英国有数の業界メディア誌のBroadcastが実施した放送技術における調査では、「ファイルベースの作業フロー」がテレビ放送事者の間で最も重大な技術問題であることが明らかになった。

3月11日に発生した、東北地方太平洋沖地震の影響によるテープ製品供給不足が発生した関係で、業界では「テープレス」の必要性について再認識されたという。調査回答者のうち45%が、この先1年以内にもファイルベース化を構築することを何かしら検討しているという。今回の調査は、主要購入と技術動向を正確に取得するために実施されており、結果、来年度中に検討する製品および技術は次の5課目が挙げられた(HDでのファイルベースおよびテープレスワークフローを構築するために検討している製品)。ストレージとアーカイブ:23%、デジタルカメラ:20%、コーデック:15%、メタデータ:14%。

調査は、英国を拠点とする放送事業関連社の経営および事業管理者170名を対象に行われ、業界比率は、プロダクション:25%、放送局:20%、ポストプロダクションが17%であった。

既存のテープベースの作業環境をファイルベース化へ移行するにあたり、データ管理やタグ付け、保存やアーカイブを通して様々な技術の壁があるのと同時に、初期投資と運用コストも考慮しなければならないことは周知の事実。テープでは、HDCAMならHDCAMテープ自身のコーデックしか持たないが、ファイルベースで素材のやりとりとなると、例えばMFXといったコンテナ内に、JPEG 2000、MPEG-2、MPEG-4 AVCといった様々なフォーマットが含まれ、統一化したフォーマットでのワークフローは放送局では確立していない。

そこでDigital Production Partnership (DPP)では、この夏、ファイルベースでのコンテンツのやりとりに伴う基本の仕様を提示することを計画している。DPPは、BBC、ITV、Channel 4、Channel 5とSkyが提携しており、相互間で扱われる基本仕様(HD)は、MXFラッピングのAVCI(AVC Intra)となる予定。

プロダクションでは、各撮影でデータ管理専門社とワークフローのコンサルタントを雇うためのコストがかさばるという。カメラやストレージといったハードウェア部分の価格はかなり下がってきているが、反面、今までになかったデータ管理にかかる費用が負担となり、現状は高価なプロセスである。ポストプロダクションでは、ファイルベース化に伴うシステムのグレードアップや新規購入、そしてストレージ拡張やリースにかける費用に関して、受注するプロジェクト予算に上乗せするといった自己負担を回避することも簡単には行かず、予算組みは至難の業となっている。 

Broadcastでは引き続き調査を行い、セクターごとに実際に購入した製品(価格を含めて)やファイルベース・ワークフローモデルをIBC開催後に発表する予定をしている。