さて、今回からプチシネ制作の為の基本テクニックやアイデアを紹介していこうと思う。仮にも「PRONEWS」と名付けられた所で書くにはいささかはばかれるような基礎的な事も書こうと思っているが、これは初心者の為だけの物ではなく、別の分野のプロが撮影や音の事にも手を広げていくための物でもあるのでお付き合い願いたい。

まずは基本の基本を考える

【静止画と動画の違い】

高まるデジタル一眼ムービーの流行によって、動画の作品を作ってみようというスチルカメラマンも多いと思う。動画とは言っても基本的には静止画の連続、高速パラパラ漫画だとも言えるので、カメラやレンズの事を知り尽くしたスチルカメラマンにとっても得意な分野であるはずなんだが、実はそこに落とし穴がある。いろんな意味で「動き」に対する考え方はスチルとムービーとでは大きく変えなければいけない。逆に静止画を撮る為に作られているデジタル一眼で動画を撮ろうとするビデオカメラマンにも注意が必要だ。この際これから何回かに分けて「動きを撮る」為に、また、「カメラを動かす」為に必要な注意点をじっくり解説していこうと思う。

【フレームレートとは】

初めに被写体の動きをどう捉えるか、カメラを固定した条件で動画の基本を学んでほしい。中でもフレームレートとシャッタースピードとの関係は動きを捉える上でとても重要で、特にスチルカメラとは大きく概念を変えなくてはいけないポイントなので、解っているつもりの人ももう一度確認しておいてほしい。まずフレームレート。簡単にいうと視聴者に一秒間、何枚の絵を見せるかということなんだが、これは単純に数が多いほど動きは滑らかになると理解して間違いない。ただし、滑らかであればあるほどいいかというと、そこは個人の主観によって変わってくるのだ。例えば昔ながらのフィルムにならった24フレームはテレビで使われている30フレームに比べると実際には早い動きはパタパタとちらつきやすい。だがそれも含めて映画っぽい高級感、フィルムっぽい質感があると好んで使う人が多くいる。

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業務用であればカメラにも編集ソフトにもフレームレートやシャッタースピードの細かい設定項目がある。(メーカーで多少表記に違いはあるが)よく理解して思い通り撮ってほしい。


プログレッシブかインターレースか?それが問題だ

また、映画館等の上映の為にフィルムに焼き付ける必要がある場合もフィルムと同じ24フレームで撮る。だが最も一般的に見慣れているのは30フレームだろう。この30フレームにも幾つかの種類がある。まずは1秒に30枚の絵を上から順番に描画していくプログレッシブ方式(30p)、もう一つは一枚の絵を1/60秒ずつ櫛状に分けて表示していくインターレース方式(60i)で、これも1/30秒に一枚の絵を完成させるという意味では30フレームと考えていい。これは一般的なテレビの方式で動きが一番スムーズに見てもらえる方式と言える反面、1フレームだけ抜き出すと1/60秒ずれた横縞模様のような物が見える事がある。この他にも細かいチェックや横ストライプの衣装がちらついたり、細かい文字や明朝体の文字の描画も苦手なので注意が必要だ。そういった意味で細かい文字を扱う事の多いコンピューターのディスプレイはプログレッシブ方式を採用している。

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インターレースから抜き取った1フレーム。動いている物は1/60秒ずつ二つの画像が櫛状に映り込んでいる。一見とんでもない絵に見えるが、連続して動画として再生した時にはスムーズな動きに見える。


同じように見えてもこの差は大きい

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インターレースで小さい文字を縦にスクロールさせた時の1フレーム。明朝体は横の線が細い為、読みにくくなる。タイミングによっては「。」の位置がとんでもない事になっている。ゴシック体の方がいくらかマシだ。

さらに目的に合わせて撮影の時にも編集の時にも注意と研究が必要だ。いずれにしても1秒間に30枚という早さはテレビが誕生したときの電気的能力によって決められた物で、今回のハイビジョン化でもそれが変わる事はなかった。最新のテレビに1秒60フレームなんていうのも出てきてはいるが、どういう方式を使っているのかは各社バラバラでよく解らない。実際は60フレームで送出している局もなければ、記録しているDVDもまだないので、やはり基本は30フレームだと思って間違いない。

だが撮影時には少々事情が違っていて、最近では民生用のカメラでも60フレームで撮れる物が出てきている。しかし最終的には30フレームで再生する事は変えられないのでこれはスロー再生の時にスムーズな動きを再現する為の物だと考えて間違いないだろう。仮に半分の速度で再生すると30フレームの場合、同じ絵が2枚ずつ続く事になるが、60フレームで撮っておけば全てのフレームでスムーズな動きを描写できる事になる。これは特にPVやCMですごい威力を発揮する。

プロを目指すための奥深いポイントとは?

この他にもテレビの放送に於いては時間の管理が正確に行われなければいけないので、ドロップフレームや29.97/秒フレームが採用され、インターネットや携帯のストリーミングに於いては回線や再生機器の能力に合わせて15フレームや10フレームにレートを落とさなければいけなかったりする。プロを目指す人はもっとしっかり押さえておかなくてはいけない奥の深いポイントだ。

様々な要素を考えるとフレームに合わせた最も合理的なシャッタースピードは、60iなら1/60、30pで1/30、24pなら1/24という事になる。事実、ビデオカメラをフルオートで撮るとほぼ間違いなく1/60のシャッタースピードに固定される事になる。これはスチルカメラのフルオートとは全く違う動きなのでデジタル一眼で動画を撮ろうとした時には逆に注意が必要だ。

ここでスチルカメラを使っている人なら「ん?」と思う所だろう。この辺りのシャッタースピードは手持ちでブレないギリギリの所であり、少なくとも動いている被写体を捉えるには遅すぎるシャッタースピードだと言えるからだ。ただ動画に於いてはこのブレこそがスムーズな動きを撮る為の大きなファクターになっていて、静止画を撮るのとは大きく概念を変えなくてはいけないポイントなのだ。それについては次回詳しく書きたいので乞うご期待。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。