グリーンバック合成の撮影で実力を発揮

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Canon EOS 5D Mark IIが現場で多く使われる様になり、多くの人がその実力を認めるようになってきた。このコラムでもいろいろと述べてきたが、EOS 5D MarkⅡが捉えるフィルムライクな映像は今までなかなか手に入れることのできなかった実に質感が豊かなものである。コンパクトなボディに収録される映像はとても力強く、ビデオカメラとはまったく異質なものだ。

私はこのカメラを通常の動画カメラとして使用するだけではなく、グリーンバック撮影でよく使用する。グリーンバック撮影はあまり「お手軽」にはできないという印象をお持ちの方もおられるかとは思うが、EOS 5D MarkⅡが捉える映像の素晴らしさを活かした合成撮影のクオリティは、相当なレベルであると感じている。もともとデジタル一眼レフカメラというスチルカメラから生まれた動画機能は、プログレッシブで撮影できると言う点だけでなく、同価格帯のどのビデオカメラと比較しても群を抜いてグリーンバック撮影で実力を発揮するのだ。

EOS 5D MarkⅡを選ぶ理由

HDVやAVCHDなどでグリーンバック撮影に比べEOS 5D MarkⅡのコーデックであるAVC形式のEOSムービーは数段も合成に向いている。その理由は主に3つ挙げられる。まずはビットレートそのものが高いと言う点だ。HDVやAVCHDといった汎用コーデックは25Mbps付近を最大としているのに対してEOSムービーは40Mbpsという非常に高い情報量を画像に含んでいる。情報量が多ければ多いほど合成の精度は上がるため、単純にビットレートが高いほうが「より綺麗に」背景を抜くことができるのは明解だ。

2つ目の理由は、感度が非常に高いため通常のビデオカメラで使用する照明量よりも少ない明かりで最低照度を設定できることである。背景のグリーンに均一でムラなく明かりを当てるだけでなく、被写体そのものにも十分な明かりを当てる必要のある合成撮影において「照明」は非常に大切なファクターだ。バストショットの撮影で通常であれば背景に2500W相当の明かりと、被写体にも2500W相当の明かりが必要だったのに対して、EOS 5D MarkⅡを使って撮影するときは、全ての照明を合わせても3000W相当の明かりがあれば十分に背景を抜くことが可能だ。これは絞りやシャッタースピード、そしてISOを上手にコントロールすれば、影像の明るさを最大限に引き出すことができるからで、デジタル一眼レフカメラの恩恵が伺える。ちなみにISOは800までであればノイズは問題にならないが、それ以上数値を上げるのはやめておいたほうがよいだろう。 そして最後の理由が、影像のコントラストが高いという点だ。背景と被写体の境界線がより際立って描写されるため、合成ソフトウエアにとって抜きが簡単になる。これもデジタル一眼レフ特有の特徴と言えるだろう。ビデオカメラで撮影した際にも、より合成の精度を上げるために一旦素材のコントラストをノンリニア上で上げてからキーイングを行うこともあるが、影像のディテールを崩すことなく合成作業に入れるEOS 5D MarkⅡの素材はキーイングに最適だ。

全身でも6000W相当の照明でOK

照明は必須。背景のグリーンに当てるのと、被写体に当てる方法で明るさをキープ。LEDを使うと効率的

それではここで具体的な作業を記しておく。まず使用するグリーンだが、若草色の単一色背景を用意した。今回はビニール生地の物を使用したが、光を反射しないマット感のある素材であれば問題はない。極力シワを作らないようにするのが大切だ。被写体は女性のモデルで、足元からの全身を合成するための収録となった。使った照明だが、背景に左右から均一にムラのないように1600W相当の明かりをそれぞれ当てて、被写体のモデルには左右から1000Wずつと正面から500W相当の明かりを当てた。使った照明はLEDがメインを構成し全部で6000W弱相当ぐらいの明るさを作り、撮影はきわめて問題なく進んだと言える。

縦撮りで解像度を稼ごう

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カメラを縦にして撮影すると解像度が稼げるのもTipsのひとつ

人間の全身を撮影する際は、スチル用の三脚を使用して「縦撮り」することをお勧めする。16:9のフレームで人間の全身を撮るとなると、カメラを90度回転させて縦の位置で撮影をすれば解像度を大きく稼ぐことができる。どの道合成してしまうため、なるべく大きく撮影しておくことに越したことはない。その際にビデオ用の三脚だと雲台を90度横に傾けることができないため、スチル用の三脚を使用しなければならない。EOS 5D MarkⅡは小型で当然スチル用の三脚にフィットするため、縦撮りの際の使い勝手は非常によい。ビューファインダーが背面にあるのも非常に便利だ。撮影するときの設定として、シャッタースピードはよほどのことがない限り1/30にしておき、ISOは800未満、絞りの値もなるべく10付近を狙えれば後が楽になる。あまりにも被写界深度が浅いと、背景との境界線がボケはじめるので要注意だ。

ジブは最強の特機

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ジブなどがあると、さらに「面白い」構図に挑戦できる

また撮影の際はジブに載せて撮影を行った。やはり目高で合成をするとつまらない構図になりがちだ。あおりや俯瞰などの位置で撮影するには、こういった特機があると非常に便利だ。折角の合成素材を撮影するのだから、グリーンの生地を思い切って足元を覆うようにして敷き詰めて色々な角度で被写体を捉えたいものだ。またジブにはレールを引くこともできたのでトラックインやジブ特有の浮遊感溢れる素材を収録することもできた。カメラを動かす際には、背景のグリーンバックにトラッキングポイントを作っておけば、後々の作業が楽になる。After Effectsには優秀なトラッカーが搭載されているので、3~5個程度のトラッキングポイントが役立つことになる。

ROBUSKEYで一発合成

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日本製のキーヤー、ROBUSKEY。とにかく簡単に背景を抜くことができるスグレもの

今回使用したキーイングソフトは、システム計画研究所の「ROBUSKEY for After Effects」を使用した。After Effectsで使用できるキーイングプラグインは幾つかあるが、直感的、かつ簡単で再現性のあるこのプラグインはとても優秀だ。基本的にはグリーンの背景で一番明るいところにスポイトツールで選ぶと、一気に背景が抜ける。あとはブロックノイズ低減、エッジ収縮、エッジぼかしで調整をすればほぼ作業は終了である。これほどグリーンバックの撮影が簡単に行えて、満足な合成結果を得られるとはいい意味で予想を裏切られた。境界線のエッジ部分をUPして表示しても分かるように、抜けは全く問題ない。またこのROBUSKEYは9月にCUDAに対応し、レンダリング時間を急激に短縮することを実現している。

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9月にCUDA版が登場し、圧倒的なレンダリングスピードを実現。通常版との比較で、そのスピードは倍以上に!(レンダーキュー2番がCUDA版)

もちろんバジェットのある際は、REDやAVC-Intra100Mbpsなどのカメラを使って合成撮影をするのがベストだ。しかしEOS 5D MarkⅡを使っても必要かつ十分な合成結果を得ることができるだろうし、我々も最近は「5Dで合成」ということに何の懸念も感じてはいない。もしEOS 5D MarkⅡをお持ちで、まだグリーンバック撮影をしたことがない人がいれば、是非とも挑戦して欲しい。今ではボディだけであれば20万円を切る勢いで手に入れられるEOS 5D MarkⅡは、恐ろしいほどコストパフォーマンスの高い1台であることが分かっていただけただろう。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。