10回目にして思う事

[東京Petit-Cine協会]の連載が晴れて第10回を迎えた。本当に感謝しています。何より毎回読んで下さっている皆様、そしてこのわがままな企画を温かく続けさせて下さっているPRONEWSのスタッフの皆様、そしてそして記事を書くために協力してくださった役者さん、モデルさん、映像制作の仲間たち、ありがとう!ぜひこれからもよろしくお願いします。

さて今回皆さんにご挨拶するのには訳がある。ここの所、技術の話ばかりしてしまっているが、それにしてはこの「東京Petit-Cine協会」というタイトル、違和感を持つ方もいるだろう。この名前は僕が10年も前に作ろうとしていた映像制作者とサポーターの為のネットワークの名前なのだ。その理念はとにかく映像制作文化を盛り上げるべく出演者も含めて技術者、クリエーター達を直接結び付けようとしたものだった。

当時はDV全盛の時代で映像を作るチームがそれなりの活気を見せていたのだが、その”横の繋がり”は乏しく、チームによっては音楽をやる人がいなかったり、メイクや衣装をやる人と知り合う機会がないとか、とても残念な状態があった。もちろん大規模なプロジェクトであればプロデューサーが一揃えの「組」を作ってくれるはずで心配ないのだが、それはすでに「業務」の話であってワンステップクリアした人達の言わば成功者の環境である。

私の考える「文化」とはその成功者を育む為の環境であり、一回り外側(下ではない)にある世界で、そこを技術的にも人材的にも向上させないと未来の映像界は成り立たないはずだと考えている。残念ながら私の力不足でその時は協会を具現化させることは出来なかったが、今もその思いは消えていない。それどころか今の技術と環境は当時から比べると格段の表現力と高品質を提供してくれているはずだし、それもPetit-Cineレベルでも手の届く所にある。

petitcinePN1003.jpg 倉本夏希ブログ : http://ameblo.jp/shineway/

むしろ今こそ「文化」というレベルの映像界の向上を計る時だと思う。その為のヒントや知識をここから発信し、より良い作品が生まれるきっかけになってくれる事を切望している。そしていつか高いレベルで人のネットワークを構築できる事を今も変わらず願っている。つまりこの連載の許に集まってくれている皆さんこそが「東京Petit-Cine協会」の意義なんです。

*『倉本夏希/リボン』のPVの撮影は映像制作集団ジャンギリの前田達哉君と総勢三人だけで慣行。彼もまた映像作家であり、共に学び合い、手伝い合いながらお互いの作品を作っている、僕の最も貴重な仲間。

映像文化の現在

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PCの高速化、ネット上の動画環境、ハイビジョン、デジタル一眼ムービー、そして全ての低価格化。どれをとってもワクワクするような時代が来ている。しかし反面、テレビ局周りの弱体化、不景気、相次ぐ上映館の閉鎖や映画祭の中止、なぜか暗い話題ばかりが目立つ。何よりこれほどテクノロジーが身近になったにも関わらず、インディームービーやVシネマの作品数やクオリティが向上しないのは何故なんだろう?いろいろ難しい問題はあるのだろうが私が一番問題だと思っているのは制作者達の意識だ。

テクノロジーがこれほど歩み寄って来ているにも関わらず、映像作品を作るという事がなぜ未だに身近になっていかないのだろうか?いや、確実に身近になっているはずなのにそれに気付いていないだけなのではないだろうか。最先端のテクノロジーはハリウッドやテレビ局に大きな恩恵を与えているしマスコミもそういう事を中心に発信している。

だが気付いてほしい。最先端でなくても、その「おこぼれ」のテクノロジーを使うだけでも映像制作は格段に簡単にハイクオリティーになっているはずだ。何も今、自主制作やVシネで3Dをやらなくてもいいという事だ。例えば僕はほんの数人の仲間とインターネットテレビを始めた。ミュージシャンが楽器を買うのと変わらない値段で世界に通用する質のカメラが買える。

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売れてなくてもやる気満々な役者達がごろごろいる、しかもSNSやブログで直接言葉を送れる。規模をダウンサイジングする事でクオリティを高める方法は必ずある。規模を縮小できないまま予算だけが縮小されるテレビドラマや1000万円をローバジェット(低予算)と呼ぶハリウッドとは別の意識を持たなければいけない。クリエーターの皆さん、技術を磨きましょう、少しだけできる事を広げましょう、美意識を研ぎ澄ましましょう。そしてそういう仲間とコミュニケーションをとり、お互いの能力を共有し合いましょう。

そしてもっと苦労しましょう(笑)。もっともっといい作品を生み出す為に!そんなヒントやきっかけになれる事を目指して「東京Petit-Cine協会」、頑張ります!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。