アドビは4月23日、Premiere ProやAfter Effectsの最新版「CS6」や映像業界向けのスイート製品「Adobe Creative Suite 6 Production Premium」を発表した。新バージョンはDSLRやRAWワークフローといった最新技術への対応や、より高いパフォーマンスを発揮できるように改善されている。また、一部のソフトでは映像業界以外の人たちが映像制作ソフトに触れる機会が増えてきたことに対応するような幅広い改善が行われている。ここでは新しくなったアドビのビデオ・オーディオ制作ツール群について詳しく紹介をしよう。

テープレスやカラーグレーディングに対応した新ワークフロー

まず最初に最新技術に対応したCS6のビデオ・オーディオ制作のワークフローから紹介しよう。CS6では収録支援ツールの「OnLocation」に代わって、ファイルベースのフォーマットの管理ツール「Prelude CS6」が加わった。メモリカードからハードディスクへのバックアップを行ったり、必要なカットをPrelude CS6の中で編集してPremiere Proなどの外部の編集システムと連携させてることができる支援ツールだ。ユーザーインタフェースも非常にシンプルで、32ビット環境に対応するので高性能なPCを必要としないのも特徴だ。

制作ツールには新しくカラーグレーディングツールの「SpeedGrade CS6」が加わった。CS5.5で色補正を行う場合は、After Effectsに搭載されているカラーコレクションツールを使うという場合も多かったが、CS6ではSpeedGradeを使ったRAWフッテージやHDRフッテージにも対応するというワークフローも選択可能と幅広くなった。

CS5.5のワークフロー

CS5.5のワークフロー

新しくなったCS6のワークフロー

新しくなったCS6のワークフロー

Prelude CS6

収録と編集のワークフローをつなぐファイルベース収録支援ツール「Prelude CS6」。シンプルなユーザーインタフェースが特徴だ

初心者にわかりやすいインタフェースと数々の機能強化を実現したPremiere Pro CS6

次にPremiere Pro CS6を紹介しよう。もっとも目を引く改善点は標準のワークスペースが変更されたことだ。Premiere Pro CS5.5の「編集」のワークスペースはいろいろなボタンやコマンドが並んでいて、初めての人が使うには敷居が高かったり、使われていない無駄なスペースもあった。Premiere Pro CS6では、標準の「編集」のワークスペースがビデオソフトに慣れていない人でもわかりやすいようなシンプルなユーザーインタフェースに変更されている。基本の画面構成がソースとプログラムを上に2つ大きく表示するようなレイアウトとなり、印象としてはFinal Cut Proの画面に近くなったような感じになった。

Premiere Pro CS5.5のワークスペース

Premiere Pro CS5.5のワークスペース

Premiere Pro CS6のワークスペース

Premiere Pro CS6のワークスペース

キーボード操作による編集も強化された。Premiere Pro CS5.5のトリムの機能はボタンで1フレーム単位や5フレーム単位で調整したり、数値入力をする必要があったが、Premiere Pro CS6では他社の編集ツールと同じように編集点をダブルクリックすると直接トリミングする画面が現れ、J-K-Lキーボードショートカットでトリミングも可能となった。キーボード中心で作業をしたいという人には待望の機能だろう。

プロジェクトパネルも強化された。クリップのサムネールを直接表示できるようになり、わざわざソースモニターパネルを使ってクリップを開かなくてもJ-K-Lキーボードショートカットやスペースキーによるショートカット、カーソル操作によるスクラブで確認することができるようになった。

プロジェクトパネル内でクリックのサムネールが直接表示できるようになった

プロジェクトパネル内でクリックのサムネールが直接表示できるようになった。サムネールをスクラブさせて内容を確認することも可能だ

Mercury Playback Engineも強化された。Mercury Playback Engineとは、対応GPUや64ビット環境の大容量メモリ、マルチコアプロセッシングを活用した強力な映像再生処理エンジンのことだ。しかし、Premiere Pro CS5.5まではサードパーティのハードウェア製品との連携がしづらいところがあり、Premiere Proがリリースされてから数ヶ月経たないとAJAやBlackmagic Design、Bluefish444、Matroxといったサードパーティは対応ドライバをリリースできなかった。Premiere Pro CS6では、「Adobe Mercury Transmit」と呼ばれる新しいプラグインアーキテクチャを搭載することで、新バージョンの出荷の段階とほぼ同時のタイミングでサードパーティのボードメーカーからドライバが提供できるようになった。

プログラムモニタやソースモニタをフルスクリーン表示もできるようになった。Premiere Pro CS5.5では、映像のみを表示したくてもユーザーインタフェースのウインドウが最大化した状態にしかならなく、フルスクリーン表示はできなかった。映像だけを表示したい場合は、外部のシステムを使用するしか方法がなかった。Premiere Pro CS6では、PCのプライマリモニタ上でプログラムモニタかソースモニタをフルスクリーン再生ができるようになった。

また、Premiere Pro CS5.5では再生中にマウスでプログラムモニタのサイズを変更したり、フルスクリーンに切り替えを行うと再生が止まっていたが、サポート対象のグラフィックスカードを搭載したPremiere Pro CS6では極端に負荷がかからない限り、再生は止まらずに映像の切り替えや設定の変更ができるようになった。例えば、3ウェイカラー補正を再生を止めずにリアルタイムに適用するといたことも可能だ。

Premiere Pro CS5.5で「フレームの最大化」を選択した状態

Premiere Pro CS5.5で「フレームの最大化」を選択した状態。フレームを省いて再生を表示することはできない

Premiere Pro CS6でフルスクリーン表示を行った状態

Premiere Pro CS6でフルスクリーン表示を行った状態

そのほかにも、Premiere Pro CS6からPhotoshopやAfter Effectsでお馴染みの調整レイヤーがPremiere Proのタイムライン上で利用できるようになった。また、非常にビットレートの高いフォーマットのデジタルシネマカメラARRI Alexaで撮影されたARRI RAWやRED ScarletやEpic、キヤノンのEOS C300などのビデオ形式をネイティブでサポートしている。マルチカム編集もPremiere Pro CS5.5では最大4台のカメラによるマルチカメラフッテージしか扱うことができなかったが、Premiere Pro CS6ではPCによる性能の制約のみに改善されている。

強力なRAMプレビューを搭載したAfter Effects CS6

After Effects CS6の最大の特徴はスピードと応答性を高めた「グローバルパフォーマンスキャッシュ」と呼ばれる機能の搭載だ。「グローバルRAMキャッシュ」、「永続的ディスクキャッシュ」、「新しいグラフィックパイプラインの技術」で構成されている機能のことだ。

「グローバルRAMキャッシュ」は利用できるメモリの範囲内において、After Effectsプロジェクトのコンポジションやレイヤーのフレームが以前にレンダリングされキャッシュされたフレームと一致する場合、それらのフレームはすべて再レンダリングの必要はないという機能だ。レイヤーのオンやオフをしようが、アンドゥーを繰り返そうが、RAMプレビューを一度行ったところはRAMが許す限り、2度と行う必要がなくなった。

「永続的ディスクキャッシュ」は以前に作業したプロジェクトを再度開いても、前回レンダリングしたキャッシュが維持される機能だ。プロジェクトをいったん終了して、次の日や別の機会に再開した場合でも、ディスクキャッシュの情報が残っていれば、ただちに再生できるようになった。

「新しいグラフィックパイプラインの技術」は画像の描画時にOpenGLやPCのビデオカードをより効率的に利用できる機能だ。サイズの大きなコンポジション、レイヤー、フッテージビューワを使用する際もメモリキャッシュされたフレームがスムーズに再生されるようになった。

グローバルパフォーマンスキャッシュは一見地味な機能のように聞こえるが、After Effectsを実際に使っているユーザーからすればかなり歓迎される機能だろう。

3Dも強化された。従来のAfter Effectsに搭載されている「モーショントラッキング」は、2次元の縦横方向のトラッキングをするための機能であり、奥行き情報を分析できなかった。新しく搭載された「3Dカメラトラッカー」は、映像中の特徴点を数百箇所自動で抽出し、それを元にカメラが3次元空間上でどのような動きをしているのかを分析できる機能だ。三次元の奥行き情報を持ったトラッキングができるようになったわけだ。

3Dカメラトラッカー

3Dカメラトラッカーは自動的にシーンを解析し、シーンを撮影した実際のカメラ位置とレンズの種類を抽出して、3Dオブジェクトを2Dフッテージにスムーズに統合できるようになる機能だ

3Dカメラトラッカー スクリーン置き換え例

3Dカメラトラッカーを使えばカメラがゆれているようなショットであっても映像の中の一部のものを置き換えるようなことが手間をかけずに実現できるようになる。画面の例ではスクリーンを置き換えている

レンダラーに「レイトレース3D」が追加された。従来の「クラシック3D」ではできなかった反射や写り込みのような表現がAfter Effects CS6のレイトレースレンダラーで実現可能となった。また、レイトレース3Dを選ぶと「押し出し」や「べベル」をテキストやシェイプレイヤーに設定できるようになる。立体的なテキストやロゴが、After Effects CS6の中で作成しやすくなった。

レイトレーシングによるレンダリング

レイトレーシングによるレンダリング。反射、屈折、環境マップなどがサポートされている

押し出す前の状態

押し出す前の状態

押し出しやベベルを適用した状態

押し出しやベベルを適用した状態

マスクの境界線のぼかしも改善された。After Effects CS5.5のぼかしの幅は全体に対して均一で、影の先頭のほうは大きくボケて後のほうはぼけないような設定するのは面倒だった。After Effects CS6ではポイントごとにぼかしの幅が定義できるように改善された。

マスクの境界線のぼかしが可変線幅に対応

マスクの境界線のぼかしが可変線幅に対応するようになった

CS6では新しくプラグインが追加されたり、既存のプラグインが強化されている。ローリングシャッターの影響を除去できる「ローリングシャッターの修復」が追加された。「ローリングシャッタレート」や「スキャン方向」を「上>下」または「左>右」などから選ぶことができる。

また、バンドルされているプラグインのCycoreFX HDスイートが8ビット/チャンネルから73のHDプラグインが16ビット/チャンネルカラーをサポートし、35のプラグインで最大ダイナミックレンジの32ビット不動小数点をポートするように変更されてハイクオリティな結果を得ることができるようになった。

CycoreFX HDは16ビット/チャンネルカラーや32ビット不動小数点をポート

CycoreFX HDは16ビット/チャンネルカラーや32ビット不動小数点をポートするようになった

外部との連携も強化された。アドビは昨年秋にオートマチックダック社と提携を結んだ。その結果、CS6ではオートマチックダック社のプロジェクトインポートプラグイン「Pro Import AE」がAfter Effectsに標準で搭載されるようになった。AvidとAfter Effects、Final Cut ProとAvidなどAAF/XML/OMFで編集データを共有することができるようになった。英語のインタフェースのままだが、細かい設定ができるようになっている。

「Pro Import AE」を搭載

標準でプロジェクトインポートプラグイン「Pro Import AE」を搭載するようになった

新しく追加されたカラーグレーディングツール「SpeedGrade CS6」

アドビは昨年秋、映画/ビデオ作品向けデジタルカラーグレーディングの分野でツールを提供するIridas社の一部資産を取得したことを発表した。そのIridas社のカラーグレーディングツール「SpeedGrade」が、技術を取得してかわずか半年という短期間でCS6に実装された。

カラーグレーディング専門のパネルを採用した非常にシンプルなユーザーインタフェースが特徴だ。After EffectsやPremiere Proなどのユーザーインタフェースとまったく異なった概観で提供されるので、最初は戸惑う人も多いかもしれない。

内部処理も含めてすべて32ビット不動小数点の色深度に対応していることも特徴だ。内部にはMercury Playback Engineとは異なるLumetri Deep Color Engineと呼ばれるエンジンを搭載しており、GPU処理に最適化された64ビットのネイティブの映像処理エンジンによる高速処理が可能となっている。例えばARRI RAWのデータであっても高速に処理が行われて、快適にカラーグレーディングの作業をすることが可能だ。ただし、Lumetri Deep Color Engineのパフォーマンスを発揮するためにはNVIDIAのQuadro4000、5000、6000などのアドビから認定を受けたグラフィックカードを搭載する必要となる。

DSLR、red、ARRI RAW、Phantom、Weisscam、QuickTime、Targa、TIFF、DPS、openEXRといった幅広いフォーマットに対応いているのも特徴だ。もちろん、Premiere Pro CS6、After Effects CS6、そして、Photoshop CS6といった製品との連携も可能となっている。

独特のインタフェースを採用したSpeedGrade CS6

独特のインタフェースを採用したSpeedGrade CS6

主要5本のツールをまとめたProduction Premiumがお買い得

新しく登場したPrelude CS6とSpeedGrade CS6は単体でも購入可能だ。それぞれのアドビストア提供価格は

  • After Effects CS6:13万1,250円
  • Premiere Pro CS6:9万8,175円
  • Audition CS6:4万0,950円
  • SpeedGrade CS6:13万1,250円
  • Prelude CS6:4万7,500円

となっている。Prelude CS6はライセンス版のみの提供となっている。

上記の5本とそれ以外のツールをまとめたCreative Suiteの価格は

  • Creative Suite CS6 Production Premium(Photoshop CS6 Extended、Illustrator CS6、Flash Professional CS6、After Effects CS6、Premiere Pro CS6、Audition CS6、SpeedGrade、Prelude、Encore CS6、OnLocation CS5):24万9,900円
  • Creative Suite CS6 Master Collection(Acrobat X Pro、Photoshop CS6 Extended、InDesign CS6、Illustrator CS6、Dreamweaver CS6、Fireworks CS6、Flash Professional CS6、After Effects CS6、Premiere Pro CS6、Audition CS6、SpeedGrade、Adobe Prelude、Encore CS6、OnLocation CS5):33万4,950円

となっている。製品提供は5月11日を予定している。