マンパワーと時間の濃度

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前回機材面でのポイントをまとめてみたが、それを参考に徹底した節約をしてほしい。だがそれは貧乏臭い作品を作る事を目指しているわけではない。極端な言い方をすればメジャーにも負けないクオリティを目指している。そう言うからには節約した分、何かで補わなければいけない。それがマンパワーと時間だと考えている。じり貧の予算の中でなんとかメジャーと同じような段取りとスマートさで進める事を求めている人たちがいるが、それが良い結果に繋がることは稀だ。高価なカメラを借りて限られた時間に撮影を終わらせるより、安いカメラでも自分の物にして、じっくり使いこなせた方が良い絵が撮れるかもしれない。

1時間何万円もする編集スタジオでサクサク作業を進めるより小さなパソコンで試行錯誤を繰り返す方が新しい可能性を見つけられるチャンスが多いかもしれない。お弁当や控え室にまで気を配らなければいけないような役者とマネージャーを通して話をするより、駆け出しの役者と直接作品について語り合い、稽古を積んだ方が良くなる事だってある。その全てに共通して言えるキーワードがマンパワーと時間なのだ。プチシネ制作でその使い方を学んでおけば、いつか高級な機材をたっぷり使って、実力のある役者と作品を作れる時にとんでもなく素晴らしい活動ができそうな気がしないか?始めから立派な専門学校やドラマの現場に運良く入れた人たちに共通して欠落しているのはそういう感覚なんだと思う。

コミュニケーションの濃度を高める

貧乏暇なしとはよく言ったもんで、プチシネメンバーは何かと忙しい。仮に暇だったとしてもそれに任せてだらだらしていたんではいつまでたっても作品は出来上がらない。やはりある程度の緊張感は必要だと思う。いずれにしても時間は限られているものだし、その濃度を高める事が重要だ。そこで大切になるのはコミュニケーション。劇団を組んだり合宿でもできれば言う事無いのだが、特に人数がある程度必要な作品の場合、居酒屋に集めるのですら苦労する事が多いだろう。「そんなに暑苦しく話さなくても、さっと集まってサクッとできてしまうのがカッコいい。」と考える人も多いのだが、メジャーと同じやり方をしてメジャーに勝てる訳はないのだ。

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たとえ自分のマンパワーに絶対の自信があったとしても、メンバーそれぞれのマンパワーを足し算ではなくかけ算にするためにはやはり濃密なコミュニケーションが必要なのだ。その為の一つのアイデアとして私は人数の多い作品を作る時にはスタッフと出演者だけの非公開ブログを作る事にしている。スケジュール管理や報告にも便利だし、例えば誰かと役作りに関するやりとりをするにしてもこのブログでやれば他のみんなも共有できるし、作品のテーマや全体像がだんだん肉付けされていくようで楽しくもある。監督としてその役の人物像やエピソードを思いついた時に書き足していくのにも便利だし、シーンや台本の変更も確実にみんなに伝わる。そんなこんなでみんなの作品に対する思い入れも強くなるのだ。正直言って最近の人はコミュニケーション能力が低下していると言わざるを得ない。最近の人でなくても、上下関係を過剰に意識して言いたい事を言えない人も多々いる。そんな中で濃密なコミュニケーションを計るにはいい手だと思う。

美意識の一本化

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美しい物の中から美しくない物を取り除くのは簡単だ。だが有能なメンバーが揃った時には、カメラマンはカメラマンとして、女優は女優として、それぞれしっかりとした美意識を持っている物だ。あまたの美しい物の中から一つに絞り込むにはいつもとても苦労する。また、同じ美に向かっていてもそれぞれの立場によってプロセスや表現が全く違う時もあるし、そういう時には監督が通訳のような形でそれぞれに伝えなければいけない。実はこれが監督のメインワークだと私個人は思っている。カメラマンにしても照明やメイクさん、役者達…だれ一人、自分が美しいと思えない事をしたいとは思わないはずだ。だからこそその作品の選んだ美意識をうまくプレゼンテーションしてそれぞれの美意識を肯定する形で一つの美意識を共有してもらうというのが理想なんだろう。その為には美意識の持ち寄りという足し算だけでは無理だ。かけ算にならなくては。その為に不可欠なのがコミュニケーションであり、これこそがプチシネの強みだと信じている。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。