アドビ システムズは2017年4月20日、Creative Cloudのビデオとオーディオ製品のアップデートの提供を開始した。今回のアップデートの発表に先立ち、Premiere ProやAfter Effectsに新しく搭載した機能を紹介する説明会が東京・大崎のアドビのオフィスで行われた。そこで紹介された注目の機能をさっそく紹介しよう。

デモを担当したアドビ システムズの古田正剛氏

■テキストアニメーションをPremiere Proで実現

今回のアップデートの特徴の1つは、Premiere Proに新しいタイトルツールを搭載したことだ。従来のPremiere Proには、テロップ制作用の機能として「タイトルツール」を搭載していたが、アップデートをしたPremiere Proでは「グラフィックスツール」と呼ばれるタイトルツールを新しく搭載した。Premiere Proには2種類のタイトルツールを搭載する形になる。新しく搭載したグラフィックスツールは、プログラムモニターに直接文字を書き込むことができる。そのつど別ツールを開かなくても作業が可能で、使い勝手が向上している。

画面を直接クリックすると赤い枠が表示される。ここに文字を入力することができる

入力文字に関しても、横書きだけではなく日本特有の縦書きにも対応。従来のタイトルツールでも縦書きはできたが、句読点やかぎかっこの処理はきれいではなかった。新しいタイトルツールでは、PhotoshopやIllustratorの縦書きのような美しい形を実現できるようになっている。また、テキストのフォントの選択や大きさや色、エッジ、シャドウなどが設定可能。位置、スケール、アンカーポイントや、文字間隔、トラッキングの部分も調整可能。

縦書きや横書きに対応。位置、スケール、アンカーポイントだけではなくて、文字間隔、トラッキングの部分も調整できるようになっている

アドビが2017年4月10日に発表したオープンソースのフォントの「源ノ明朝」に関してもCreative Cloudのサービスとして使えるようになっている。なお、今回のアップデートでは従来のタイトルツールも搭載されているので、以前のバージョンのプロジェクトを開くといったことも可能だろう。

書体のパネルから源ノ明朝が直接選択可能に

今回のアップデートでは、テキストアニメーションをPremiere Proの中に統合した「エッセンシャルグラフィックスパネル」と呼ばれる機能を搭載したことも大きな特徴だ。エッセンシャルグラフィックスは、誰でも簡単に文字のアニメーションを実現できる機能だ。同機能を選択すると「参照」と「編集」の選択になり、「参照」を選択するとモーショングラフィックスのパターンが表示される。プリセットは、キャプション、サブタイトル用のテンプレート、クレジット用などが用意されている。

画面左がエッセンシャルグラフィックスのモーショングラフィックスのパターン

エッセンシャルグラフィックスパネルは、プリセットを選択してタイムラインに追加するだけでモーショングラフィックスを適用することができる。フォントが不足する場合は、フォントを1つのライブラリーで提供するTypekitであれば同期も自動的に行われる。モーショングラフィックステンプレートは、Premiere ProだけではなくAfter Effectsとの連携も可能となっている。また、テンプレートは保存可能で、ほかのユーザーと共同で作業を進めるということも可能。

ライブラリーを使った際にフォントがない場合は、「このプロジェクトは、現在このコンピューター上で利用できないフォントを使用しています」と警告が表示される。Typekitのフォントであれば、「Typekitから入手」で問題を解決することができる

これまでテキストアニメーションを実現したい場合は、After Effectsを使いこなしているモーショングラフィックスクリエイターに依頼をするという流れで行われた。しかし、エッセンシャルグラフィックスパネルのテンプレートを使えば、簡単なモーショングラフィックスをPremiere Proで作ることも可能になった。編集側でカバーできる作業領域が広がったという意味では、大きな改善点と言えるだろう。

■Premiere Proにエッセンシャルサウンドパネルを搭載

Premiere Proのオーディオ機能も強化された。これまでPremiere Proには、オーディオ編集ツールとして「Audition」が別ソフトとして用意されており、同ソフトの中にはオーディオミキシングタスクを行うツールセット「エッセンシャルサウンドパネル」という機能が搭載されていた。今回のアップデートでは、エッセンシャルサウンドパネルがPremiere Proの中に統合されるように変更された。Premiere Proに搭載されたエッセンシャルサウンドパネルを選択すると、人の声、BGM、環境音などに最適化されたエフェクトを選択ができるようになる。

クリップタイプの選択画面。「会話」「ミュージック」「SFX」 「残響効果」などがある

人の声を選択するとプリセットの選択になり、女性の声、男性の声などが用意されている。これらのプリセットを選択するだけで音のエフェクトがかけられるようになる。たとえば男性の声を選択すると、それに合わせてボーカル強調、グラフィックエコライザ、ダイナミクスといった複数のパラメーターがエフェクトに追加され、簡単に音声の調整が可能になる。また、ラウドネスといったそれぞれの項目で音の大きさを一致させたり、修復するチェックボックスも利用することができる。

女性の声や男性の声などさまざまな種類が用意されている

これまでのPremiere Proでは、サウンドの編者をAuditionとの連携によって行われいた。しかし、エッセンシャルサウンドパネルを使えば、ある程度の音の編集をPremiere Proの中だけで完結させることができるようになる。先ほどのエッセンシャルグラフィックスパネルがモーショングラフィックスのプロではない人でもPremiere Proの中でテキストアニメーションを実現できるという機能だったが、エッセンシャルサウンドパネルはある程度の音の編集をPremiere Proの中でワンクリックやツークリックだけで済んでしまうというものだ。こちらもPremiere Proの作業領域を広げる強力な改善といえるだろう。

■XAVCの再生パフォーマンスの改善とXAVC HLGの読み込みと出力を実現

XAVCの4K60pのパフォーマンスが改善された。アドビによると、国内では4Kの番組編集の現場でPremiere Proが多く使われているという。ただし、4Kの番組編集のユーザーからは、カットが変わるタイミングでコマ落ちが発生することがあったり、その前後で動きがスムーズではないことがあるという問題が指摘されていた。そこで、XAVCの4K60pの再生パフォーマンスを上げてほしいという要望が多かったという。こうした声に応える形でXAVCの4K60pの再生パフォーマンスの改善が行われたとのことだ。実際に、4096×2160、毎秒59.94コマのPremiere Proのタイムラインで再生するデモが行われたが、非常にスムーズに再生をしていた。「ハイエンドのXeonプロセッサを2基搭載したワークステーションであればXAVCの4K60pを2ストリーム再生することができる」とアドビはコメントし、Premiere ProでXAVCの4K60pの編集がさらにしやすくなったことをアピールしていた。

4096×2160、毎秒59.94コマのPremiere Proのタイムラインを再生

HLGの読み込みとエクスポートにも対応するようになった。これまでもPremiere Proは、PQ方式のHDRコンテンツの編集、出力、HDR10形式でのHDR出力に対応していたが、今回のPremiere Proのアップデートでは、HLG方式のHDRにも対応した。カメラ自体にHLGのメタデータがついた形で記録されているXAVCのファイルを読み込み、HDRファイルとして使うことももちろんできるが、Log形式、RAW形式で記録された階調性の高い映像を使って、HDR化も可能になった。XAVCの4K60pのパフォーマンスの向上や、HLG HDR対応のの2つの機能強化は、日本の放送局のユーザーからのリクエストを反映した新機能や機能強化とのことだ。

ビデオの調整項目には、「ハイブリッドログガンマ」という設定項目が新たに追加された

■Premiere ProとAdobe Stockが連携を強化

Adobe Stockとの連携強化も強化された。Adobe Stockはアドビのライブラリサービスのことで、フォトやビデオ、グラフィックス素材の提供が行われている。動画素材であれば300万点以上の素材がAdobe Stockで提供されている。従来のAdobe Stockの動画素材は、いったんプレビューファイルをダウンロードしてみないとどのような内容の素材なのか確認ができなかった。今回のPremiere Proのアップデートでは、Premiere Proのパネルの中のサムネールをホバースクラブすることで中身が確認することができるように変更された。

Adobe Stockの内容をPremiere Proのパネルの中からホバースクラブで確認可能になった

また、今までAdobe Stockに素材をアップロードする際は、ブラウザの中からアップロードする形で行われていた。今回のアップデートでは、Premiere Proの書き出しパネルからAdobe Stock側に直接書き出すことも可能となった。

「書き出し設定」パネルにAdobe Stockにログインするための機能が搭載された

Adobe Stockとして素材を販売するときに鍵となるのは検索のメタデーターの設定だ。今回のPremiere Proのアップデートでは、アップロードした動画に対して自動的にキーワードが追加される機能を搭載した。実際に女性の映像をアップロードをしたデモでは、「女性」「浜」「若い」「海」「美しさ」というキーワードが自動的に追加されるところを実演した。キーワードの自動追加は、アドビの新ラーニングAIの機能を使って実現したもので、アップロードした動画のサムネールに含まれているものを分析して、自動的にタグを生成するという仕組みになっているとのこと。

サムネールの画像に含まれている内容を分析して自動的にタグを生成してくれる

■「VR投影法」を搭載してVRワークフローへの対応を強化

VRビデオの強化も行われた。VRビデオは、通常、正面をいったんきめてしまうと方向の変更は難しかった。そこで、今回のアップデートでPremiere Proに「VR投影法」と呼ばれるエフェクトが追加された。VR投影法を使用すると、正面の位置をパン、チルト、ロールといった形で指定をすることができるようになる。

また、 アンビソニックのオーディオファイルの読み込みと書き出しに対応した。これにより、撮影の現場で収録された音の位置を認識した形で書き出すことが可能となった。

Premiere Proに「VR投影法」というエフェクトが追加された

VR投影法エフェクトの設定。「パン」「チルト」「ロール」などの設定が可能

■フレームの中の手振れを自動的に補正するAfter Effectsの新プラグイン「カメラシェイクデブラー」を搭載

After Effectsに新プラグイン「カメラシェイクデブラー」が搭載された。カメラシェイクデブラーは、フレームの中の手振れを自動的に補正する機能だ。手持ちで横歩きをしたような手振れが激しい素材の場合、Premiere Proの「ワープスタビライザー」を使って滑らかな動きにすることは可能であったが、1コマ1コマ単位でブレが発生している場合は修正することはできなかった。新しく搭載したカメラシェイクデブラーを使うとコマごとにシャープにすることが可能になる。カメラシェイクデブラーはAfter Effectsのみのリリースで、Premiere Proには搭載されていない。

新しく搭載されたフレームの中の手振れを自動的に補正する「カメラシェイクデブラー」

左がカメラシェイクデブラーをかける前の状態で、右側がカメラシェイクデブラーをかけた状態。映像がブレていたものが非常に鮮明になっている。カメラシェイクデブラーは、映像の各コマの動きを判断して、手振れを補正して精細化するいったことをしているとのことだ。

左がデブラーをかける前の状態で、右側がデブラーをかけた状態

■国内では4月20日午前10時よりアップデートの提供を開始

このほかにも、歩行の足のアニメーションを作れる「キャラクターアニメーター」という機能も搭載している。こちらの機能は、NewTekのIPプロダクション向けオープンプロトコルネットワークデバイスインターフェイス「NDI」にも対応するという。

映像業界を取り巻く環境は常に変化が起き続けていて、HDRやVRなどの新しい技術が誕生したり、スマートフォンやタブレットなどのメディアでは今まで以上にビデオが利用されてきている。今回のアップデートは、そういったHDR、VR、スマートフォン、ソーシャルメディアなどの映像業界のホットな技術に対応したり、初めて映像編集をするエンドユーザーから4K編集を普段から行なっている放送局までをカバーするアップデートを実現したものとのこと。アドビは今回のアップデートの様子を「全方位進化」という言葉で紹介をしていた。

ここまで紹介をしたCreative Cloudのアップデートは、4月20日午前10時より提供を開始しているので、Creative Cloudのユーザーはさっそく新しい機能を体験してほしい。