アドビの社長兼CEOのシャンタヌ ナラヤン氏

アドビシステムズは10月26日、東京都内で事業戦略についての記者説明会を行った。アドビといえば、Premiere ProやAfter Effectsといった定番のビデオソフトをリリースしているお馴染みのメーカーだが、2009年にウェブ解析、計測、最適化テクノロジーを持ったオムニチュアを買収してからはWeb解析機能や最適化機能といったオンラインマーケティングソリューションも扱い始めている。Webコンテンツの制作だけでなく、そのメディアを生かすための広告戦略の解析まで広げたわけだ。ここで紹介することは直接ビデオに関わる話ではないが、コンテンツ制作ツールの隣で何が起きているのか、トレンドの1つとして参考にしてほしい。

デバイスやOSの複雑性に悩まされない

今回の事業戦略記者説明会には、アドビのCEOのシャンタヌ ナラヤン氏が登壇した。ナラヤン氏はまず最初に、従来の新聞、雑誌、書籍、テレビといった従来のメディアから、新しいデジタルメディアへ革命が起こっているという話で口火を切った。ここでいうデジタルメディア革命とは、スマートフォンやタブレットデバイスといったプラットフォームの多様化や、10月3日に発表されたクリエイター向けクラウド「Adobe Creative Cloud」のようにソフトウェアがクラウドで提供されるようになってきたことなどだ。

同時にビジネスのほうでも革新も起きている。消費者と企業を結ぶチャネルが複雑化してきていて、作成、管理、提供のすべてが変化してきいる。これまでにないほど複雑性が高まっている現状を説明した。

次に「コンテンツ制作」と「デジタルマーケティング」の2つの事業分野に分けてアドビの対応を紹介。「コンテンツ制作」については死角がないことをアピールした。アドビはすでに包括的なスイート製品を持ち合わせていることや、ポストスクリプト、PDF、Flashなど、どのようなフォーマットにも対応できること。これらはアドビ自身が標準規格を作ってきた優位性などをアピールした。

今年10月4日には単体のブラウザベースのHTML5を可能にするPhoneGapの開発元であるNitobi社と、Webタイポグラフィーのイノベーター、Typekit社を買収して、モバイルアプリケーションやWebのクリエイティブをさらに強固なものにしたり、タブレットデバイス対応の写真管理/編集/共有サービスのAdobe CarouselやデジタルスケッチブックアプリAdobe Ideasを提供していることも触れた。

今年リリースを開始したDigital Publishig Suiteを使えば雑誌のようなタブレットで展開することが可能で、すでにいくつかの出版社がオンラインでコンテンツを公開して収益化を実現していることも紹介した。例として、ナショナルジオグラフィックス社やリーダーズダイジェスト社といった出版社はオンラインのアプリケーションのストアから製品を展開し、そのコンテンツで収益化していることを紹介した。一年以上前から取り組んでいて、すでに1,000以上のタイトルをリリースしているという。

ナラヤン氏は、「アドビはコンテンツビジネスに身を投じるつもりはありません。私どもの目指しているのは、コンテンツを作って、配信して、動かして、収益化されたいと思ってらっしゃる会社のパートナーになることです。アドビが得意としていたところをさらに有用活用していくという領域です」と述べた。

クリエイターとマーケッターの距離が短くなる

次に「デジタルマーケティング戦略」についてだ。従来型の広告宣伝がオンラインに移行してきて、このトレンドは加速してきている。同時に、マーケッターたちが消費者に到達するために使わなければならないチャネルの数というのも増えてきている。広告主の方たちにとってはどこに出稿するのかということをはっきり見極めならなくなってきていると語った。そこで、アドビは2年前にウェブ解析、計測、最適化テクノロジーの技術を持つオムニチュアを買収。続けて、コンテンツ管理ツールベンダーであるデイ・ソフトウェアも買収。広告主や広告を売るパブリッシャー、マーケッターのためのエンタープライズアプリケーションをラインナップした。

顧客には世界の有数な企業ブランドが含まれていて、メディアの中でもトップ10のうち7社。そして、ディテーラーのうちトップ10のうち8社がアドビのオンラインスイートを使っているという。また、トップ5の銀行のうち4社がアドビをソリューションを標準化していると紹介した。

FacebookやYouTube、Twitterのモニタリング、測定、収益化を実現する「Adobe SocialAnalytics」のデモも行われた。Adobe Digital Marketing Suite, powered by Omnitureを構成する新製品として提供されるものだ。

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アドビ代表取締役社長 クレイグ・ティーゲル氏

最後に、アドビ代表取締役社長 クレイグ・ティーゲル氏は、「アドビはコンテンツの作成からマネージネント、収益化に結びつけるというところまですべてのテクノロジーを持っています。デバイスもソーシャルネットワークも、モバイルのプラットフォームもどんどん増えています。これはアドビにとっては大きなチャンスです」とデバイスやOS、ビジネスモデルの複雑な時代が逆に好機であることをアピールした。

アドビの戦略を聞いていると、これからはクリエイターとマーケッターが今まで以上に密接になって広告を展開していく様子が見えてくる。クリエイターはより消費者に密接したコンテンツ作りが求められてきそうだ。今回の記者発表からクリエイティブとデジタルマーケティングの距離がなくなってきていることを感じていただければ幸いである。

(和田学)