第四映像 #002『海の人、山の人』
  • 出演:池田優菜嘉悦恵都、共にオフィスモノリス所属
  • 作・監督・音楽:ふるいちやすし

障害を軽く乗り越えるスタンスで行こう!

前回に続いて今回も外ロケ。快晴とまではいかないものの夏の強い日差しの下で行った。しかも海辺!いろんな障害がある。それを大袈裟に克服しようとすると、当然、人も機材も大袈裟になる。しかしそこはプチシネ、工夫を凝らし乗り越えていく。今回もスタッフ無しで僕と役者だけでの撮影を敢行した。だが、こういう時はせめてメイクさんはいてほしい。汗、風での髪や衣裳の乱れを見落とさない為には、そういう視点でずっと役者を見ていてくれる人が必要だ。また、炎天下でレンズに直射日光が当たってはおかしなハレーションが起こる。レンズフードで防ぎきれない時は少し離れた所でレフ板等で陰を作るべきだが、一人ではカメラから離れられない。最低二人はスタッフが必要だ。

工夫一つで大きく変わるPetit-Cineの心

さて、今回もカメラはNIKON J1。センサーサイズは大きいとは言えないが、開放値の明るいレンズを選べば被写界深度もある程度浅くでき、ボカシを使った表現やフォーカス送りといった演出も可能だ。ただそれをするには当然絞りを開かなくてはいけないので明るすぎる場所は厄介でサングラスの役目をするNDフィルターは必需品だ。間違ってもシャッター速度を上げてはいけない。

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そういう意味で、普通のビデオカメラにはNDフィルターが内蔵されている物がほとんどだが、一眼レフやコンデジといった静止画用のカメラにはそういった機能は用意されていない。そうは言っても、最近はこれらのカメラで動画を撮る事も一般的になりつつあるし、メーカーもそれを強く押し出している。ならばいい加減、NDフィルターを内蔵してほしいものだ。まぁ、無い物ねだりをしていても仕方がないので、今の所はやはりレンズの前につけるNDフィルターを用意しておかなくてはいけない。絞りを2.0以下の被写界深度が浅い画を多用したいのであれば、4番と8番の二枚用意しておくべきだろう。

特に炎天下等ではその二枚を重ねて使わなければならないケースもある。レンズの前に付けるのであれば、そのレンズ径に合った物を用意しておかなくてはいけないが、一眼レフやミラーレス一眼のようにレンズを交換して使う物ではレンズ毎、違うフィルター径に合わせて買っておかなければならない事になる。一枚一枚のフィルターはそんなに高くなくても、それぞれ二枚ずつとなると使うレンズの本数によっては大変な事になるし、現場での付け替えも混乱をきたす。そこで持っているレンズの中で一番大きいフィルター径の物を買っておいて、後は全てのレンズがその径に合うようにするステップアップリングというアダプターを使うと便利だ。

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ただ、私が使っているオールドレンズの中には、現在のカメラとはフィルター径の規格が違う物もあり、それに合うステップアップリングすら存在しない物がある。そこでゴム製のレンズフードを使ってレンズの先にすっぽり被せるNDフィルターアダプターを自作した。

これはレンズフードをさかさまにする事でレンズに装着するネジ目をフィルター用に利用する物だが、NDフィルターに限っては裏向けに使っても問題はない。一眼レフくらいの大きさになればマットボックスも売られているのでそれを使った方が早いが、今度はNIKON J1のようなコンパクトカメラでも使えるようなマットボックスを作ってみようと思う。こうしてだんだん大袈裟になっていくように思えるが、プチシネ精神は忘れていません。最小限の規模でクオリティを保つ方法を探っていくつもりだ。

海での音声収録も一工夫!

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さて、もう一つの難題は音声収録だった。海には風が付き物で、例え音声スタッフがガンマイクを持ってくれていたとしても、いい状態で声が録れる保証はない。そこで今回はワイヤレスのピンマイクを付けてもらう事にした。私がよく使う方法は役者さんの身体に直接貼付けてもらうという方法だ。よく裸の芸人さんがやっているあの形だ。あのように胸の辺りに顔に向けて貼り、コードもしっかり固定しておくというのがコツだ。もちろん、その上に衣裳を着るわけだから、絶えず衣擦れの危険性は覚悟しておかなくてはいけない。その為に、表面ができるだけツルツルになるようにビニールパイプで作ったカバーを付け、それを貼るテープもツルツルの物を選んだ。こうすれば衣擦れは最小限に抑えられるし、胸板に直接貼るという手はうまくいけば案外いい音で録れる。

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それでもだめな場合を想定して、撮影後に車の中で声だけを録る段取りもしておいたし、最悪、スタジオでのアフレコをお願いするかもしれないと、役者さんには伝えておいた。撮影直後にセリフのオンリー録りをするメリットは、何より役者さんが芝居のダイナミクスやリズム感をまだ覚えているという事と、改めてスケジュールを空けてもらう必要がないという事だろう。また、車の中というのは、静かな所に停めておけば、意外にいい吸音ルームになる。ただし、現場で撮った画を見ながらそれに合わせるという事まではできない。細かいタイミング補正は編集時に覚悟しておかなければならない。それでもだめならアフレコという事になる。

私は何より芝居のダイナミクスに重きを置く方なので、なんとか現場でと思ってしまうが、音質を重視するなら始めからアフレコ覚悟でやるのも正しい選択だと思う。そうすれば現場での録音という手間も注意力も払わずに済む。今回は多少の風の吹き込みはあったものの、ピンマイクでなかなかいい音で録れたので、オンリー録りもアフレコもする必要がなかった。ラッキーだった。

こういった、現場によっての特徴とリスクを想定し、そこに合ったプランを練る事がプチシネであろうとも大切な事だ。経験を積んでほしい。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。