アウトプットを考える

プチシネの定義を今一度。プチシネは、小さな規模で作る映像作品という意味で、時間的制約は無い。例えば5~30分位のいわゆるショートムービーって一体何の為に作るのだろう?ネットや携帯の動画配信のインフラが整い、これからはネットも動画の時代と言われ始めて、もう十年が経とうしている。その間YouTubeの出現と投稿動画のクオリティ向上でエロ動画を除いて「ネット動画は基本タダ」という所へ落ち着いてしまった。

結局は映画祭への出品か映画監督やCMディレクターを志す為のデモ作品くらいにしかならない。どちらももちろん収益性はゼロだ。何より一般視聴者に見てもらおうとするとYouTubeに流すか赤字覚悟で上映会を開くしかない。これではなかなかモチベーションも上がって来ない。そこで今回は今一度ショートムービーの出口メディアについて考えてみよう。とは言っても私がそういう事を言い出してからも約10年経っているのだが…。

ネット配信の将来は?

先に書いたように有料動画サイトはほぼ死滅した。今、かろうじて元気があるのは携帯動画サイトだが、ここでもクリエイター側にお金が支払われるケースは稀で、ひどい所はクリエイター側から配信料を徴収するといった悪質なケースが増えている。これは大体が中間業者によるものだが、数年前PodCastが流行った時にも同じ事が起こっていた。

せっかく作った物だからなんとかみんなに観てほしいという気持ちに付け込んだもので、これには絶対に乗るべきではない。業者に映像コンテンツを集めるだけで金になると思わせてはいけない。映像をなんらかの事業に使うにはそのクリエイターに報酬を支払わなければならない。裏を反せばそれに見合うだけの作品を作らなければいけないということなんだが、最近は携帯動画にまで一流テレビ局が一流の出演者を使って作品を流し始めているので、クオリティのハードルは随分上がってしまった。こうして見てみるとネット、携帯の世界にはショートムービーで収益をあげる可能性は残されていないようだ。そうなると作品に誘導する広告・宣伝に使うしかない。YouTubeやブログに流す予告編にはぜひこだわって頂きたい。

電子書籍

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来るべき電子書籍時代に向けて、ネット上でファッション雑誌を展開するためのプロトタイプ『BienTV』。まだまだ未完成ではあるがいつか”その時”が来るのを信じて着々と準備を進めている

あっと言う間に終わってしまった iPad ブームだが、書籍の電子化の流れは止まっていない。出版業界もアマゾン・キンドルやWindows版パッドPCの出方を見守っている感があり、これが落ち着けばいずれは大きな波となる事だろう。そうなれば短い動画コンテンツの需要も増える事が予想されるが、それがどんな形になるのか、もっと言ってしまえばどんな予算でどんな規模でどこから発注されるのか、まだ全く分からない。少なくとも個人のブログでさえ簡単にYou Tube の動画を組み込める今、いくらパッドで見られるからといっても凡庸な動画コンテンツなど何の意味も持たない事は明らかだ。「ならば」と様子見を決め込むのも良いが、映像製作者として何か新しいコンテンツを提案して行くのも面白い。何の確実性もないがビジネスチャンスというのはそういう物だ。

上映会

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私の知る限り、もっとも精力的な活動を続ける映像製作集団ZYANGIRI。年一回の上映イベントは欠かさず行い、作品のDVD販売も積極的に行っている。見習いたい

最近はビデオ作品のためにハイビジョンプロジェクターを用意してくれている上映館やイベントスペースが増えてきた。やはり大きなスクリーンで観るのはいいものだし、多くのお客さんが自分の作品を観てくれている姿は感動さえ覚える。だがここで問題になるのは作品の上映時間だ。わざわざ来てもらってチケットを買ってもらって上映時間10分だとさすがに怒られてしまう。私が先日参加させて頂いたショートムービー上映会ではたくさんの作品を集めて合計2時間位のイベントとして成立していたが、シリアスやコメディー等を含め、10本以上の作品を連続で観るのは結構厳しい事でもある。

クラブイベント等で上映した事もあったが、まずまともには見てくれないし、まともに見ようとしてくれている人にはストレスを与えてしまう事が多い。ショートムービーを観てもらうイベントにはまだまだ工夫が必要だ。逆に言うとショートムービー自体は上映会には不向きな物なのではないかとも思う。残念ながら実現には至らなかったが、以前プチ・シネコンという物を提案した事があった。これは小さなブースかテーブルに各一つずつのテレビとヘッドフォンが複数繋げるシステムがあり、コーヒーやケーキと一緒にショートムービーを注文して仲間と一緒に見るという狙いの物。映画を見るのを口実に彼女を自分の部屋に呼び込めない草食系男子にはピッタリだと思うのだがいかがだろうか?

リビングルームに新環境

2011年7月までにほぼ全家庭にハイビジョンテレビが用意される。この横暴な決定を誰がしたのかは知らないが(そもそもちゃんと国会で話し合ったのか?)。まあ映像を作る者としては歓迎すべき事だろう。大きなスクリーンと観客との出会いといった上映会の臨場感はないにしても、好きな時に好きなスタイルで観てもらえる。その環境がハイビジョン化されるという事は映像製作者にとって嬉しくもあり、ごまかしが効かないという意味ではプレッシャーもある。そしてハイビジョン作品を供給しようとすると、今ならブルーレイという事になるのだろうが、これもいざ出版しようとなるといろいろ問題もあり簡単ではない。詳しくは別のコラムで語っているのでぜひ読んで頂きたい。

だが気付いているだろうか?ハイビジョンテレビの進化はすでに世代を重ねており、初期の物では非常に汚かったDVDの映像も最近の物はとても奇麗になっている。これはSDをHDテレビで見る為のアップコンバーターという変換ソフトの技術向上が進んでいるからだ。普通のDVDならショートムービーでも比較的安価で出版できるし、始めはDVD-Rでの手焼き販売でも構わない。

そういう意味ではBD-Rでも手焼きなら販売できるはずだ。どうも現在のところ、ショートムービーの出口としてはこの辺りが一番現実的なのかもしれない。そんな事ならもう随分前からみんなやっている筈だと言われそうだが、リビングルームの環境が変わった今、もう一度力を入れてやってみるだけの価値はあると思う。もちろん、宣伝やネット環境の利用、出演者やスタッフの協力体制等の戦略は不可欠だが、次回から具体的にどうすればDVDやBlu-rayの販売を成功させられるかを考えていこうと思う。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。