アルペンスキー世界選手権は白いサーカスと呼ばれているとおり世界中を転戦する。開幕戦はオーストリア・シュラードミングで開催され、ホスト放送局のORF オーストリア国営放送では競技始まって初めての、選手からの視点ショット(POV)を試みた。

選手のパフォーマンスに影響を及ぼさないことは勿論、軽量でサイズが小さく、そして何よりも安全面を考慮し、アルペンW杯において過去にPOVは実現したことがなかった。

ワイヤレスカメラシステムを開発するに当たり、ORFで多様なシステム実績を持つ、独Riedel Communication(リーデル)社が担当することになった。リーデルは、スカイダイビングの最高高度記録を持つ、オーストリアのスカイダイバーフェリックス・バウムガルトナー氏に取り付けたライブ映像のワイヤレス伝送システムの実績のもと、新しくスキー競技向けにワイヤレスカメラシステムを開発した。

同社が特許を持つワイヤレスカメラ”RiCam”をストラップに組み込み、スキー競技選手のゴーグルに装着して、選手の視点からのダイナミックなライブ映像を実現した。リーデルではこのスキー競技でのPOV用システムの開発に18か月以上の時間を費やしたという。開発期間では、マルセル・ヒルシャー選手(3日前に行われた男子アルペン回転で優勝。今年に入ってワールドカップ大会で4度も回転競技で優勝している)に何度も実競技でトライアルを行ってもらった。

ゴーグルに取り付けるRiCamシステムは、ワイヤレスカメラにトランスミッタ、電源とストラップを含めて64グラムという軽量を実現した。カメラ部位とストラップの間には空気力学を取り入れ、猛スピードで滑降する際の風圧に耐えられる構造となっている。特殊カーボンファイバ製ウィングでカメラ部位を覆い、スラロームのゲートに当たっても支障ないように保護を施した。リーデルでは、このカーボン製カメラプロテクターが開発において一番試行錯誤した部分だという。

FIS(国際スキー協会)やORFは、この初の試みに対しての期待感は高く、POVではなくライブシーンとして、スタート地点にいる選手の鼓動からフィニッシュ直後の選手のインプレッションまでの劇的なシーンを生で視聴者に届けられることに興奮したという。

このカメラは回転旋回競技(スラローム)、ジャイアントスラローム大回転や複合、オーストリアチームのイベントのライブ収録に使用された。

(山下香欧)