今回のDVJ BUZZ TV Vol.05は、去る8月7日に新宿のSPACE107という小劇場を会場にして行われた、キヤノンマーケティングジャパン主催のワークショップイベント「THE HD Digital Workflow 2009」とのコラボ開催。キヤノンの業務用HDVカメラと、AJA から新たに発売されるフィールドレコーダー「Ki Pro(キープロ)」のマッチングによる新しいワークフローの提案という内容で、DVJ BUZZ TVとしても初のメーカーとのコラボレーションイベントとなった。この模様から、現況のテレビ制作業界と、小型・小規模HD制作機材の微妙な関係について紹介したいと思う。

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経済不況のあおりをまともに受けているテレビ制作業界

現在、数多くのテレビ制作会社がいま非常に厳しい状況にある。某在京キー局では、昨年4月に制作費が一律5%減、さらに同じ年の10月に5%減。そしてさらにこの4月にも番組別に更なる減額(10%減など)が強いられているという。世界的不況と円高によるメーカー不況から、TVCM収入の大幅な激減。これによりこれまで局専属的な制作会社が、次々と番組の外注制作の契約が解除されるなど、まさに下流に行けば行くほど、厳しい状況が生まれている。またこれまでテレビ番組制作をしていた会社や個人も、PVやイベント映像、ブライダルなどの仕事も平行せざるを得ないところも多いという。

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その場で撮影した素材を元にすぐさま合成、編集し上映された。

そんな状況において、更なる追い打ちはHD化、そして地デジ化である。HD化はここ数年でかなり浸透してきた感もあるが、この不況から「制作をHDからSDに戻しても良いから」ということを条件として提示しているものもあると聞く。現状、今後のHD化へ向けて移行して来た制作環境が、不況で逆流現象を起こしているというのだ。

また基本的にハイビジョン制作(HD)となる地デジ対応の番組制作は、制作者にとって頭の痛い問題かもしれない。どのプロダクションもある程度の投資が必要なのは覚悟の上だろうが、次々とめまぐるしく変わるデジタルフォーマットの変化に、いつ、どのタイミングで何を買えば良いのか?悩むプロダクションも多いだろう。

今回のワークショップでは、このようなテレビ制作業界に向けて、いますぐ手に入る低価格&扱いやすいHDソリューションの紹介として、即実行可能なHDプロダクションワークフローをテーマに、キヤノンのHDVカメラと、アップル社のProRes 422を使った新たなワークフローとして注目を集める新製品、AJA Ki Proの実機を使って、実際の中規模スタジオを模した会場で、グリーンバックの合成シーン撮影をデモンストレーションしてみた。

最小限の機材で、最高品質が実現出来る時代

今回の出演者は、第一部のワークショップでは、#1でも登場頂いた映像作家の貫井勇志氏に撮影と企画演出をお願いし、データ取り込み以降のデジタルワークフロー実演解説に映像ディレクターの高野光太郎氏、会場の照明関係の演出に神谷信人氏を迎えて、具体的なグリーンバック合成撮影の実演を、また第二部ではパネルディスカッションを行い、TV制作ディレクターの熊薮智氏と、テレビ業界に20年以上携わられて来た佐々木茂晴プロデューサーをパネラーにお迎えし、前述の3名にゲスト2名を加え、様々な論議が交わされた。

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世界でも最速実動するKi Proでの収録を行う本Webでもおなじみ高野氏

紹介したデジタルワークフローの流れは、HDVカメラであるキヤノンのXL H1S/XH G1Sなど、HD-SDI出力を有しているカメラから、HD-SDI経由でKiProへ繋ぎ、ProRes 422コーデックで収録。HDDに収録されたデータをそのままアップルのMacProへ繋いで即Final Cut Pro(FCP)で編集。その際に合成のシーンは、FCPのXMLのデータを直接Adobe Premiere Pro CS4に入れて、Adobe After Effects CS4で合成という流れだ。

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今回のワークショップスタイルは、日本では見られないスタイルを採用。実際に殺陣シーンを役者に演じてもらい、このシーンをグリーンバックでキーを抜くという作業を実演して頂いた。1カットのシーンのみだが、実際の撮影スタジオに見学に行った感覚を持って頂くための演出を施した。

注目すべきは、この一連の作業がポスプロを介在せずに実現出来る環境になったこと。そしてHD制作機材が、約300万円で手に入る時代になったことだ。またHD化にむけて多くの新たなノウハウは必要だが、機材的にも成熟し、また機材がよりコンパクトになったことが、制作者のクリエイティブが損なわれる事無く、そのアイディアの差別化もしやすいものに出来ると感じた。

実際のキー局がらみのドラマ制作では、すでにHD機材を持っており、さほどHD化への制作的ハードルは感じられないのが実状かもしれない。しかし今回のワークフロー紹介で、HD化への道のりは困難ではないことが、証明されたのでないだろうか?

もちろん、今回出演頂いたデモンストレーターは、皆テクノロジーにも精通し、それを利用するクリエイティブなアイディアを豊富に持っている方々なので、誰もが今回行ったワークフローをすぐ実行するのは少々難しいのかもしれない。しかし時は”案ずるより慣れろ”という時期に来ているのも確かだ。HD制作が身近で、とっつきやすいものになるためにはまだ少々時間を要する感もあるが、こうしたワークショップを通じて、少しでも自身の制作領域を広めて頂ければ幸いだ。

最後に、このような大規模なイベントを成功に導いてくれた、全ての協力スタッフに感謝の意を表したい。次回DVJ BUZZ TVは装いも新たに、10月以降にまた新たな内容を持って再開するので、期待して欲しい!

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。