかだ。今回見た事例では、扱い商品はバラエティに富んでいて、なかにはポータブルガスコンロなどというものもあって、どういう視点で販売商品が選ばれているのか、首を傾げたくなるものもあった。

仮に購買欲求と上手くマッチングしたとして、次の課題は価格表示がなく、アプリで確認したいとわからない点だ。表示がディスプレイであれば価格変動も含めて表示を変えることができるが、現状では印刷されたパネルである。横にはプロモーション用のビデオが流されていたが、画面上にパネルと同じ映像が表示されてもディスプレイ解像度がHDで、表示されるコードが小さ過ぎるのか、スマホのカメラでコードを判別して読み取ることができなかった。


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プロモーション用の動画サイネージ

このサービスは価格を全面に打ち出しているわけではない。もちろん、最初からここが最安ということがわかっているのであれば話は別である。そして商品受け取りは自宅への配送である。すごく急いでいるような場合には適さない。

ホームプラスのこのモデルそのままでは、ビジネスとして日本で成立するとは思えないが、いくつかのポイントをきちんと整理していけば、可能性がなくはないと思われる。少なくとも価格がはっきりしていることは必要だろうし、コード類を読みこませるのであれば、ディスプレイの解像度は4Kが必須ではないだろうか。

自販機大国の日本であるので、場所と商品を検討すれば、究極の無店舗販売となり得る。ネットショッピングと異なり、もともとは購入の意思がない人に気づきを与えることができるかどうかである。楽天あたりなら十分可能な気がする。

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もう一箇所の販売商品

4年ぶりにソウルを訪れて、ソウルのデジタルサイネージは最先端とは言えないまでも、面白い試みがとても多い。透明LCDを積極的に導入しており、バーチャルストアにも果敢に挑戦している。なんといっても近くて食べ物もおいしいのだから、数年おきに定点観測的に足を運ぶ必要があるだろう。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。