明けましておめでとうございます。今年も東京プチシネ協会をよろしくお願いします。

ここしばらくプチシネ制作の実例的な内容をお届けしていたが、昨年のInterBEE以降、機材面について、また波が来ているように思う。3Dとか4Kとかハイエンドの世界もさることながら、目立ちはしないがプチな機材もとても充実してきていて、また確実にプチシネのクオリティーアップにつながるはずだ。でも「目立たない」というのが問題で、マスコミも取り上げないし宣伝もろくにしていないような機材の中に意外な宝物があったりもする。そこでこれからしばらくはプチシネ制作ツールに的を絞って話していきたいと思う。

本当の悩みどころは音関連

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デジタル一眼の大型センサーによって飛躍的に表現力が上がった動画の世界だが、やはり音声収録に関しては問題が多く、正直私も大変苦労している。やっと大型センサーを搭載したビデオカメラもちらほら出てきたものの、しっかりとした音声収録をしようと思うと非常に高価な業務用の物を使うしかない。

結局現時点では音は別録りを覚悟しなくてはならないのだが、InterBEEでも紹介したTASCAM DR-100が唯一の選択だろうと思い、私も早速手に入れた。なぜ唯一無二なのかというとカメラに取り付ける事ができる小型のフィールドレコーダーの中で、バランスマイク入力を装備し、ヘッドフォンモニ ターとラインアウトが同時にできるという物は他にはないからだ。

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長らく愛用しているZoom H4 はモデルチェンジしてH4nになり、ヘッドフォンアウトとラインアウトが統合されてしまった。これがなぜ不便なのかは後にして、まずはバランス入力の必要性について考えよう。

デジタル一眼に付いている外部マイク入力のほとんどがステレオミニのアンバランスで、中にはそれすらない物もある。最近ではそこに直接入れられるガンマイク等も発売されているが、品質、選択肢共に充分とは言えない。バランスをステレオミニに変換するプラグやケーブルもあるようで一見これを使えばどんなマイクでも使えそうだが、実はカメラ側のマイク入力のインピーダンスは各社まちまちで、中にはレベルは合っているにも関わらず非常にノイズが多くて使い物にならない物もあるので注意が必要だ。そしてマイクをバランスケーブルで繋ぐもっとも大きなメリットはケーブルを長く伸ばし た時にノイズが乗りにくいという事だ。

バランスマイク入力は不可欠。その理由とは?

特にドラマでセリフを同録しようとすると、マイクとカメラの役者に対する位置関係はカットによってまちまちなので長いケーブルが必要になる。アンバランスのケーブルにも延長コードはあるが、これを5mでも引っ張ろうものなら、ノイズを拾いまくってしまう可能性がある。そういった理由でバランスマイク入力は不可欠だと言える。

さて、もう一つの理由、ヘッドフォンとラインのアウトプットが独立している事のメリットだが、デジタル一眼側にヘッドフォン端子が付いている事は期待できないので、撮影中、DR-100から音声のモニターができる事はとてもありがたい。更に同時にカメラの方へもこの音声を記録しておきたいと思った場合、もう一つ独立したアウトプットが必要になるわけだ。逆にその必要がないと考える人にはZOOM H4nでも良いだろう。

私の場合、レコーダーでは96KHzの高音質で録音しているのであくまでメインではそちらを使う事にしているが、例えば私の愛機、Canon EOS 5D MarkIIの場合48KHzでマニュアル録音レベル設定が可能となり、かなりの音質で録れることから、予備録音されているのは心強い。

レコーダーとカメラの間はもちろんアンバランスのケーブルで繋ぐ事になるのだが、ものの10~20cm程度の事なので問題はない。ただここにはとんでもなく厄介な問題が別にあるので注意していただきたい。それはレコーダーのラインアウトとカメラの外部マイクインとではインピーダンスの差があり、抵抗をかませないととんでもなく歪んだ音になってしまう。しかもレコーダーのアウトもカメラのインもインピーダンスは様々で、H4を使っていた時も市販の抵抗入りケーブルは全滅、(レベルが合っていてもノイズが増える場合もあり)。

結局自分でいろんな抵抗をかませてケーブルを作っていたが、今度DR-100ではそれも使えない!折れそうになった気持ちを救ってくれたのがこの銀の箱。 群馬県にあるスガヤ電機が作っている可変アッテネーター。

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こちらでは映像製作も手掛けているらしく、さすがに「わかってる」機材を作ったなぁと感謝している。オプションでさらに幅広いレベルマッチングができるようにマイク/ライン切り替えスイッチ付。これがあればほぼどんなレコーダーとカメラの間でも適切なレベルマッチングが可能になるはずだ。ただし、メー ターの振れ具合と音量だけではなく、ノイズの大小にも注意を払い、レコーダーの音量、アッテネーターの設定、カメラ入力のレベルと、三つをコントロールしながら、ベストな セッティングを見つけてほしい。ちなみにEOS 5D MarkIIの場合、とにかくカメラの録音レベルを大きくしないのがコツだ。また一緒に送られてくる取り扱い説明書には、オートレベルコントロールのカメラとのマッチングのコツまで書いてあって、とても親切だ。スガヤ電機では更に小型で使いやすいアッテネーターを開発中との事で、今から大いに期待している。

プチシネ制作では人手不足からか、どうも音声に関するミスが多いような気がする。いや、絶対音が悪い!なので次回からも音声に関するあれこれを取り上げてみようと思う。 乞うご期待。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。