ロサンゼルス市の樹木でもあるハカランダ。淡いパープルの花が咲き誇り、街中はこの時期もっともカラフルな季節を迎える

優れたカラリストの条件とは何だろうか?

これまでインタビューしてきた日本の何人かのカラリストは、フィルム時代からそれまでの経験則をもとにキャリアを積んできたが、数年前のブラックマジックデザインによるDaVinci買収劇と、ソフトウェアとして進化したDaVinci Resolveの発表以来、カラリストの存在価値と認知度、普及度は急速に変化してきた。

あらゆる扉にはCO3(Company 3)のサインが!

日本でもカラーコレクション、カラーグレーディングといった言葉が普通に聞かれるようになった昨今だが、この世界において大きな存在感を示す会社がある。それがCompany 3(カンパニースリー)だ。Company 3(CO3)は周知の通り、いまや映画界では著名なカラリストであるステファン・ソネンフェルド氏によって創設された、おそらく世界で最も有名なカラーコレクション&グレーディングを専門とするプロダクションだ。これまでに『300』『アリス・イン・ワンダーランド』『アンダーワールド』といった前衛的かつ特徴的なルックをもつ、近年の映画のカラーコレクションの世界において、金字塔的な作品を世に送り出してきた。現在ロサンゼルス・サンタモニカにある本社では約100名のスタッフが働いており、その他にニューヨーク、アトランタ、シカゴ、デトロイト、そして英国ロンドンにも拠点がある。その全てにカラリストが常駐しており、在籍するカラリストは約30人ほどですべてのカラリストはCO3に社員として在籍し、フリーランスは一切使っていない。そこはファウンダーでもあるステファン・ソネンフェルド氏がこだわる規範でもあり、実際に採用するカラリストは彼がすべて決めているという。

サンタモニカにあるCompany 3のヘッドオフィス広報担当(VP Feature Services)の、Jackie Lee女史

サンタモニカにあるCO3本社を訪ね、広報担当(VP Feature Services)である、Jackie Leeさんに、優秀なカラリストに関する話を伺った。

Jackie Lee氏:CO3は、1997年にコマーシャルとミュージックビデオのカラーコレクションから始まった会社です。創設者のステファン・ソネンフェルド氏はカラリストでもあり、創業当時から独特な画作りで知られていました。当時彼と一緒に仕事をしていた監督たちが、ミュージックビデオやコマーシャルから次第に長編映画の世界へと活躍の場所を移していくなかで、我々も長編映画を手がけるようになりました。最初の長編映画は2002年ごろで、ちょうどハリウッドでDI(デジタル・インターミディエイト)が始まった時期と重なったことで、我々はDIの黎明期から関わってきました。今ではDIは映像制作の重要なプロセスになっていますが、私たちはうまくその波に乗る事ができて、これまでカラーコレクション・ビジネスで順調に成長しています。

CO3では現在もハリウッドを代表する作品群を手がけており、年間約40本の長編映画のカラコレ&グレーディングを行っているという。最近ではディズニーの『OZ』、『ローンレンジャー』を手がけ、訪問した際には新作の『スーパーマン』をカラーコレクション、グレーディングしていると話していた。現在サンタモニカの本社には12名ほどのカラリストが働いている。

Jackie Lee氏:CO3では大バジェットのメジャー作品ばかりでなく、低予算のインディペンデント作品も手がけています。最初の作品を手がけて、そこから一緒に成長していくんです。それがCO3のサービス精神でもあります。 大きな作品では新しいカラーコレクションのトレンドを作ったりもしますが、インディペンデント映画ではそうした技術を業界に還元しています。また次世代の新しいカラリストを育てることにも注力しており、これは非常に重要なことだと考えています。

良いカラリストの条件とは?

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Company 3駐車場は、最上階が入り口という変わった構造。屋上駐車場出口にはなんと『TRANSFORMER』のシンボルイラストが!そう、マイケル・ベイ監督もこのCO3を愛用する一人。そして取材当日、本人にも遭遇…

世界に通用するカラリストを有するCO3。世界の市場から優秀だと評価されるポイントとはなんだろうか?彼らが評価される理由は、大きく3つの条件が揃っているからだという。1つは基本となる色への知識と感性、2つ目は技術的に自分たちがいま使っているツールを理解していること、そして3つめは、クライアントとDP、監督とうまくコミュ二ケーションが取れる能力だ。

Jackie Lee氏:(カラリスト志願者は)まず2、3年は弊社のカラリストのアシスタントから始めて、そこでカラリストとしての片鱗を見せる事ができれば、今度はシニア・カラリストのアシスタントになることができます。そこではセットアップやプリカラーの仕事を任され、まずは技術的な側面を手伝うことで、操作卓や映写室で色の基本を学ぶ事ができます。

良いカラリストの条件としては、1つは基本となる色への知識と感性です。これは基本的なところで2つ目は技術的に自分たちがいま使っているツールを理解していること。これは単にカラーコレクションツールだけでなく、新しいカメラや周辺機材についても同じ知識を持つ事は必要です。カラリストとしても新しいカメラの能力を最大限に引き出さなくてはならないからです。特に最近は技術の進歩が速いのでこれは重要な事です。そして3つめは、クライアントとDP、監督とうまくコミュ二ケーションが取れる能力。優れたカラリストは、この3つの条件を必ず備えています。これが揃わなければ、カラリストしての成功は無いでしょう。

CO3で働くカラリストの何人かはすでに30年以上の経験者もいます。彼らは様々な作品で、多くのプロセスとフォーマットを経験してきているので、直感的にカラー処理が終わった後の最終形を想像することが出来るのです。そしてどうすればそこにたどり着けるのかを知っています。監督やDPが私たちのところへ来る理由として、色は映画の要素の一つであり、感情表現を色で表すなど物語を伝える手助けをしてくれます。良いカラリストというのはそういうことが直感的に分かりますね。

またある程度経験のある監督やDPになると、どんなカラリストに頼んでも、ある程度の見た目のルックを作ることができるのは知っています。『300』のようなものでも『アンダーワールド』のようなものでも、色を作ることは誰でも可能なのです。しかし問題なのは、作品を今回はどう一緒に作り上げていくかであり、完成までにそのカラリストと長い時間を過ごす事になるのですから、個人的なリレーションシップやコミュニケーションをどうとるかは、それ以上に大事なのです。お互いが尊敬できるような関係が個々に築き上げられることも、CO3が重要視していることでもあります。

多くの場合は、あるカラリストが手がけたの過去の作品を見て決めることがほとんどで、基本的にはそれでも全く問題はありません。しかしもし優秀なカラリストと長期的な付き合いをしたいのであれば、誰が自分に合っているのかを探ってからのほうがベストでしょう。最良の結果を得るためにはね!

要はどんな場合でも”人”である。人と人がモノを作ることには、デジタル化され、どんな新しいツールが入って来ても変わりはないのだ。

キーワードは「OUT-POST」

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CO3が現在進めている戦略として注目なのが、Virtual Out-Post/ヴァーチャル・アウトポストだ。世界の遠隔地からCO3のカラリストにカラーコレクションやスーパーバイズ(監修)を受ける事ができるシステムである。

Jackie Lee氏:クライアントはいま世界中のアウトポストができる場所にいけば、ロンドンやニューヨークにいる世界中のどの優秀なカラリストからもスーパーバイズしてもらうことができます。私たちは世界一のカラリストといつも共にあることを誇りに思っています。ヴァーチャル・アウトポストで非常に大切になる技術者が、カラーマネジメント・チームです。特に遠隔地との作業が要求されるヴァーチャル・アウトポストの時に活躍し、彼らが仕事を円滑に進めてくれます。そうした場合、カラリストの居る場所とクライアントが来るアウトポストの拠点とでは、部屋から何から全て同じ環境でなくてはなりません。そうすることでロケーションが違っても同じクオリティを提供することが可能です。そういったテクノロジーを担当する部署でスペシャリストたちが活躍しています。

また、CO3では最近「EC3」という新しい部門を立ち上げた。これは関連会社(シスターカンパニーと呼ばれていた)と一緒に設立したもので、撮影のロケーション現場まで出向いて、現場でカラーコレクションまでができるオンセット(現場)カラーコレクションのシステムをコントロールする部門だという。最近どのDI会社でもこうしたオンセットシステムに力を入れ始めているが、「EC3」もほぼ同じ機能を有するサービスだ。これもほとんどの現場がデジタルカメラでの収録になったからこそ可能になったサービスだろう。

Jackie Lee氏:カラコレやデイリー(撮影素材の視聴用データ)などに必要なものをどんな現場にも出向いてデータを書き出すことが可能です。どこかの部屋にセットアップすることもできるし、40フィートもある大型トレーラーに、カラコレ等に必要な機材を積んでロケ地まで出向くこともできます。その中には試写できるミニシアターまで備えてありデイリーラッシュを試写することも可能です。そのシステムを使えば、DPは撮影後にトレーラーに来て、すぐにカラコレを行うことができるのです。

CO3の戦略としては、今後はカラー作業の更なる需要拡大に伴って、新しい建物を拡張して施設を増やすという方向性よりも、こうしたオンセットシステムや、先のヴァーチャル・アウトポストの仕組みを利用して、外へ機材と人材を送り出す方向にシフトしているという。ポストプロダクションのカタチは刻々と変貌しているのだ。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。