今やカメラの新潮流は、大判センサーカメラである。前回はその流れを見てきた。今回は実際に大判センサーカメラを使用する事について考えてみたい。本誌でもおなじみのふるいちやすし氏は、ソニーのEマウント採用でレンズ交換可能な業務用NXCAMカムコーダー「NEX-FS100」を実際に使用し、作品に取り組む。FS100を使う事によって、作品作りに対しての姿勢も変わってきたという。果たしてふるいち氏にとって大判センサーカメラとは?彼の映像制作に与えたものは何だろうか紐解いてもらった。スペックだけでは語れないクリエイターならではの一家言があるという。

僕がFS100を使ういくつかの理由

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新しい機材やテクノロジーはクリエイターの欲求から生まれ、それに応えるというのが理想だが、最近はなかなかそうもいかず、テクノロジー先行でクリエイター達はそれを理解し使いこなす為に四苦八苦する…といった状況になる事が多い。残念な事だ。このFS100というカメラはまだ100%ではないにしても私の欲求を叶えてくれた一つの到達点とも言えるカメラなんだが、一度どういう欲求を叶えてくれたのかを順を追って細かく説明してみようと思う。

ビデオカメラを使って作品を作り始めるずっと前に、フィルムカメラで写真を撮っていた時期があり、その時も好みのトーンを求めて様々な種類のフィルムやレンズをとっかえひっかえ使っていたが、フィルムと光学レンズがもたらす基本的なきめの細かさとかボケの美しさなんかは、当たり前の物として大して気にも止めていなかった。そしてビデオカメラを手にした時には動画が作れるという喜びで、そういった表現力はあっさり諦めていた。

スチルカメラでも言えることだが、やはりフィルムは大きい方が描写力に優れ、キメの細かい写真が撮れる。一般的な35mmフィルム(これが今のデジタルの世界でフルサイズと呼ばれているCanon 5D MarkII等に搭載されている物)から、画質を犠牲にしてもいいから枚数をかせぐ為のハーフサイズ(36枚撮りのフィルムで72枚撮れる。これがマイクロフォーサーズと同じ大きさ)というのもあったが、更に高画質を求め一辺60mm(もう一辺は45mm,60mm,70mm等いろいろあった)の大きさを持つブローニーサイズ、果ては4インチX5インチの大判フィルムまで、高画質を求めて作られていた。

だが、動画には1秒間に30枚の静止画の連写が必要なので、当時の処理速度の限界から色をRGBの三つに分け、ハーフサイズとも比べ物にならない程の豆粒のような三枚のセンサーに分担させて記録するしかなかったのだ。そこで犠牲になったのが粒子の細かさ、被写界深度、諧調の細かさ等だったわけだが、時が経つにつれソフト面でもハード面でも技術が向上し、1920×1080のハイビジョン映像なら1/30秒の連写が35mmフィルムと同じ大きさのセンサーでも可能になり、その描写力をやっと取り戻したと言える。これがデジタル一眼ムービーの始まりだ。FS100のセンサーはフルサイズと比べると一回り小さいスーパー35mmと呼ばれるサイズで、フィルム映画と同じサイズの物だ。

大型センサーが可能にした浅い被写界深度

全編FS100で撮影している作品『彩~aja~』より

いずれにしても描写力は格段に向上したと言える。更にデジタル一眼に搭載されている静止画用の物とは違い、動画専用に新たに開発されたセンサーなのでキメの細かさやノイズの少なさは圧倒的だ。これが今までの動画にはなかった立体感滑らかなグラデーションを表現できる秘密なのだ。

また、大型センサーは写真独特の浅い被写界深度、つまり狙った物以外をボカして主体を強調するといった表現も可能にしてくれた。やっとスチルを撮っていた時の美意識を動画にも求める事ができるようになった。また、5D MarkII等が持つ35mmフィルムと同じ大きさのセンサーより一回り小さいセンサーな訳だが、お陰で1/60秒の連写、つまり60pでの撮影が1920×1080のフルハイビジョンサイズで可能になっている。先頃発表された同じ大きさのセンサーを持つCanon C300でも1280×720という大きさでしかできない60p撮影が、1/3近い値段のこのカメラでできるのは驚きだ。このあたりが今の技術のぎりぎりの所だということだろう。

これで何ができるかというと、まず、滑らかなスローモーション映像が撮れる。動画の再生は基本的には30フレーム/秒なので、その倍の細かさで収録する事によって、半分の速度にしても動きの滑らかさは変わらないということだ。ちなみに従来の30pを半分の速度に落とすと、中間画像を補間してくれるソフトはあるが、基本的には15コマの画像しかなく、ぱたぱたしてしまう。また、1280×720、60pといったサイズで撮ると、動きは滑らかだがそこだけ拡大しなくてはいけないので、当然画質は落ちる。まあこの部分は今後の技術の向上でどんどん細かいフレームを撮れるようにはなるだろうが、現時点でのこの滑らかさは驚きに値する。

また、このハイスピードセンサーのメリットはもう一つある。フィルムのように一瞬にして光を浴びて画を記録するのとは違い、CMOSセンサーは上から順番に光を読み込み、記録していく。そこに若干の時間を要するわけだが、その速度を超える早さで被写体が動いたりカメラを動かしたりすると画像がグニャっと歪む、俗にいうローリングシャッター現象が起こる。これも60pというハイスピードで記録できるこのカメラは最小限に抑えられ、実際普通のスピードで見ている分には気にならないレベルにまでなっている。私は手持ちで動く人を追うのが好きなのだが、この時には迷わず60pで撮るようにしている。まずはこの大きなハイスピードセンサーが僕の欲求をここまで満たしてくれた。

温故知新、組み合わせの妙で表現力をあげる

全編FS100で撮影している作品『彩~aja~』より

デジタル一眼で動画が撮れるようになって大きく変わったのが、レンズを交換してトーンを作る事ができるようになったという事だ。しかも長い歴史の中で生まれた莫大な数のレンズがそこにはあり、ビデオ用とは比べ物にならない安さで売られている。このトーンという物はけっしてデジタル処理では真似できない光とガラスのマジックとも言える物で、派手に変わる訳ではないけど、長時間視聴者に見てもらう動画作品においてはじんわりと独特の空気感を与えるのにとても重要な作品性を担っている。

その選択肢がオールドレンズも含めると一気に無限とも言えるくらい広がった。しかもこのソニーEマウントという機構は、数多く発売されている各種アダプターを使う事によって、世界中のほとんどのレンズが使えると言っても過言ではない。ここに限ってはスチルカメラの表現力を上回ったと言えるだろう。もちろんソニーからもGシリーズやカールツアイス等、高画質で魅力的なレンズは発売されているが、私が注目しているのはオールドレンズさえも動画に使えるという点。

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解像度やコーティングのクオリティーも現在のレンズと比べると確実に劣るのだが、光学上の低解像度というのはデジタルのそれとは違い、数値には表れない”味”となって現れる事がある。光学上の”味”のある画像を、超高画質のセンサーで捕らえる。ここには確実に今までにはない世界が広がる。もちろん歴史的価値のあるレンズ等はとても高価だが、中には驚く程安くておもしろい画が撮れる物も数多く眠っているのでぜひ探してみてほしい。また、動画の場合は特にだが、どうしてもオートフォーカスが使いたくなる場面もあるだろう。それには純正キットのズームレンズやオートフォーカスに対応した単焦点レンズもリリースされていて、デジタル一眼では考えられなかった速度で対応してくれる。

音にもこだわりを

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動画作品において、音声の重要性は言うに及ばない。実は私は元々音楽家で、音に関してはことさら気を使う。画の表現力に魅了されてデジタル一眼での撮影を続けてきたが、スチルカメラに満足な録音機能が望めるはずもなく、仕方なく別にレコーダーを用意して音声収録を行っていた。だからしっかり音の録れるFS100は、やはり心待ちにしていたカメラなのだ。

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まずはXLRのバランスマイク入力が付いているという点。デジタル一眼にも外部マイク入力を装備している物はあるが、バランスマイクケーブルではないので長く引き延ばす事ができない。そしてマイク自体、プロ用の物が使えない。これを一気に解決してくれたのがFS100だ。業務用ビデオカメラとしては当たり前の事だが、前述の画質面での性能を併せ持っているという所に大きな意味がある。収録クオリティーはAVCHD規格に準拠するという意味で48KHz止まりだが、更にいい音で録りたければ外部レコーダーを使えばいい。そんな時もレコーダーのラインアウトから送られた音声を適正レベルで受けられるようにマイク/ライン切り替えのアッテネーターが内蔵されている。バックアップの意味も考えるとこの方法が使えるのは心強い。

所有して初めてわかるFS100の奥深さ

最後に私が大きな意味を感じるのは価格だ。ここまでの機能を持ちながらこの価格で手に入るカメラはまずない。プロのビデオカメラマンは高価格な故にカメラもレンズもプロジェクトの期間だけ借りて使うというのが常識的になっているようだが、私はカメラは所有すべき物だと考えている。大体、スチルカメラマンが借り物のカメラで作品を作っているのなんか見た事もない。そういう意味ではこの価格はプロ/アマ問わず、本気で作品を作ろうとしているクリエイターが頑張れば所有できる価格だと思うのだがいかがだろうか?

そこで私はこのカメラを「クリエイターズカメラ」と呼んでいる。ではなぜ所有すべきなのか?答えは簡単だ。今まで述べた基本性能を感性や作品性に合わせて細かくコントロールするパラメーターが山のように数多く用意されており、中には専門のビデオエンジニアが業務用モニターでしっかり見ないと解らない変化を調整する物まである。これは数百万する業務用カメラと同等の物で、もちろんデジタル一眼にはないレベルだ。

これらに関しては回を改めてお見せしたいと思っているが、いずれにしてもそのパラメーターを理解し、自分なりの画を作れるようにコントロールするには、借り物ではダメだ。日常的に何度も経験を積み、カメラと一体化していかなくてはいけない。私もFS100を使い始めて数ヶ月経つが、お恥ずかしながらまだ全てを使いこなしてるとは言えない。それ程、懐の深い画作りができるカメラなのだ。

もちろんそこまでしなくてもしっかりいい画は撮れるのだが、やはりこのカメラの魅力はその深さにあると思う。世の中の映像クリエイターの皆さんに、このカメラによって取り戻せた「画の表現力」とそれをコントロールして画を作る喜びを、改めて、新しい次元で、知ってもらいたいと思う。そして素晴らしい作品を作り出してほしいと願う。

全編FS100で撮影している『彩~aja~』
女優:笠原千尋(オフィス モノリス所属 公式ブログ:-雨に濡れた花は太陽を仰ぐ-
スチル:前田達哉(ZYANGIRI エンターテインメント 公式ブログ

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。