2010年、DVJ BUZZ TVのテーマは「人間力」

DVJ BUZZ TVは、映像制作者の実際の糧になるような情報や知識、そして制作者たちの作品や発信にかける熱いマインドを伝えていきたいと思っている。そこで今年最初は、映画やドラマの話の肝となる、脚本作りのテクニックにフォーカスしてみた。

今回のゲストスピーカーは「ハリウッドストーリーテリング」(愛育社)の著者でもあり、ハリウッドで活躍されてきた脚本家であり、脚本分析家の田中靖彦氏をお迎えした。現在、田中氏はハリウッドをはじめ、日本、マレーシアやシンガポールなど日本以外のアジア圏でも広く活躍の幅を広げている。また映画だけでなくアニメーションやWeb映像などへのストーリーテリングの論法にも幅を拡げている。

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ちなみに脚本分析家という職業はまだ日本にはないようだが、ハリウッドでは脚本家によって書かれたスクリプト(脚本)を実際に基本のフォーマットに合っているか?など様々な評価基準に合わせて分析する”脚本分析家”という職種が存在する。彼らによって脚本はさらにブラッシュアップされ、世界に通用する作品=世界に売れる作品として映画化されているのだ。また毎年600本近い作品がハリウッドで制作されているうち、700億円という巨額な予算が脚本執筆と、その脚本の分析、改稿に費やされている。これは映画「タイタニック」が3、4本作れる額であり、いかにハリウッドが作品の「ストーリーテリング」という部分を重要視しているかを物語っているだろう。

いまだ日本にはない脚本論教育

かなり僭越な意見ではあるが、私の十数年の映像ジャーナリストの経験から、多くの脚本に関わる人に意見を聞いたのだが、そもそも日本の映像教育の現場において脚本を論理立てて教えているところはほとんどないようだ。シナリオ教室や脚本講座と言われる、多くの習得機関では、例えば、昔たまたま(?)ヒットを飛ばした脚本家が先生となり、受講内容はその成功体験に基づいたものだったりする。これはマクロな視点で考えると、ある1人の成功者体験談でしかなく、1つのユーザー事例にしか過ぎない。私自身も、これまでのハリウッドにおいて、現役で活躍する映画製作者への取材や制作現場の取材を通じて、そもそも脚本とはそういうものではないと感じている。

やはり1970年代から脚本論という学問が、ちゃんと存在しているハリウッドでは、その脚本の善し悪しを判断する基準がちゃんとある、ということが大きな違いだ。ただし誤解をしてほしくないのだが、私自身は決してハリウッド信奉者というわけでもなく、また日本作品の脚本すべてが酷いものだ、と言っているわけではない、のだ。

ただ、日本の映像制作の現場には、それを正しく判断出来る評価基準がないことで、その辺が曖昧になったまま世の中に出ている作品が多いことは間違いなく、この理由だけではないが、世界に通用する作品が生まれないのもその理由なのかもしれない。日本の作品は、海外で賞を獲っても、海外で興行的成功を収めた作品は少ないのは明らかだ。

映画以外にも通用する”技術”

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脚本だけではなく、多くのプロと呼ばれる映像制作者にとって、プロである=作品が売れることが大命題であり、そこを判断出来る能力が最も重要だと考えられる。しかし日本の映像の現場には、残念ながらそういう意識を持ってやっている人が少ないのは事実かもしれない。TVドラマの視聴率が悪くてもクビになる放送局の社員はいないし、ハリウッドのようにプレビュー試写(封切り公開前のプロデューサー主催の一般試写会)で一般人の評価を仰ぎ、もしそこで評点が悪ければ、編集スタッフは一斉解雇して編集し直し、というような厳しい現実もない。映画が公開されて、テレビCMの「大ヒット上映中!」の文字に踊らされ期待してシネコンに足を運んでみると、人はガラガラで作品も酷くてガッカリさせられたりする事も少なくない。

さらに日本では、そうした教育を受けていない年功序列型の出世プロデューサーやディレクターも多いので、決済者が脚本を読み解く力(=この場合は作品力を見極める、つまり面白くてなおかつ売れる力)が無ければ当然、作品の質は低くなるというものだ。

もちろん場数や現場感というのも大事だが、往々にしてグローバル市場を見極めるためには、こうした学問的な裏付けは重要だ。評価基準から離れたところで作品を作っていては、おそらく世界の市場からは見放されるだろう。いま時代は中国、インドを中心としたアジア圏に移ってきている。映像市場もこれからは、彼らの作品の台頭は明らかだ。日本発のコンテンツが世界に通用しないと、高々1億ちょっとの市場を相手にしているだけでは、映像クリエイターの生きる道はかなり狭いものとなる。さらにこの脚本論は、映画やドラマ製作だけに通用するものではなく、過去の田中氏の受講生として今回ゲスト出演頂いた、コピーライターの樫原さんやタレント/俳優さんである阿部さんのように、様々なジャンルにも活かせる技術でもあるのだ。田中氏は年3回の「ハリウッドストーリーテリング脚本講習」を国内で開講する予定なので、興味のある方はぜひ受講してみるのも一考だろう。

2010年度第一回講習は、1月29,30,31日、2月5,6,7日の6日間
詳細、問い合わせ先:(株)パシフィックボイス
http://www.pacvoice.com/hs/

DVJ BUZZ TVの次回開催は、3月上旬に予定。
http://www.dvjbuzz.tv

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。