毎年米ロサンゼルスで開催されているプロシューマ/業務/インディペンデント系の映像制作者向けの専門イベント、Digital Video Expoが、今年も9月22〜24日で開催された。このDigital Video Expoは90年代後半から毎年開催され、一時期はロサンゼルスのDigital Video Expo Westと、ニューヨークでのDigital Video Eastの東と西海岸の年2回が開催されていた。しかし近年の経済状況の悪化の影響もあってか、年1回ロサンゼルスのみの開催となっている。

また例年ではロサンゼルス市内のダウンタウンにあるロサンゼルス・コンベンションセンターにおいて12月初旬頃に開催されていたが、今年から新たに作られたロサンゼルス郊外のパサディナ・コンベンション・センターに開催地を移設。治安の悪いダウンタウンに比べ、学園都市と高級住宅街という格段に良い環境、そして新しい施設でのリニューアル開催となった。また今回はDigital Video Conference、Broadcast Symposium Westとの併催となっている。

開催規模全体は比較的小さいもので、およそ東京ビックサイトの東の2ホール分しかなく非常にコンパクト。しかしこのイベントの最大の魅力は、展示会場と同等の広さ(11会場)で行われる、充実したカンファレンス/セミナーのメニューが魅力だ。

そして今年のテーマは何と言っても、DSLR=Digital Single Lens Reflex。そう、デジタル一眼レフカメラムービー。ここアメリカでも益々このニーズが、様々な分野に渡って高まっていることを目の当たりにした。

11のステージで、50以上のセミナー/カンファレンス

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毎年このイベントで最も人気を呼んでいるのは、多岐に及ぶ充実した内容のセミナーやカンファレンス。まず今年注目されたのは、最終日に展示会場内にあるプレゼンテーションシアターで行われたフィルムメーカーのLiam Finn氏によるキーノートプレゼンテーション。テーマは「Big Movie, Little Camera」。もちろん話の中心はいまやDSLRの最右翼となっているキヤノン5DmarkⅡだ。テーマの通り、この小さな一眼レフカメラが及ぼした影響はここアメリカの映像制作者たちにとっても絶大であり、35mmフルイメージャーが実現する、安価で(!)美しい映像の魅力などを中心に解説、またその美しい画像を得るためにピント調整が非常にシビアになることや、H.264のデータの取り扱いの難しさ、さらに普通のビデオカメラとの使い分け等様々な角度からこのカメラの有用性を解説紹介していた。会場はほぼ満席で、その興味の度合いも伺われた。

その他、ASC(全米撮影監督協会)の協力で毎日行われたライティングマスタークラスでは、日替わりで有名な撮影監督たち数名が登場、自身の作品を見せながら、その照明技法や効果、その人のテクニックに関するセッションが設けられ、会場からは質問が殺到していた。さらにスペシャルトレーニングセッションとして、Final Cut studioのハンズオンセミナーなども、3会場でレベル別、ソフト別で毎日開催されていた。

約50の内容が多岐にわたるのはそうしたカメラ周りだけでなく、最新技術に関することや制作環境に関することなど風変わりなセッションも多くて非常に楽しい。目立ったところでは、テープレスメディアのポストワークフローに関するものや、iPhoneアプリケーションの使い方と開発に関すること、また地元LAのREDユーザーグループによるショーケース(上映会)など。また映画祭への上手なエントリー方法を教えるものなど、映像制作者ならどれも興味を覚えるものばかりだ。

小型、安価、斬新アイディアなど、小規模ながらも展示内容も充実

展示会場自体は非常に狭いので、NABのような新製品が続々発表という感じではないが、ある意味でまるで巨大なプロビデオショップに来ているようで、一日会場に居ても非常に楽しい。メインスポンサーのパナソニックをはじめ、JVC、ソニーといったメインカメラメーカーを中心に、周辺機器系のメーカーが多く出展していた。残念ながら話題のキヤノンやRED本体の出展はなかったが、各ブースでは各々のカメラが展示紹介されていた。

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実機初登場のパナソニック小型ハンドヘルド&カメラヘッドカメラAG-HMR10。画質もキレイな上に、カメラヘッドが取り外し可能で、他のAVCCAMとの互換性であり、他社同型カメラよりも使い勝手がよい印象だ。 DVカメラに直接取りつけ可能な、35mmレンズアダプター、JAG35。シンプルなスタンダードJAG35でなんと$99。M磨りガラス振動機能がついたJAG35Proは、$300と超安値。ただし像は反転するために、逆さに撮影する必要あり。
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パナソニックブースに出展された小型のDIGISTAR社のBlu-rayバーナー。パナソニックのBlu-rayユニットを実装。$375ドルという値段。バスパワー供給もACアダプターも両方可能。 DSLRにも活用できるLitepanels社のLEDライト。ジェルフィルター3種付属。LA市内のカメラショップでは、Microが$279、MicroProで$474.95。
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X-copy技術でS×S、P2、SDカードなど、全種類のビデオメモリーをバックアップ可能なinternational supplies社のNEXTO Video Storage Pro。eSATA、FireWire、USB2.0接続にも対応。プレビュー用2.4インチの液晶ビューワー付き。320GBか500GBのHDD、もしくは128GBのSSDタイプがある。 DSLRの周辺機器No.1メーカーの印象が強いRedrock Micro社。今回も4種類の細かい新製品パーツを出展。高まるニーズとともにDSLR用ガジェットも日々進化しているようだ。

女性ビデオグラファーの台頭、そしてDSLRのゆくえ。

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ソニーブースでプレゼンテーションする、女流ビデオアーティストのBrooke Rudnickさん。上映された彼女の作品はまるで映画やCMのシーンを繋いだような品位があり、とてもブライダルビデオとは思えない。

会場で目を惹いたのは、各ブース内で行われているプレゼンテーションがどれも非常に面白かったこと。ソニーブースの中で行われていた、女流ビデオアーティストのブルック・ルドニックさんによる、HDVカメラ HVR-Z7U(米型番)を使った新しいイベント/ブライダルビデオの表現法では、CMや映画のテクニックを多彩に組み入れた新たなブライダルビデオの表現を追求していたり、メーカーのブースでありながら、単に技術や製品紹介だけではない表現法やアイディアに関するプレゼン内容が多かったことだ。

また、今回筆者はパナソニックの新しいAG-HMC40を持って会場を回っていたが、手軽さ、そして画質の良さが来場者の目を惹いたようで、10人以上の女性のビデオグラファーと思われる方に声を掛けられた。それだけこちらの女性のビデオグラファーが多い事にも改めて気づかされた。米国でも昔は男性9:女性1ぐらいの割合しかなかった女性ビデオグラファーも、今は7:3ぐらいまでに増えているという。

被写体が女性である場合、カメラマンも当然女性の方が良い場合も多い。また演出面で男性と違う感性や、男性立ち入り禁場所での撮影も女性の特権現場であり、こうしたこと=見たことのない映像につながる。これは日本でも同様であり、今後女性ビデオグラファーが活躍するシーンは益々増えそうだ。

そしてDSLR。キヤノン5D markⅡの出現は、CM映画界だけでなく、当然プロシューマの世界も変えようとしているのは明らかだ。映画CMなどは、表現力のあるデジタルムービーが必要なら、4K、2KではRED、それ以下はもはやREDではなく5Dというのが、日常化してきている。

また従来のビデオ製品はもちろんいまだメインストリームではあるが、テープレス化の方向性が一番の問題であり、このワークフローをどう簡素化、簡便化できるかが今後の行方を左右しそうだ。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。